第27章~旬サイド~
『今日はみんなからの色紙を持ってきたのよ』
先生は気を取り直すように言い、紙袋から色紙を一枚取り出した。
そこにはカラフルなペンで俺へのメッセージが書かれていた。
早くよくなってね!
がっこうに来たらたくさんあそぼう!
みんなまってるよ!
そんな、前向きな言葉で埋め尽くされている。
色紙の真ん中には俺の似顔絵が描かれていた。
『この絵……』
『クラスで絵がとても上手な2人が描いてくれたのよ』
『美代ちゃんと浩太くん?』
『そうよ。新くんから聞いたの?』
俺は素直に頷いた。
色紙に描かれている絵は俺そっくりだ。
2人は本当に絵がうまいみたいだ。
『それならいつ学校に来てもすぐ仲良くなれそうね』
先生の嬉しそうな声。
だけど……。
見たこともないクラスメートからの言葉を読んでも、俺はなにも感じられなかったのだった。
それからも入院生活は続き、2年生に上がる春のころ。
俺はようやく退院が許された。
何度か自宅に戻ってはいたけれど、ちゃんと退院という名目がついたのはこれが初めての経験だった。
病室で着替えをして荷物をまとめている間も、まだ信じられなかった。
『ねぇ、僕はもう家に帰れるの?』
準備をしているお母さんに何度もそう質問して、何度も『そうよ。よかったわね』と言ってもらえても、まだ実感はわかないままだった。
退院前、両親は担当の先生から日常生活の注意点を聞いていた。
激しい運動とか、しっかりした睡眠を取ることとか、あまり食べない方がいい添加物とか。
俺にとっては理解できない、難しいことばかりを教えられていた。
両親はそれを熱心に聞き、病気についての冊子を貰い、ようやくその時間がやってきた。
俺は両親に挟まれるようにして病室を出た。
廊下には新が待ってくれていて、『おーい!』と、手を振っていた。
思わず駆け出しそうになったけれど、思いとどまった。
さっき先生に言われたばかりだ。
走ったり飛んだりしちゃいけません。
無理なことをすると、また入院することになるからねと。
その言葉を思い出したから、俺はゆっくり歩いて新に近づいた。
『退院おめでとう!』
新に言われて俺は一瞬で破顔した。
嬉しくて仕方なくて、新に抱きついた。
『ありがとう!』
ここから、俺の人生は再スタートを切った。
2年生からも新と俺は同じクラスになれるよう、先生ははからってくれている。
やっと学校へ行ける。
新と一緒に勉強ができる。
それは夢のような現実だった。
登校初日はさすがに緊張した。
『大丈夫?』
登校途中新が何度も声をかけてくれて『大丈夫だよ』と、何度も返事をした。
始めて沢山の生徒たちと一緒に学校へ行った。
校舎に入ると真新しいシューズが床にこすれて音を立てるのだと知った。
2年生の教室は1階だったから、階段を使うことはなかった。
2年1組と書かれたプレートの前に立つと、俺は深呼吸をした。
今までの人生でこんなに緊張したことはないってくらい、緊張していた。
そんな俺を見て新はクスクス笑う。
そして2人で一緒に教室に入った。
『新おはよ!』
さっそく男の子が挨拶してきた。
新は慣れたように挨拶をして、それからその子に俺のことを紹介してくれた。
『すっげー! 本当に同じ顔だ!』
男の子が興奮してそう言ったことで、俺と新はあっという間にクラスメートたちに囲まれていた。
身長も同じ。
声も同じ。
顔も同じ。
俺たちにとっては当たり前だったことが、みんなにとってはとても新鮮だったみた
いで、一躍有名人にでもなった気分だった。
でも、病院の先生に言われたことは絶対に守らないといけない。
俺は体育は全部見学することになっていた。
時々他のクラスの子がそんな俺を見て不思議そうにすることもあった。
でも、同じ1組の子は何も言わない。
きっと先生が先に説明してくれていたのだろう。
変わった子だと思われないか心配していたから、ひとまず安心した。
でも問題は体育の授業だけじゃなかった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます