第25章~旬サイド~
次に目が覚めた時、俺は病院のベッドの上だった。
ピッピッと小さな機械音が聞こえてくるから首を曲げて確認してみると、ベッドの横にはいろんな機械が設置されていた。
それが自分の心音や酸素量などを示しているものだとは、わからなかった。
『旬、気分はどう?』
ぼんやりとしていると隣りから声が聞こえてきて視線を向けた。
そこには両親の姿があって、2人とも目が真っ赤に充血していた。
『お母さん、お父さん……』
声がかれていてまるで自分のものじゃないみたいだ。
それに口には大きなマスクが付けられているみたいで、話しづらい。
『よかった。大丈夫そうね』
お母さんは俺の手を両手で包みこんで言った。
その目からポロッと一粒の涙がこぼれた。
それを見てもしかして2人とも沢山泣いたから、目がウサギみたいに赤くなってるのかな? と、気がついた。
そして泣いた理由はきっと自分にあるのだということも。
それから病室に白衣を着た先生がやってきて、俺の様子を確認した。
『ひと先ずは大丈夫そうですが、安静にしていたほうがいいでしょう』
この場で簡単な説明をしてから、医師は両親を連れて部屋を出ていってしまった。
途端に一人になって心細さが襲ってくる。
昨日の夜苦しくなったことを思い出して、涙が滲んできた。
またあんな風になるのかな?
苦しくなって、呼吸ができなくなったらどうすればいいんだろう?
でもここにはお医者さんがいるから、きっと治してくれるんだよね?
色々な疑問が浮かんできては消えていった。
それからお母さんが戻ってきて、ずっと俺と一緒にいてくれた。
そしてお昼になったときだった。
お父さんと一緒に新が来てくれたのだ。
新は俺とおそろいのランドセルを背負い、ニコニコと上機嫌で病室に入ってきた。
その姿を見てハッとした。
『今日から学校だった!』
大きな声を上げて上半身を起こす俺を、お母さんが慌てて押しとどめた。
『入学式してきたよ!』
新が嬉しそうに言い、鞄を開けてみせた。
中には沢山の教科書が入っていて、紙の匂いがした。
『入学式、僕も行きたい!』
『ダメだよ。入学式はもう終わったんだから』
新の言葉に俺の気持ちは急速にしぼんでいった。
パンパンに膨れ上がっていた期待が、一瞬にして割れてしまった感じだ。
泣きそうになっている俺を見て、お母さんが手を握り締めてくれた。
『これから、ここで入学式しようか』
提案したのはお父さんだった。
俺はパッと顔をあげて目を輝かせた。
『ここで?』
『あぁ。旬のための入学式だ』
そう言ってもらえて本当にうれしかった。
俺だけの入学式だなんて夢みたいだった。
担当の先生も了承してくれて、看護師さんたちも俺の病室に集まって、みんなで拍手をしてくれた。
『新入生の森戸旬くん』
お母さんが俺の名前を呼んで、俺はベッドの上で背筋を伸ばして右手を大きく上げた。
『はいっ!』
元気に返事をすると少し胸の辺りが痛んだけれど、それも気にならないくらい嬉しかった。
『入学おめでとう』
みんながお祝いしてくれた最高の入学式だった。
それからお父さんが持って帰ってきてくれた教科書を、新と一緒に開いてみた。
簡単な文字なら読めたけれど、まだまだ難しい。
早く学校で勉強してみたいなぁ。
そんな期待を膨らませたのだった。
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