第24章~旬サイド~

俺の名前は森戸旬(モリト シュン)。



誕生日は7月3日の午前3時5分。



それから4分ほど遅れて新が生まれた。



そう、俺たちは一卵性の双子なんだ。



遊ぶことも学ぶこともずっとずっと新と一緒だった。



たった4分差で生まれた弟だから『お兄ちゃん』と呼ばれることがなんだかくすぐったくて、俺たちはお互いのことを名前で呼び合っていた。



幼稚園も同じ、小学校も同じ。



『黒いランドセルがいい!』



売り場で新がそう言うから、俺も『黒がいい!』と、両親にねだった。



どこへ行くのも一緒。



服も靴も一緒。



2人で外へ出れば可愛い可愛いとはやしたてられて、それが嬉しかった。



これからもきっとそう。



小学校に上がったからって俺たちの関係は変わらない。



だって双子だから。



他の誰よりも繋がっていると感じられるから。



『明日から小学校だね』



すでに電気が消えた部屋の中。



隣りの布団から新が声をかけてきた。



『そうだね。部屋も、これからは自分たちの部屋になるんだ』



俺はウキウキとした気分で言った。



1年生になるってすごいことだ。



今までお父さんたちと一緒に寝ていたけれど、今日からは違う。



俺たちは2人だけの部屋を手に入れた。



当時幼かった俺たちにとって、6畳の部屋でも随分と広く感じられた。



まるで立派な秘密基地を与えられたようで、なかなか寝付くことができなかった。



『勉強頑張ろうね』



『うん!』



俺たちは布団から手を出して、握り合った。



明日が楽しみだね。



そう言っていたのに……。



それは夜中のことだった。



突然息苦しさを感じて俺は目を開けた。



息を吸いこもうとしてもうまくいかない。



布団を蹴飛ばして無理やりパジャマを脱いで、それでも空気が入ってこない。



俺は隣で眠っている新に手を伸ばし、その肩を必死で叩いた。



新は不機嫌そうな声を上げたが、目を覚ましてくれた。



『旬?』



そして俺の異変にすぐ気がついてくれたんだ。



『旬どうしたの?』



俺は答えられない。



ただ息がしたくて、必死で手を伸ばした。



その手はなにも掴むことができず、空中を彷徨うばかり。



こんなことになったのは初めてで、怖くて涙があふれ出した。



『お母さんお父さん起きて!旬がおかしいよ!』



部屋から飛び出した新が叫ぶのが聞こえてくる。



両親が駆けつけてくれた時には本当に死んでしまうんじゃないかと思って全身が震えていた。



『旬、声が聞こえてるか!?』



お父さんの言葉に頷く。



お母さんが近くで救急車に電話をしている。



新は恐怖から泣きじゃくっている。



そんな光景が急速に遠ざかっていく。



目の前に真っ白なフィルターをかけられたように意識が遠ざかって行った……。

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