第22章~結子サイド~

「これからどうする?」



気を取り直してあたしは言った。



C組へ戻ることでなにかがわかるかと思っていたけれど、懐かしい記憶がよみがえってきただけだった。



「ちょっと、新の机を見させてもらおうよ」



そう言ったのは若菜だった。



「勝手に確認していいのかな?」



あたしは首をかしげてそう言ったが、新が死んでから荷物はすべて持ち帰られているはずだ。



机はまだそのまま残っているけれど、中は空っぽだろうと推測された。



若菜が床に膝をついて机の中を確認する。



「なにか残ってるか?」



和樹の質問に若菜は黙って左右に首を振った。



やっぱり、新の私物は全部持ち帰られているのだろう。



ここでもなんの手がかりもなかった。



そう思って落胆しかけた時だった。



「あれ?」



若菜が呟き、首をかしげた。



「どうしたの?」



「奥になにかあるみたい」



そう言って右手を机の中に入れて伸ばす。



「なにか、紙みたい」



若菜は指先でクシャクシャになった紙をつまんで引きずりだした。



よくプリントとかが机の奥まで入ってクシャクシャになってしまうことがあるから、それだろう。



先生は机の奥まで確認せずに、荷物を返したみたいだ。



若菜は月明かりが差し込む窓辺へと移動して紙を広げた。



あたしと和樹も横に立ち、それを見守る。



プリントにしては随分と小さな紙だ。



なんだろう?



シワが伸びた紙には何も書かれていなくて真っ白だ。



しかし、若菜がそれをひっくり返したとき、写真であることがわかった。



「これって、新?」



横から覗き込んでそう呟く。



写真に写っているのは確かに新に見える。



場所は病院みたいだ。



でも、それは不思議な光景だった。



「新が2人……?」



和樹が呟く。



若菜を見ると、呆然とした表情を浮かべている。



写真に写っていたのはどこかの病院にいる新で間違いなさそうだ。



少し幼い顔立ちだから、中学生のころかもしれない。



でも問題はそこじゃなかった。



写真の中には新が2人映っているのだ。



1人はベッドに寄り添うようにして立っている。



そしてもう1人は、ベッドの上に横になっているのだ。



どちらも新と同じ顔をしている。



「どういうこと、これ……」



若菜が写真にくぎ付けになって呟く。



あたしにも写真が意味していることがわからなかった。



なにかの合成写真かと思ったが、こんなものを作る理由が思い当たらない。



「新に兄弟は?」



聞くと、若菜は首を振った。



「聞いたことないよ」



「じゃあ、イトコとかか」



和樹が言う。



そうかもしれない。



それにしても何度見ても写真の中の2人は瓜二つだ。



生き写しと言っても過言じゃないかもしれない。



「今学校内にいるのが新じゃないとすれば、この写真に写ってるもう1人の方じゃないかな?」



あたしは閃いたことをそのまま口に出した。



今学校内にいる人物は新そっくりだ。



だからあたしたちは新だと思い込み、悪霊だと判断したんだ。



だけど和樹は殴った時の感覚が生きた人間だと言った。



新と同じ顔をした人間がもう1人存在していたとすれば、謎は解けるんじゃないだろうか。



「そうかもしれない!」



そう言ったのは若菜だった。



新の凶行を信じたくない気持から、声が大きくなっている。



「だとすれば、やっぱり相手は人間だ。こっちに勝ち目があるぞ!」



和樹も興奮して言った。



新と同じ顔の人間を殺すのは勇気がいるけれど、死ぬか生きるかの瀬戸際なのだ。



そんなことは言っていられない。



「それなら早く武器を取りに行こう!」



あたしがそう言った時だった。



廊下から足音が聞こえてきてあたしたちは息を飲んだ。



互いの顔を見合せて、持ってきたモップを握り締める。



これだけの武器でも3人で攻撃すれば相手もひとたまりもないだろう。



モップを握り締める両手にジワジワと汗が広がっていくのを感じる。



と、その時だった。



足音がC組の前で止まったのだ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る