第20章~結子サイド~
「あの時、新はあたしにだけ聞こえる声で言ってくれたの。好きだよって……」
目の前にいる若菜からの告白にあたしは驚いた。
あのタイミングで告白されているなんて思ってもいなかったからだ。
新もずっと、若菜に気持ちを伝えたかったのだろう。
「新はあんなに苦しんでたのに、事故を起こした男は大した罪には問われなかった。あたし、ずっとそれが許せなかった!」
「車の不具合が原因での事故だったんだよな」
和樹が静かな声で言う。
あたしもその事実を聞かされた時はショックだった。
車が原因で起こった事故だから、運転手の過失はとても少なかったのだ。
その後同じ型の車はリコール対象になった。
でも、ただそれだけだ。
世間では運転手の男への同情まで集まった。
下手をすれば、新が悪いという意見まで出てきたくらいだ。
それは若菜にとってとても辛いことだったと思う。
行き場のない怒りはたまっていく一方だっただろう。
「聞くけど、若菜は新の味方じゃないよな?」
和樹からの質問に若菜はハッとしたように顔をあげた。
その目が揺れている。
「今学校にいる新の味方かどうかってこと?」
「あぁ」
「味方のわけないでしょ!」
若菜が声を荒げた。
和樹を睨みつけている。
「あんたの新じゃない! 友達を、あんな風に殺すなんて……」
若菜の目にまた涙が滲んだ。
「やっぱり、あれは新じゃないのかもしれないな」
和樹が呟くように言った。
「それ、どういう意味?」
あたしは和樹に聞き返す。
「本当に生きた人間なのかも知れない」
和樹はいたって真剣な表情で言った。
そんなワケないじゃんと否定したいけれど、あまりにも真剣なまなざしを向けられて黙り込んでしまった。
「もしあれが新じゃないとしたら。それに、生きている人間だとしたら、一体なんの目的でここにいるの?」
あたしの質問に和樹は左右に首を振った。
「それはわからない。だけど、人間ならこちらが殺すこともできる」
和樹の言葉に若菜が大きく息を飲んだ。
目を見開いて和樹を見つめている。
相手が悪霊ならなすすべはない。
でも人間なら、こちらが勝てる可能性は出てくる。
あたしはゴクリと唾を飲み込んだ。
「人数的にはこちらが圧倒的に有利だ」
「でも……」
和樹はすでにやる気になっている。
あたしは若菜を見た。
若菜は青ざめて震えている。
しかし、さっきまた流していた涙はすでに止まっていた。
「あれは新なんかじゃない。だからあたしも、みんなを手伝う」
それはなにかをふっ切ったような力強い言葉だった。
「大丈夫?」
「うん」
若菜は大きく頷く。
それを見て和樹が掃除道具入れを入れた。
ちょうど3本モップが置かれている。
「とりあえず、なにもないよりマシだから」
あたしたちは頼りない武器を片手に、トイレから出たのだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます