第19章~結子サイド~
それは入学式が終わってすぐのことだった。
1年C組の教室で学校生活や授業についての説明を受けていた時。
若菜は新生活に心を躍らせると同時に、新しい友人を作ろうと張り切っていた。
自分と似た雰囲気を持つ子はいないだろうか。
一緒にいて楽しそうな子はいないだろうか。
そんな気持ちでクラスメートたちのことを観察していた。
その中でひときわ目立って見えたのが新だったそうだ。
若菜には新の周りだけキラキラと輝いているように見えた。
先生の話を聞いているその横顔に引きつけられる。
言わば一目ぼれだった。
一目見ただけで誰かのことを好きになったなんて、生まれて初めてのことだった。
新の顔を見ているとドキドキする。
ちょっと視線がぶつかるだけで緊張して、恥ずかしくて、すぐに視線を反らせてしまう。
今までだって好きな人くらいいたけれど、ここまで意識してしまう異性は初めてだった。
それから若菜はあたしたちと仲良くなり、よく会話をするようになった。
『結子、今日一緒に帰らない?』
ある日の放課後、若菜がそう声をかけた。
あたしは二つ返事でOKしたけれど、若菜はどこか気恥ずかしそうな表情を浮かべていていた。
そしてその日の放課後。
2人で公園に立ち寄ったとき、新への気持ちを聞かされたのだ。
『新ってかっこいいもんね』
あたしは何度も頷いてそう答えた。
幸いにも新はあたしたちと仲がいい。
今までも何度か会話する機会はあったようで、2人の距離はとても遠いとは感じられなかった。
『だよね!』
新のことを褒められた若菜はまるで自分のことのように喜んだ。
その表情はとても可愛くて、恋する乙女だと感じられた。
その日から、あたしは若菜と新の恋を応援するようになった。
できるだけ2人の共通すぐ話題を出したり、若菜の背中を押して話しかけさせたり。
いつの間にか笑と千秋の2人も若菜の気持ちに気がついて、みんなで若菜を応援するようになっていた。
『昨日新に好きな子がいないのか聞いたら、好きかどうかまだわからないけど、若菜のことが気になってるって言ってたよ』
新の幼馴染である笑からの情報に4人で自分のことのように喜んだ。
2人はきっとうまくいく。
笑からの情報に自信が出た若菜は何度か自分から新をデートに誘っていた。
最初はファミレスで1時間ほど会話するだけ。
それがだんだん長くなってきて、休日には1日中遊んだこともあるらしい。
その時のことを若菜はとても嬉しそうに話てくれた。
『あたし、新に告白しようと思うの』
新との距離を縮めて3週間ほどたった日の放課後。
あたしたちはまた2人で帰宅していた。
『本当に!?』
『うん……。緊張するけど、頑張る』
若菜は頬を紅潮させて言った。
ついに覚悟を決めたみたいで、あたしもとても嬉しくなった。
2人ならきっとうまくいく。
あたしたちのグループは誰もがそう思っていたから。
『いつ告白するの?』
『明日の放課後にしようと思ってる』
『そっか』
それ以上は言うことがなかった。
後は若菜本人が頑張るだけだ。
頑張れ!
あたしは心の中で若菜を応援したのだった。
それが、あんなことになるなんて。
翌日が若菜の決選日だった。
若菜は学校に登校してきたときから緊張していて、うまく笑えないでいた。
あたしたち女子3人はそんな若菜に話かけて、できるだけ緊張をほぐしてあげた。
笑が冗談を言って笑わせて。
千秋が『最後にはお色気で落とせばいいのよ』なんて、ためにならない助言をして。
あたしは『大丈夫だよ』と、背中を押した。
でも、何時間待っても新は登校してこなかったのだ。
こんな日に限って休むなんて、なんてタイミングが悪い男なんだろう。
そう思っていた。
今度新が来たら怒ってやろう。
そう考えながら昼のお弁当を食べていた時。
先生から衝撃の出来事を聞かされることになった。
『お前たち、森戸と一番仲がいいよな?』
そう言われて一番に反応したのは若菜だった。
『そうですけど、どうしたんですか?』
和樹が返事をする。
『実は、森戸が交通事故に遭ったんだ』
先生の言葉に若菜は目を見開き、動きを止めた。
あたしも驚いて声が出ない。
『新は風邪で休んでたんじゃないんですか?』
信じられない。
そんなニュアンスで若菜が聞く。
『それが、どういうわけか外を歩いていたみたいなんだ』
先生は眉間にしわを寄せて答えた。
それってどういうこと?
質問したいけれど、それよりも新の容態が気になった。
『病院を教えてください!』
もうお昼のお弁当のことなんてどうでも良かった。
若菜が泣きそうな顔で先生に訴える。
先生は頷き、総合病院の名前を教えてくれた。
それからあたしたち7人は全員で早退し、病院へ向かった。
それを引きとめられなかったことに、なんだか嫌な予感を覚えていた。
だけどただの気のせいだと思い込んだ。
『交通事故の手術、すぐに終わったんだね。だからきっと軽傷だったんだよね?』
エレベーターの中で聞く。
あたしは若菜の手を握り締めて『きっとそうだよ。大丈夫だよ』と、答えるしかなかった。
先生から教えられた病室へ向かうと、新は包帯でくるまれ、沢山の器具に囲まれていた。
若菜の手が微かに震えた。
強く握りしめようと思ったその手は振りほどかれていた。
『新!!』
若菜はベッドに駆け寄り、包帯だらけの新の手を握り締めた。
『新、あたしだよ、わかる!?』
そんな若菜の声に反応するように、新のまつ毛が揺れた。
『みんな……俺たち……ずっと……友達だよな?』
『友達だよ! ずっと友達だから、だから行かないで!』
若菜は叫んだ。
そして新の体を抱きしめる。
医師たちに止められるかと思ったが、みんな2人を見守っていた。
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