第13話~結子サイド~
結局若菜への不信感を抱いたままで、職員室に到着していた。
ドアの前で立ち止まり、耳を澄ませる。
中から人の気配は感じられない。
和樹があたしたちの前に立ち、そっとドアに手をかけた。
力を込めると難なくドアが開く。
しかし次の瞬間血の匂いが漂ってきてあたしは手で口をふさいだ。
「この臭い……」
和樹が職員室に足を踏み入れる。
数歩歩いたところで立ち止まり、息を飲むのがわかった。
後ろからついて入ったあたしにもその光景が見えていた。
うつ伏せで床に倒れている幹生。
体の周りには血だまりができている。
笑が「うっ」と小さくうめき声をあげた。
やっぱりあの時幹生は攻撃されていたんだ。
幹生が最後に発した『助けてくれ!』という言葉を思い出し、涙が滲んだ。
あたしにはなにもできず、幹生はそのまま殺されてしまった。
ちゃんとSOSを発してくれたのに、助けの手を伸ばすことができなかった。
悔しさがこみ上げてくる。
「幹生……」
笑が苦しげな声で幹生の名前を呼び、近くの椅子に掛けられていたひざかけを幹生の顔の上にかけた。
今のあたしたちにできることなんて、このくらいしかない。
幹生と新は一番仲の良かったはずなのに、どうして……。
親友だと思っていた相手に殺された幹生の気持ちを想像するとやるせなかった。
あたしたち3人は幹生に手を合わせ、それから鍵を確認した。
さっき確認したときに鍵の数が少ないことには気がついていたから、しっかりと確認する。
「調理室と木工教室の鍵はないみたい」
あたしは落胆して言った。
こんなことだろうと、どこかで予感はあった。
あたしたちに武器を入手させないため、相手は徹底的に考えているのだろうと。
そうなると、やはり若菜が怪しく見えてきてしまう。
新の力で教室に入れなくしたのではなく、物理的に入れなくなっているからだ。
こうすることであたしたちを泳がせて楽しんでいるのかもしれない。
考えたくないことだけれど、疑心暗鬼になってしまった。
「どうするの?」
笑に聞かれてあたしは和樹へ視線を向けた。
「仕方ない。もう1度1階へ戻って窓が割れるかどうか試してみてよう」
また振り出しに戻ってしまうのかと思うと、気分は落ち込んでいく。
でも、ここで立ち止まっていてもどうにもならない。
とにかくできることをするしかないんだ。
自分を奮い立たせて体の向きを変えた瞬間、新と視線がぶつかった。
「キャア!」
笑が悲鳴をあげ、腰を抜かす。
いつの間に!?
職員室の中に誰かが入ってくる気配なんてまるで感じなかった。
でも目の前に確かに新がいる。
2人分の血で染まった包丁を握りしめ、かすかに口角を上げて笑っているのだ。
「死んでるかどうか確認しに来たら、獲物が沢山いる」
新はそう言うと、楽しげな笑い声を上げ始めた。
ケタケタケタケタと、不快な笑い声に耳が痛くなる。
それでもあたしたちはその場を動くことができなかった。
まるで金縛りに遭ってしまったかのように立ちつくすことしかできない。
早く逃げないと。
殺される!
頭では理解しているのに、体中が震えて動けない。
新は包丁の先をこちらへ向けてゆっくりと向かってくる。
「あ、新やめて!」
叫んだのは笑だった。
笑は真っ青な顔で新を見上げている。
新の視線が笑へ移動した。
その瞬間、氷ついていた体が微かに動いた。
今のうちに逃げられる!
そう思い、数歩後ずさりをした。
「なんでこんなことすんの!?」
笑はなお叫ぶ。
新は完全に笑の方を見て、そちらへ向いて歩き始めていた。
笑、やめて!
叫ぼうとした次の瞬間、目にもとまらぬ早さで包丁が笑の首に突き刺さっていたのだ。
笑が大きく目を見開く。
あたしは呆然としてその光景を見つめていた。
新は勢いよく包丁を引き抜いた。
途端に噴水のようにあふれ出す血。
それはあたしと和樹の体も濡らしだ。
「あ……らた……」
笑の体はそのまま横倒しになって倒れた。
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