第12話~結子サイド~
職員室に近づいてきたとき、右手に見える応接室に人影が見えた気がして、あたしは立ちどまった。
後ろから追いかけてきていた和樹も人影に気がつき、足を止める。
2人で息を殺し、身を低くして様子をうかがった。
中にいる人影はこちらには気がついていないようで、行ったり来たりを繰り返している。
新だろうか?
それとも、バラバラになってしまった仲間の1人か。
どっちにしても誰がいるのかわからない限り、声をかけることはできない。
あたしと和樹は足音を忍ばせて応接室を通り過ぎることにした。
応接室のドアの前をもう少しで通り過ぎる……そう思った直後だった。
人影がドアに近づいてきて、迷うことなくドアを開けたのだ。
ドアが開く音がすると同時にあたしはその場に尻もちをついていた。
悲鳴を上げそうになり、両手で自分の口を押さえる。
同時に和樹があたしの上にかぶさるようにしてかがみ込み、守ってくれた。
すべてがスローモーションのように見えた。
応接室から出てきた人影があたしたちに驚き、尻もちをついたのだ。
「痛ぁ……」
痛みにあえぐその声には聞き覚えがあって、キツク目を閉じていたあたしはそっと開いた。
廊下に尻もちをついていたのは笑だったのだ。
「笑!?」
あたしの声に和樹がホッと息を吐き出してあたしから離れた。
「な、なんだ……結子と和樹だったんだ」
笑も安堵のため息を漏らしている。
廊下にはホウキが転がっていて、それは笑が武器として持っていたものみたいだ。
「笑、ずっとここにいたの?」
「うん。職員室から一番近いからね」
笑は頷く。
笑の姿を確認すると、右足に包帯が巻かれているのが見えた。
「それは?」
和樹が足首を指さして聞く。
「職員室から逃げた時にひねったの。ここ、救急箱も置いてあったから、勝手に湿布と包帯を拝借したの」
そう言って笑は応接室の中を指差した。
応接室の奥は給湯室もあり、ここにいれば簡単な生活ができそうだった。
「2人は?」
笑に聞かれてあたしと和樹は今までの経緯を説明した。
武器の調達ができなかったと伝えると、笑は自分が持っているホウキを心もとなさそうに見つめた。
「それと、若菜のことも気になってる」
和樹が自分たちの考えを笑に伝える。
その間あたしは耳を塞ぎたい気持ちになった。
若菜が新の味方だなんて考えたくない。
「嘘でしょ。若菜が新の味方だなんて…‥」
笑も驚いて目を丸くしている。
「ただの勘違いかもしれないけど、念のために情報は共有しておこうと思って」
「そっか。うん、わかった」
笑は自分の頭を整理するように何度も頷いている。
「新も若菜のことが好きだって言ってたし」
その言葉にあたしは「え?」と聞き返した。
「知らなかった?」
笑は瞬きをして聞いてくる。
「聞いたことないよ」
「たぶん、あたしは新の幼馴染だし、こんなんだし、相談しやすかったんだと思う」
笑はそう言って自分の体形を見て微かに笑った。
「何度か若菜と2人でデートしたいんだけど、どうすればいいと思うって相談されたことがあったよ。あたしは2人が両思いなことは知ってたから、なんでもいいから誘ってみなよって言ったんだけどね」
「そうだったんだ……」
相思相愛だったのなら、若菜が新の行動を手伝ってもおかしくないかもしれない。
考えは悪い方、悪い方へと流されていく。
「とにかく、新と若菜には気を付けた方がよさそうだな」
和樹の言葉を、あたしはもう否定することもできなくなっていたのだった。
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