第11章~結子サイド~

2階の職員室へ戻る途中、あたしは他の教室のドアが開くかどうか確認してみた。



どこも鍵はかかっていなくて、すんなりと開くことができる。



「調理室と木工教室の鍵だけかけられてるなんて、おかしくない?」



「俺たちに武器を使わせないためかもしれない」



「そんな……」



否定したくてもできなかった。



その可能性はとても高い。



新はあたしたちをここに閉じ込め、武器も持たさずに追い詰めるつもりなのだ。



あたしは下唇を噛みしめた。



どうしてそんなことをするんだろう。



新はまるであたしたちのことを恨んでいるように見える。



「……もしかしてあたしたち、新に嫌われてたのかな?」



階段を上がりながら呟いた。



もうそれしか残っていない。



「そうかもしれない。知らない間になにかしてたのかも」



和樹は同意してくれたけれど、嬉しいことじゃなかった。



「それなら、なにが悪かったのかちゃんと考えて謝れば、新は鎮まってくれるんじゃないかな?」



「なにか心当たりは?」



聞かれてあたしは黙り込んだ。



意図的に新を傷つけた覚えはない。



あたしたちは新を合わせた8人ブループでとてもうまくやっていたと思う。



新のことを嫌いだと思ったことも1度もない。



思い出してみても、心当たりは何もなかった。



あたしは力なく左右に首をふる。



「俺も、なにも思い当たらないんだ。だからこそ、新からすれば辛いことがあったのかもしれないけど」



あたしたちが気がついていないだけで、新はとても傷ついていた?



そう考えると、胸が痛んだ。



新は自分が傷ついたことをひた隠しにして、あたしたちに笑顔を向けていたことになるのだから。



「若菜はどうだと思う?」



突然若菜の名前を出されてあたしは瞬きをした。



「若菜が新を傷つけることはないと思う」



あたしはキッパリと言いきった。



男子たちには内緒にしていたことだけれど、若菜は新に片思いをしていたのだ。



高校に入学してから、ずっと。



だから今回の出来事は若菜にとってすごく悲しいことだと思う。



新が成仏できずに悪霊となり、あたしたちを襲うなんて……。



「そっか」



和樹は頷きながらもなにか気になっているようで、難しい顔をしている。



「どうしたの?」



「いや、調理室と木工教室の窓を割ってみればよかったと思って」



「でも、割れないんじゃない? 昇降口や廊下の窓だって割れなかったし」



「だよな……」



それでも和樹は納得いかない様子で首をかしげている。



なにがそんなに気になっているんだろう?



「新が鍵をかけているのだとしたら、どうして他の教室は鍵が開いてるんだと思う?」



「それは、武器を入手させないようにしたいからでしょう? 他の教室では武器らしい武器なんて手に入らないし」



「だけど、身を隠すことはできる。椅子や机も武器にはできる」



和樹の言葉にあたしはキョトンとしてしまう。



なにか裏がありそうな言い方なのが気になった。



「つまり、どういうこと?」



「新以外の人間が鍵をかけたとは考えられないかな?」



和樹の言葉に愕然とした。



「新以外って、学校にはあたしたちしかいないんだよ?」



「あぁ。だからなるべく考えたくはなかった。でも、新が鍵をかけるなら、昇降口と同じようにカギ穴も隠してしまうと思わないか?」



確かに、そうかも知れない。



だけど調理室も木工教室もカギ穴はちゃんと正規の場所に存在していた。



つまり、この2カ所にかぎっては他の人が、意図的に鍵を閉めた可能性があると考えているみたいだ。



「新の仲間がいるってこと?」



質問する自分の声がひどく震えていた。



和樹は「その可能性もあると思ってる」と、頷く。



そして、一番その仲間になりえるのは……若菜だ。



若菜の顔が浮かんできたとき、全身に衝撃が走った。



このメンバーでは一番の親友である若菜が、新の仲間?



あたしたちを学校内に閉じ込めて殺して行くことに加担しているっているの?



心臓が早鐘を打ち始めて、言葉が出なくなる。



背中に嫌な汗が流れていった。



「若菜は新のことが好きだった。だから、新の味方をして武器を手に入れられないように細工した……」



「そ、そんなことあるはずない!」



あたしはやっとどうにか否定することができた。



若菜に限ってそんなことするはずない。



若菜はとても素直で可愛くて、いい子だ。



メンバーの中で一番若菜のことを知っているのはあたしなんだから、言いきることができる。



「若菜はそんなことしない!」



あたしはそう言い、和樹を追い越して職員室へと向かったのだった。

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