第10章~結子サイド~
ふと視線を上げると廊下の奥の木工教室が視界に入った。
主に土木科の生徒たちが使っている教室で、普通科のあたしには縁のない場所。
でも、木工教室なら武器になるものがありそうだ。
「ねぇ和樹、あそこに行ってみない?」
木工教室を指差して言うと、和樹は大きく頷いた。
「いいな。ノコギリとか、トンカチとか、いろいろありそうだ」
あたしたちはさっそく木工教室へと足を進めた。
近づくと木のにおいが強くなってくる。
ここだけ戸も床も木製になっていて、他の教室とは雰囲気が違う。
今度はあたしが戸に手をかけた。
どうか、開きますように……!
願いを込めて力を込める。
戸はガタッと少し音を立てたが、びくとも動かない。
サッと血の気が引いて行くのを感じた。
まさか、この教室もダメなの……?
あたしの異変に気がついた和樹が横から手を伸ばして戸を開けようとする。
しかし、やはり戸はびくともしなかった。
「ここもダメか……」
落胆した声が漏れる。
「どうしよう。他に武器がありそうな場所なんてないよ」
和樹を見ると難しそうに眉間にシワを寄せている。
「そうだ、結子。昇降口の鍵を持ってるんじゃないのか?」
思い出したようにそう言われあたしは「あっ!」と、声を上げる。
そうだった。
あの時昇降口の鍵を見つけてあたしが持っていたのだ。
パジャマのポケットに手を突っ込むと鍵を取り出した。
どうして忘れてたんだろう!
これを使えば簡単に外へ出ることができる!
一瞬にして大きな希望が見えてきてあたしと和樹は2人で昇降口へ走った。
人の気配は感じられない。
途中で千秋の死体が視界にはいり、咄嗟に目をそらした。
血だまりの中に倒れている千秋はピクリとも動いていない。
千秋の死体を通り過ぎ、さっき開かなかった扉に飛びつくようにしてカギ穴を探す。
「どこだよカギ穴……」
月明かりだけでカギ穴を探すのが難しくて、和樹のイラついた声がする。
「大丈夫だよ、落ちついて」
言いながら、あたしもカギ穴を探した。
と言ってもカギ穴の場所なんて限られている。
扉の中央か、下か上。
それらを探してみても、鍵を差し込める場所はどこにも見当たらない。
「なんでないの?」
いくら探してもカギ穴はなくて、次第に汗が滲んできた。
「これも新の仕業か?」
和樹が呟くので、あたしはブルリと身震いをした。
あたしたちを閉じ込めるために、カギ穴を無くした……?
「あ、新がそんなことするわけないよ」
言いながらも、自信はなかった。
今この学校内にいる新はあたしたちが知っている新ではない。
なにをするかわからない人物なのだ。
和樹は鍵を投げ出してその場に座り込んでしまった。
頭を抱えて苦しげなうめき声を漏らす。
昇降口の鍵があれば脱出できるはずが、そうはならなかった。
その落胆は激しかった。
「和樹……」
あたしは和樹の肩に手を置いた。
なんと声をかけていいかわからない。
ただ、新がやってきたときのことを考えるとここにはいない方がよかった。
どこにも逃げ道がないのだから。
「和樹、一旦職員室へ戻って鍵を探してこよう」
調理室と木工教室の鍵だ。
開くかどうかわからないけれど、今のあたしたちにできることはそれくらいだった。
それに、幹生のことも気になった。
「あぁ……わかった」
和樹は重たい体をどうにか持ち上げて、歩きだしたのだった。
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