第3章

「結子、今日まっすぐ帰るのか?」



すべての授業が終わってみんな帰り始めた時、和樹に声をかけられたあたしは足を止めた。



今まさに教室から出ようとしていたところだ。



あたしの隣には若菜がいる。



「あ、えっと……」



あたしは若菜と和樹を交互に見る。



特に予定はないけれど、若菜とは家が同じ方向だから一緒に帰るのが日課だった。



「じゃ、あたしは先に帰るよ」



若菜がニコッとほほ笑んでそう言った。



「え、いいの?」



「いいもなにも、予定はないんだからさ」



そう言ってあたしの背中を押す。



「そ、そうだね」



「じゃ、また明日ね2人とも」



若菜は1人で教室を出ていく。



その後ろ姿を見送ってから、あたしは和樹に視線を向けた。



7人でいるときは普通に話しかけることができるけれど、こうして2人になると途端に緊張してしまう。



うまく目を見ることができなくて、あたしは和樹の鼻先を見つめることにした。



スッと通った鼻筋にきめ細やかな肌。



それを見ているだけであぁ、好きだなぁと感じる。



「これから、ちょっと遊んで帰らないか?」



「い、いいよ。どこに行く?」



ぎこちない会話を続けながら2人並んで教室を出る。



いつもより近い距離間に緊張は増すばかりだ。



「学校の近くに新しいクレープ屋ができただろ。行ってみたいんだけど、男1人じゃ行きにくくてさ」



「そういえばできたね」



それにしても、誘うならあたしじゃなくてもよかったはずなのに、どうしてあたしなんだろう?



そう思っても、質問する勇気はない。



特に意味なんてないかもしれないし。



2人して学校を出て歩いていると、だんだんと緊張もほぐれてきた。



目的のクレープ屋に到着すると、店内はほとんど女性客で埋まっていた。



その中でカップルは2組だけだ。



これじゃ和樹が1人で来れないと思っても仕方ない。



メニューを見ていると女性向けにパンダや猫のクッキーが上に乗せられたクレープがある。



写真にとっても目立ちそうだから、あちこちからシャッター音が聞こえてきた。



あたしたちはそれぞれクレープを購入して、店内の一番奥の席で食べることにした。



和樹が選んだのはチョコバナナだ。



その上には星型のクッキーが乗っている。



あたしはイチゴクリームを選んだ。



上にはウサギのクッキーが乗っている。



この可愛いクッキーがこの店の売りになっているみたいだ。



「うん、うまい!」



チョコバナナを一口食べた和樹が目を丸くして言った。



口の端にクリームがついていてとても可愛い。



あたしも自分のクレープを一口食べてみると、ほどよい酸味と生クリームの甘さに頬が落ちそうになった。



見た目だけじゃなく、ちゃんと味もおいしい。



あっという間においしいクレープを食べて店を出ると、和樹は家まで送ってくれることになった。



「今日は付き合ってくれてありがとう」



家の近くまで来て和樹が言った。



「ううん。すっごく美味しかったし楽しかった」



「また2人で行こうな」



そう言われると同時に手をつながれていた。



あたしは一瞬頭の中が真っ白になる。



和樹はあたしと手をつないで立ち止まるものだから、あたしも立ち止まることになってしまった。



暖かな手の感触にまた緊張が戻ってくる。



「う、うん……」



とにかくなにか返事をしなければと思い、ぎこちなく頷く。



そして顔をあげた時だった。



いつの間にか和樹の顔があたしの目の前にあった。



え?



と口に出す暇だってない。



次の瞬間にはあたしと和樹の唇は触れ合っていて、チュッと軽く音を立てていた。



すぐに離される手と唇。



「じゃ、また明日」



あたしが呆然と立ち尽くしている間に、和樹は顔を真っ赤にして背を向けたのだった。

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