第2章


翌日の7月2日。



バースデーカードのことなんてすっかり忘れて、あたしはいつも通り学校へ来ていた。



1年C組の教室へ入ると、すでにいつものメンバーがそろっている。



「結子おはよう」



一番に声をかけてきたのは渋沢若菜(シブサワ ワカナ)だ。



若菜は長い髪をお団子にしてまとめて、ピンクのシュシュをつけている。



「おはよう若菜」



挨拶を交わしていつも通りみんなの中に入っていく。



あたしが属しているグループはC組の中で一番大きなグループだった。



若菜をはじめとして、よく食べるポッチャリ系の相田笑(アイダ エミ)。



高校1年生にしてはスタイルが良くて色気があると言われている池上千秋(イケガミ チアキ)



本当はビビリだけど、それを隠すために言葉遣いが悪くなっている花川紀一(ハナカワ キイチ)



ゲーム好きな浅島幹生(アサジマ ミキオ)



そして最後は……宮田和樹(ミヤタ カズキ)



できれば一緒に海に行って思い出を作りたい相手だ。



「明日からテストとか、ダルいねぇ」



笑がポッキーを食べながら言った。



右手にポッキー。



左手にショコレートを握り締めている。



せっかく大きくてパッチリとした二重を持っている笑なのに、本人は太ることを気にしていない。



大きな二重あごを揺らして食べている。



「ほんと、テストのストレスで胸が痩せちゃうよ」



千秋はそう言うとわざとブラの位置を直し始める。



第2ボタンまで外された胸元から谷間が見えていて、男子たちがあからさまに鼻の下を伸ばして千秋を見ている。



「ちょっと千秋……」



若菜が注意するが、千秋は知らん顔。



もともと見せつけるためにやっているのだから、どうってことないみたいだ。



あたしは、好きな人以外に胸元を見せるなんて嫌だけどなぁ。



そう考えて、チラリと和樹に視線を送る。



和樹は紀一と幹生の2人と夏休みの計画について話をしている最中だ。



「ね、ねぇ和樹」



ドキドキする心臓に胸を押さえつつ、声をかける。



「なに?」



和樹が振り向いて視線がぶつかった瞬間、あたしの心臓は大きく跳ねる。



全身が熱を帯びたようにカッと熱くなるのがわかって、咄嗟に下を向いてしまった。



「な、夏休みって……どうするの?」



必死に緊張を押さえて質問する。



上目使いに和樹の答えを待っていると「今なにするか話してたところなんだけど、


海にでも行かないかって」と、にこやかな返事があった。



あたしはパッと笑顔になって顔を上げる。



あたしも、海に行きたいなって思ってたんだ!



そう言うよりも先に、千秋があたしの前に立っていた。



突然目の前に壁として現れたツヤツヤのロングヘアーにあたしは瞬きをする。



「いいね海。あたし、すっごい水着持ってるんだから」



千秋は自慢げにそう言って体をくねらせる。



「そ、そうなんだ」



和樹はちょっと引きながらも頬をピンク色に染めた。



それを見た瞬間胸がチクリと痛む。



和樹も色気がある女子の方が好きなのかな。



なんて考えてしまう。



「千秋、和樹が困ってる」



2人の間に割って入ったのは若菜だった。



若菜に体を押された千秋は「あんっ」と色気のある声を出して頬を膨らませている。



「いいね海。あたしも行きたいなって思ってたの」



あたしはすぐにそう言った。



嘘っぽく聞こえたかもしれないけど、事実だ。



「だろ? 海ならここにいる全員で行っても思いっきり遊べるもんな」



和樹の言葉に一瞬表情が曇りそうになる。



どうせなら2人で行きたいなぁ。



なんて思っても、口には出せない。



「そうだね。7人もいるんだもんね」



コクコクと頷いて和樹に賛同する。



「海と言えば海の家だよね!」



楽しそうな声をあげたのは笑だ。



口の端におかしのカスがついている。



「ラーメンにやきそばにかき氷、なにを食べようかなぁ」



目を輝かせて食べ物のことばかり想像している笑に千秋は呆れ顔を浮かべている。



「海に行けばレアモンスターが出るかもしれないな」



そう言ったのはずっとスマホゲームで遊んでいた幹生だ。



画面から顔を上げずにいる。



「お前はゲームのことしか頭にねーのかよ」



幹生の頭を小突いて言ったのは紀一だ。



「紀一は海怖くないのか?」



「こ、怖いわけねぇだろ!」



和樹から言われて紀一は慌てて返事をしている。



しかし、表情が少し硬くなって見えるから、実は海は苦手なのかもしれない。



とにかく苦手なものや怖いものが多いのだ。



「とにかく、海に行くことは決定みたいだね」



話しをまとめたのは若菜だった。



「結子、今度一緒に水着見に行こうよ」



「あ、水着ならあたしのを貸してあげようか? 面積の狭いビキニならいくらでも持ってるけど?」



千秋が胸を揺らしてそう言ってきたので、あたしと若菜は同時に辞退した。



千秋の水着は本当にきわどそうだからとても着れたものじゃないだろう。



そんな水着を着た千秋のことを和樹が見てしまうんだ。



そう考えるとなんだか暗い気持ちになってしまう。



和樹は千秋みたいにセクシーな女性が好きだろうか?



なんて、考えてしまう。



「そういえば、昨日こんなものが届いたんだけどよぉ」



紀一がそう言いながらズボンのポケットから一枚のハガキを取り出した。



「なになに?」



笑が好奇心旺盛に近づいて確認している。



それにつられてあたしたちも紀一を取り囲んでハガキを確認した。



その瞬間「あっ!」と呟いていた。



そのハガキは昨日あたしの家にも届いていたものだったのだ。



差出人不明の、ハースデーカード。



「これ、あたしの家にも来たよ」



そう言ったのは若菜だ。



「うそ、若菜の家にも?」



言うと、若菜は驚いた顔であたしを見た。



「もしかして、結子の家にも届いた?」



「うん。昨日学校から戻ったから届いてた」



「それ、あたしの家にも来たよ」



「あたしも」



笑と千秋が同意する。



「嘘、和樹は?」



聞くと、和樹も頷いている。



「集合時間は今日の夜12時に、学校ってやつだろ? ただのイタズラだと思って捨てたけど」



「それなら俺のところにも届いた。同じく捨てたけど」



ゲームから視線を外し、ハガキを確認して幹生は言う。



あたしたち7人は互いの目を見かわせた。



ここにいる全員が同じハガキを受け取っているみたいだ。



「もしかして、C組全員に送られてきてるのかな?」



若菜が言う。



そうかもしれない。



だとしたら、ハガキを送ってきたのもC組の誰かかも。



「他の子にも聞いてみようか」



あたしはそう言うと、近くにいた田中君に声をかけた。



田中君はサッカー部に所属していて、1年生ながらに好成績を残している生徒だ。



誕生日会には必ず呼ばれそうなタイプ。



しかし、田中君にハガキは届いていないという。



他にも3人ほどのクラスメートに声をかけたけれど、ハガキが送られてきた生徒はいなかった。



「俺たち7人だけに送られてきたってことか? 俺らの共通の友達って誰だっけ?」



紀一が首をかしげている。



共通の友達は何人かいるかもしれないが、その子たちが出したとも限らない。



「あたしたち目立つグループだから誰かがイタズラしたんだよ」



千秋が体をくねらせてあくびをしながら言ったのだった。

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