第27話 ユア、語られる!
俺は自分のアタマから血の気が引いてくるのを感じていた。
ユア。
今まで俺を励まし、応援してくれたユア。
彼女は確かに幽霊で、4年前に亡くなったと言っていた。
そうだ、今まで『もしも』を考えなかったとは言わない。言わないが、彼女自身はトリュたちと関係があることを否定していた。一体どうして?
「しかし何故、ケースはユアを知っていたんだ?」
俺が疑問の渦に巻かれている中、トリュが俺に疑問を投げかけてきた。
「え……ああ、その、今朝、
「ああ、そういうコトか」
良かった。これも真実だけど更に本当の真実は誤魔化せた。
「ユメイとの来舞だと思ったら、改めてユアの歌を聴いておきたくなってな……つい、出したままにしていたよ」
トリュは両手を組んで話を進める。
「ユアは、新人賞を受賞して
エルとメロウは沈黙のままだ。
「そうして、その年の愛燈
メロウが続ける。
「ユアとメロウが対決していたら、どっちが頂上に行くか解らなかったね……」
「俺は俺の信じるユアに賭けていた」
トリュは即答した。担当プロデューサーとして正しい。と思う。
エルはトリュとユアの仲を説明してくれた。
「トリュ様とユア様は、7歳違いと歳の離れたご兄妹でしたが、とても仲がよろしくて……丁度中間くらいの歳の私も、間に入って遊んで頂いたのをよく覚えております。もちろんメロウ様も交えて」
そうか。4人は幼馴染のような関係だったのか。
「ですから、ユア様が亡くなった時はそれはもう……」
うん、あの明るいユアが突然消えたらどうなるか、想像は出来る。想像が追いつかないくらいショックだったろうって。
「じゃあ、それで俺はそのユアの意思を継ぐために召喚されたんですか……?」
「……そういったところになるかな……」
トリュがゆっくり返答した。
「トリュ様…………」
エルは何か言いたげだ。
「私は最初、トリュ様の召喚の儀には反対いたしておりました。代理の誰かを立てても、それはユア様にはなりませんので……」
それは至極当然だ。
「はぁ…それで、結果的に男の俺が召喚されてしまったと」
「そうですね。性別も見かけも身代わりとは程遠い、ケース様が」
メロウが続く。
「まさか、4年も経ってるのにまだトリュが引き摺っているとは思っていなかったよ」
「たったの4年だ。おまえも引き摺っているだろう、メロウ」
「……そうだねぇ……」
メロウは初めて会った時、『愛燈の仕事は受けない』と言っていた。
あれはユアへの気持ちが残って、ユアとの思い出を大切にしているからだったのだろう。
メロウは続けて言った。
「ユアとケースはね、性別も見た目も性格も全然違うのに。
「……そうだったのか? 俺には全然違う歌に聴こえますけど」
意外だ。俺とユアの呪歌のどこが似てるって言うんだ。
「来舞や歌を楽しむところとか、聴いてるヒトに希望を与えるところとか……もちろん、ケースはユアのソレにまだまだ劣るけどね」
メロウの言葉にトリュとエルも頷く。
まだまだですみません。精進します。
「――とりあえず、話はそんなところだな」
トリュが組んでいた手を解く。
流石に緊張で喉が渇いたのだろう。メロウとエルは手元のティーカップのお茶を飲んでいた。
俺お茶をいただく。
「……そういう経緯だったんですね。説明ありがとうございます」
説明をされないまま愛燈王を目指すのと、説明されて愛燈王を目指すのではまるで違う。
「俺の私情に巻き込んだ召喚になってしまって、済まないな、ケース」
えっ。まさかあのトリュから謝られるとは。今晩は一体どうなっているんだ!?
「いやだなあ。らしくないですよ。トリュ。そりゃ俺も巻き込まれて最初は混乱の極みでしたし、推しのライブも逃すで散々でしたけど――」
けれど、今は少し思うんだ。
「これも、貴重な経験かもしれないって」
「……そう言ってもらえると助かる。ありがたい」
トリュは深々と頭を下げた――――
そして
「じゃ、次の目標はツアーだな! ツアーで知名度と人気を上げていく!」
「ええっ!?」
その切り替わりの速さに、俺はまた驚いたのだった――
しかしうん、これでこそトリュなのかもしれない。
エルも元気が出てきたようだ。
「ユア様が1年以上かけて歩んできた新人賞への道を、半年で上り詰めなければなりませんものね!」
「その前の新人賞ノミネートまであと3ヶ月しかないからな! ワハハハハ!! それまでに――」
「はいはい、曲は任せてくださいよーっと」
うん、いつもの3人に戻っている。
俺たちはその場で一応解散となった。
エルはメロウが泊まる部屋の支度をするからと急ぎ足で客室に向かった。
メロウはその間、この部屋で納音を漁っているようだ。
「金持ちはさ、やっぱり貯蔵量が違うんだよ。いいな~」
「おまえだって本当は左うちわの生活だろうが」
トリュがメロウに応酬する。
「べっつにー。それでもこういう名家とは違うし」
どうやらメロウは愛燈の作曲をしなくても別の分野の作曲で十分食べるに困ってはいないらしい。
「名家と言っても落ちぶれたもんだがなぁ……父上も母上も亡くなって久しいし」
どうやら幼い頃に父母を亡くしたトリュとユアは、随分とギエド公爵にお世話になったらしい。なるほど。そういう関係だったのか。
「時の大魔術師様が出たのなら、落ちぶれ名家も復興でしょ。さっさとどっかの貴族と結婚しちゃいなよ」
「貴族なんてつまらん」
「じゃあマクレガー家も終わりだねぇ。はいざんねーん」
「ふん、好きに言ってろちびっ子が!」
「ちびだけど子供じゃないです~!」
またいつもの言い合いが始まった。
俺は残ったお茶を飲みながら、ふたりのじゃれ合いを見ていた。
ユアもこんな光景を見ていたのだろうか。
「メロウ様、寝室のご用意が出来ました」
「あっ、エルありがとう~!」
エルが客室の準備を終えて戻ってきた。
「じゃ行くね。おやすみ、トリュ、ケース」
「おう、おやすみさん」
「おやすみなさい、メロウ」
「俺たちも解散するか。今日は色々有ったな。疲れたろう、ゆっくり休めよケース」
「はい。トリュも」
時刻はとうに12時を回っていた。
俺たちは音楽室を後にした。
しかしこのままでは眠れない。
ユアに、会わなければいけない。
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