第26話 パズル・ピース!
――屋敷に着いたのは夜9時近かった。
そこから俺たちは食堂で軽く打ち上げパーティーをすることになった。
軽く、と言ってもそこはエルの手腕だ。今日の午前中に先に仕込みを済ませ、後は簡単な調理をするだけにしておいたらしい。
いつものメイド服に着替えたエルは続々と料理と飲物を運んできた。
「今日はエルも座って一緒に食べろ~。皆それぞれ労いをせにゃならん」
トリュが言った。
「……ありがとうございます。それでは、お言葉に甘えて失礼します」
エルは下座に座った。
「わーい、エルと一緒にお食事嬉しいな~」
メロウはアタマのくせ毛がピョコピョコと跳ねている。本当に上機嫌の様子だ。
「後片付けはお手伝いしますね。ていうかさせてくださいエルさん」
俺はエルに断られないよう、慎重に言葉をかけた。
「まあ、お気遣いありがとうございます。本日の主役にそう言われては困ってしまいますわ」
本日の主役はここに居ないユメイ・マッカートニーのはずだが。まあいい。
「メロウ様、本日はこちらにお泊りなさいますか?」
時間も遅いですし……とエルは言う。
「そうですね、時間も遅くなりますし、それなら明日帰った方が安全かと思いますよ」
俺はメロウの家までの道のりを思い出しながら言った。あの通り道、今頃酔っ払いがクダを巻いているんじゃないだろうか。
「うーん。どうしよっかな~。猫のカーデはひとりで大丈夫だろうけど。ねぇ、トリュ、泊まってっていい?」
「別に構わんぞ。そこらの客室を適当に使えばいいだろ」
「やった~! それじゃ、お泊りさせていただきます!」
そうして、俺たちは歓談しながら遅い食事を取った。トリュとエルはワインを、俺とメロウはオレンジジュースを飲みながら。
メロウは成人じゃなかったっけ? と思い訊ねると酒は苦手と返ってきた。下戸なのか。
「こうしていると、なんだか昔に戻ったみたいだねぇ~」
メロウが言った。
「……戻るのは無理だ」
トリュが即答した。
「……ごめん、トリュ」
「……いいや、俺も悪かったメロウ」
「さあさあ、お料理が美味しいうちに食べてしまいましょう」
エルがフォローする。
「…………」
俺は3人を観察する。
以前、メロウの家でもこんな空気が有った気がする。あれは確かそう……トリュがプロデュースしていた
その歌姫ともこうやって宴をしていたのだろうか? その話はどうやら暗黙の了解で禁止になっているようだが。
「トリュさぁ……ケースにどこまで話してるの?」
ニョッキをフォークで摘みながら、メロウがトリュに問い出した。
何の話だ?? 俺は隣のトリュの方を向く。
「何の話を?」
トリュはメロウから目線を外していない。
「だから、う~ん……前の歌姫の話だよ。ケースを召喚してどれだけ説明してるのかなって」
「そんなもん
トリュはワインを一口飲んだ。
「……そっかなぁ……私は、プロデューサーと
「メロウ様……」
エルは困惑しているようだった。
「解った風に言うな、ガキンチョが」
トリュはまた、ワインを口に含む。
「だからいつまでもガキじゃないってば」
今日のメロウは真顔だ。真顔で返している。
「あの子も生きてれば、今年立派な成人だったんだよ――――」
「わかったから!」
トリュが話を遮った。
「後で別室で話す。それでいいだろうメロウ?」
「…………うん、それがいいと思う」
メロウが返答した。
俺はと言えば、何の話か混乱するしかなかった。
「さ、とりあえずは祝宴に戻りましょう!」
エルが俺たちを促す。
「そうですよ! 何の話か解らないけれど――今は楽しくいきましょう!」
俺もエル側に付いた。とりあえず今はこの重い空気を払拭したい。
「……そうだな。ほれ、メロも飲め飲め」
「やーめっ。この酔っぱらいが! これだからオッサンは! あと私はメロじゃなくてメロウ!」
「はいはい。俺もオッサンじゃなくてトリュ様ですよーだ。それにこれくらいじゃ酔っ払いません~」
ほっ。良かった。いつものふたりのやりとりに戻った。
こうして、なんとか和やかに宴は終わった――――
晩餐後。
俺たちは一息ついたら音楽室――例のいつものグランドピアノと大きな書棚の有る部屋だ――に来るようにと、トリュに言われた。
いよいよ、トリュが俺に何かを話すらしいことは伝わった。
それが俺の召喚の原因に関係有るのか?
緊張した俺はひとつ深呼吸をしてから音楽室の扉を開いた。
トリュとメロウ、そしてエルはもう先に来ていたようだった。
トリュは明るい紫から、グレーのシャツに着替えていた。かしこまっているようだ。
「あ、すみませんお待たせしちゃって――」
「いいさ。さて座ろうか」
窓辺に居たトリュが皆をソファに座るように促す。
テーブルには、エルが気を利かせたんであろう、恐らくノンカフェインのティーセットが用意されていた。
「…………」
一同、無言になる。
「……さぁて、何から話したもんかなぁ」
そう言ったトリュは困り顔をしていた。ひとくち、ティーカップに口を付ける。
「俺の前にトリュがプロデュースしていた、歌姫の話ですよね」
俺は確認する。
「そう」
トリュは短く返す。
「以前、メロウの家で新人賞を取った後に遠くに行ってしまったとは聞きましたが――」
「ああ、あれな」
トリュが思い出したように呟く。メロウとエルは黙ってトリュの話を伺っているようだ。
「遠くだよ。もう手の届かない遠く。彼女は――俺の妹は死んだんだ」
「――――え」
つまり、トリュがプロデュースしていたのはトリュの妹だったってこと?
そしてその妹さんは、4年前の新人賞受賞後に亡くなってしまったって言うこと?
メロウが呟く。
「明るい、いい子だったよ。2つ歳は下だったけど、私の幼馴染で親友だったんだ」
ちょっと待って。何かのピースがハマりそうだが、ハマるのが怖い。
「私にも、大変よくしていただきましたわ――」
エルも懐かしむように言った。
「俺の妹の曲、聴いてみるかケース?」
「え。ええっ……いいんですか?」
今まで俺に隠してたのに突然そんな。
「召喚までして
トリュは観念したように言った。
エルも続く。
「先に業界の他者からこの話を振られても困りますしね」
「ああ。ユメイたちはよく気遣ってくれたと思う」
トリュが指をパチンと鳴らした。そうしてグランドピアノの上に有った
「
トリュの呪文により納音が再生され始めた。
ああ、このイントロの入り方、どことなく馴染みが有る。これはきっとメロウの曲だ――
そうして、歌が始まる。
可憐で、高く通る声。気高そうなのにどこか親近感の湧く懐かしい声。
俺は、この声を知っている――――……
「ユア――――?」
思わず、呟いてしまった。
「何だ、知っていたのか意外だな。そう、俺の妹の名前はユア。ユア・マクレガーだ――――」
どうしよう。
全てのピースがハマってしまった――――
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます