第25話 2ndライブ!

 ――――そして、俺は再び舞台ステージに立っていた。


 持ち時間は約20分。1曲目からフルスパートで飛ばしていく。

 今回は座席指定で満席なので前回のスタンディングのように人の群れのムラが無く、観客は満遍なく俺に視線を向けている。うっ、やっぱり集中して見られると緊張してくる……っ!


 が、しかし今この場を楽しまなきゃ。俺が楽しまないで、お客さんが楽しめるわけがない。例えユメイのでもいい。今舞台ステージの中央に居るのはこの俺なんだ――――!!


 そうして、何とか2曲目、3曲目と予定通りに歌を済ませ、MCに入る。


「はじめましての方ばかりだと思います。はじめまして。ケースです。今回はユメイさんのおかげでこの舞台ステージに立てたことを嬉しく思います。俺なりに精一杯頑張って活動していますので、よろしくおねがいします!」


 どうも定型文な挨拶になってしまう。もっと気の利いたこと言えなかったのか俺。


 …………あれ?そう言えばこの舞台、というか客席、違和感がある。前回の来舞ライブの時にも感じたが、一体何なんだろう……? 俺が居た世界とは明らかに違う何かが――まあいいか。とりあえず今は出来ることをやらないと!


 そうして4曲目、〆の曲を頑張って歌い終えて俺は舞台を後にした。

「ありがとうございましたっ!」

 ペコリ、とお辞儀をする。それに合わせて拍手と歓声が返ってくる。

 あっと言う間の20分だった。


「なかなか良かったぞ、ケース」

 舞台袖ではトリュが待ち構えていた。

「お疲れさまです、ありがとうございましたケース!」

 ユメイもスタンバイしている。

「俺も本気出して行きますね!」

 底知れないユメイの本気が、ついに観れるのか。

「はい、ここから勉強させてもらいます!」

「勉強なんて、ふふ」


 そうして、ユメイは舞台へ飛び出して行った。同時に拍手喝采が聞こえる。スポットライトに美しい銀髪と清潔感の有る白い衣装が生える。

 やはりスターは、愛燈王アイドールキングの人気はすごい。


 そこから1時間半、ユメイの、ユメイ・マッカートニーの本気のライブが始まった。


 俺はリハーサルでも感じた謎の感情が湧き上がってきた。どうして、明るい曲を歌っているのに泣けてくるんだろう。俺は首から下げたタオルでそっと、涙を拭った。


「泣いて癒やされるタイプ」

 トリュが隣で言った。

呪歌ジュカには癒やしの魔力が宿っているからな。これだけ研ぎ澄まされた呪歌をナマで聴いたらどんなストレスもほぐれるだろうよ」


 なるほど、度々実感はしていたが、これが呪歌の持つチカラか……。


「俺はおまえの持つ呪歌の素養の方が好みだけどな」

「呪歌の素養? ですか?」


「呪歌によって発散される効果は人それぞれだ。癒やしなのは変わらないが、こうやて『泣ける』ものもあればお前のように『希望』を持たせるモノもある――――」


「俺の呪歌が希望?」

 それは初耳だ。

「なんだ、気付いていなかったのか。お前の歌はだから明るい曲ばかりなんだよ」

「はぁ……実感無いですねぇ……」

「本人にしたらそんなモノかもしれないな」


 そうして、1時間半。ユメイの泣けてくる来舞は無事終わった。

 最後のアンコール曲の盛り上がりは特に凄かった。皆、ハンカチやタオルを離せないでいるんじゃないか?


「お疲れさまです! ユメイさん!!」

 舞台袖に駆け込んで来たユメイに、俺は声を掛けた。

「ああ、ありがとう、ケース!」

 ユメイから大量の汗が流れている。あれだけの歌をひとりで歌っていたんだ。相当負担にもなっているだろう。

 ユメイは近くにあった飲み物を飲み干すと、笑顔で俺に言った。

「ケースの来舞が有ったおかげで、いつもより気合いが入りましたよ!」

 社交辞令だとしても嬉しい。


「よくやったわね、ユメイ」

 いつの間にか、ユメイのプロデューサーのマトリ・マーティンが控えていた。

 今日はマトリの髪色が黒い。いつもの赤い髪に比べると大分地味になっている。なるほど、魔術で変装しているのか。

「お客さんの反応は上々よ」

「それは良かった」

「ケース様、トリュ様もありがとうございます、お疲れさまです」

 マトリはこちらに向かって一礼した。

 俺もすかさず礼を返す。トリュもゆっくりと返礼した。


「さて、そろそろ俺たちは楽屋に戻るか」

 トリュが言う。

「エルとメロウが立ち寄るはずだからな」

 そうだった、ふたりが来てくれる予定だったっけ。


 再び楽屋に戻った俺とトリュ。ここを空けたのはたった2時間前のはずなんだが、なんだかもっと長い時間が経ったような、変な感じがする。

 自分の来舞とユメイの来舞、それだけ濃い時間だったんだ。


「お疲れさまでした、ケース様!」

「よぉ、ケース頑張ってたな」


 エルとメロウも楽屋に到着した。

 メロウは、今日は水色のフリルワンピースにレギンスという女の子らしい姿だった。いつものよれたTシャツに短パンとは大違いだ。

「メロウ、来てくれてありがとう」

「別に。チケット余ったんだし、せっかく私の曲が使われるなら見ておきたかっただけだし」

「素直じゃないなぁ、このちびっ子!」

 トリュがメロウに野次を飛ばす。

「だからちびっ子じゃない! 22歳の立派なオトナだー!!」

 そう言って挑発に乗れば乗るほど、子供っぽいんだよな。


「ケース様の来舞も、ユメイ様の来舞も、素晴らしかったですわ。呪歌の方向性の違いも楽しみました」

「私はユメイの呪歌はエグくって苦手ー」

「まあ、その生々しいところがいいんじゃないですか!」

 エルとメロウが論戦を繰り広げようとしたところでトリュが割って入った。

「はいストーップ! 俺はそういう話に興味ありませんっ! ついでに言うとここはユメイの本陣そのものなので止めて欲しいのもあるっ!」

「……なんだ、トリュも一応空気読むのか」

 メロウに同意。


「しかしなんだな、ケース」

 メロウが俺を小突いてきた。

「このまま夏の新人賞候補選出に乗るなら、次の来舞もさっさと決めないとな」

 そうだ、俺はここがゴールじゃなかったんだ。どんどん来舞して知名度と人気を上げてまずは賞候補に入らなければならない。そのためにも――――

「メロウ先生にもどんどこ曲を書いて頂かないといけないなぁ!」

 トリュがメロウに応戦する。

「書きますよーだっ! 今の私はケース専属の作詞作曲家だからな!」


「そうですわ、今晩はメロウ様も当家でお食事していきませんか?」

 よろしいですか、トリュ様? とエルがトリュに改めて問う。

「全然オッケー。軽く打ち上げをしよう」

 トリュの許しが出た。

「わーい! 行く行く! エルの出来たてのお料理が食べられる~!」

 メロウも快諾のようだ。

「お祝いは多いほうがよろしいですものね、ケース様」

「そうだね、嬉しいよありがとうエル」


 俺たちは楽屋と衣装を片付けて、ユメイとマトリに改めて挨拶をした後、屋敷に帰って行った。

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