第14話 初ライブ(ドリムとの出会い)!
――そうして、いよいよ俺のデビュー
ライブオープニング曲が終わり、俺の持ち歌のイントロが流れ始める。
俺はマイクを握りしめ、一歩、また一歩と
舞台の上は先ほど軽くリハーサルした時と全然違う。眩しいスポットライトに照らされたキラキラの世界がそこには在った。
イントロから歌部分が始まる。いよいよ俺は歌い出した。
そうして、スタンディングの客席サイドを見つめた俺の見た光景は――――
最前列に4人。
他のお客――40人は居るだろうか――は一歩引いた状態でこちらを伺っているようだった。
ああ、そうだ。俺勘違いしてた。
今日来ているお客さんは『他の』タイバン愛燈を見に、応援しにこの神殿の小ホールに集まっているんだ。無名の、初ライブの俺に用があるわけじゃない。
そういえばスタメ、スターメーカープロジェクトの初期もこんな感じだった。俺は
そして他の客は他のアイドルのファンTシャツなんか着て。完全にアウェイ感が有った。懐かしいな。そんなスタメも今や幕張で3rdアルバムライブを開催出来る規模まで成長して――って話が脱線した。今これ以上スタメについて考えるとライブに行けなかった俺が悲しくなってしまう。
まあとにかく、事前に外回りの営業――こちらの世界にも有るのか? ――や告知もしていない俺の場合は尚更、俺目当てのお客なんて居るわけがない。
これなら、と俺は何だか気軽になった。特に期待されているわけじゃない。ミスして責めるようなお客も居ない。
俺は俺で、この舞台を楽しもう。たったの3曲だ。
声が一段、伸びた。あれ? もしかして俺、今までで一番上手く歌えてる?
「はじめまして。ケース・カノです。今日は俺の初来舞になります……。上手く歌ったり話せたり出来ている自信まるで無いんですけど、曲は絶対にいいので良かったら聞いて下さい。それでは3曲目、『カーニバル』!」
慣れないMCも何とかこなせ、俺は3曲めも歌いきった。よかった。為せば成る……。
「それでは次にバトンタッチです。この後もよろしくお願いします!」
最後の挨拶だ。俺は威勢よく舞台袖に帰っていった。
背後の客席から、パラパラと拍手と声援が聞こえた。
「良かったよー!」
「また見に来るからねケース!」
「次も待ってるぞ~!」
え? え? え?
俺にまた、緊張が走った。
俺、何だかある程度は喜ばれてしまった――――?
ドクン、ドクン、と鼓動が高鳴る。
「大成功だな、ケース。お疲れ様」
トリュがニヤついて俺をねぎらう。
「初演でこれだけ出来れば十分だ」
「は、はあ……アリガトウゴザイマス……」
緊張感が解けたのと、また緊張しだしたのとで、俺は混乱している。
おかげでこの後、このタイバン来舞中の記憶は全く残らなかった――――
「お疲れさまでした!」
先に帰る先輩愛燈たちを見守る。新人の俺が最後に出るのが礼儀だ、とトリュが教えてくれた。
「――さて、これで全員帰ったし、俺たちも帰るか」
ようやく、俺たちも神殿を後にする。外にはエルが待っていてくれた。
「お疲れさまです、ケース様、トリュ様。初演としては素晴らしい舞台でしたよ!」
満面の笑顔で微笑んでくれた。エルは後方から観客の様子を含め、見守ってくれていたのだと言う。
先に帰ってしまったのだが、メロウもしっかり応援に来ていたらしい。今度ありがとうと伝えておかなくちゃな。
「観客たちも1曲めの途中から、明らかにケース様の
「え? そんなだったの? 俺全然覚えて無いっすよ!」
「ふふ。懸命に歌っておりましたもんね――」
「近いうちにファンサービスが出来るくらいの余裕を持ってもらわにゃな」
トリュが間に入り込む。
そんな雑談をしていたところで――――
「あの、ケース・カノさんですよね? さっきの来舞見てました。俺、歌にも曲にも感動しちゃって――」
そこに、ひとりの青年が現れた。
20代前半だろうか。漆黒の髪にルビー色の瞳。片目は前髪で隠れているものの、精悍な顔立ち。背は…トリュと同じくらいだろう。高い。そして見栄えがとても良い。
「実は俺も歌王、やってるんです。って言ってもこのギエドじゃ一度も来舞した事もない、無名同然の愛燈なんですけどね」
その青年は語り始めた。
「…………」
トリュは珍しく無口だ。が、すぐに切り替えた。
「そうですか。よろしかったらお名前をお願いできますか。あ、私はトリュと言います。ケースのプロデューサーです」
「ドリム。ドリム・レノンって言います。……やっぱり無名、ですよね? アハハ……」
ドリム、と名乗った青年は軽く笑って続けた。
「それで、ケースさんの持ち歌、あれってメロウ・ヨハンソンのものじゃないですか? 俺、イントロからそうかもって思って! メロウ・ヨハンソンの曲は昔からファンでずっと聴き続けているから多分当たりだと思うんですけど――――」
ドリムは早口に一気にまくし立てた。ああ、俺、知ってる。これはオタクの喋り方ですね。しかしメロウって本当に有名人だったんだなぁ。
「確かに。メロウ・ヨハンソンの曲ですよ」
「やっぱり! すごい! すごいです!」
ドリムはルビー色の目を輝かせる。
「俺も以前、頼み込んで曲を依頼したことが有ったんですけどもう全然取り合ってくれなくて、断られてしまって――」
「ちょっと! ドリム君! 何ひとりでうろついてるんですか!! 探しちゃったでしょう!?」
そこに、メガネを掛けた赤い長髪の派手な女性が現れた。もしかして歌姫か?
「いやいやごめん、エピー。ほら、さっき言っていたケースさんたちにお会い出来たんだ」
ドリムは軽く謝りながらエピーという女性の方を向く。
「ああ、お会い出来たんですね。でも単独行動はやめてくださいよ! また行方不明になったかとヒヤヒヤしてしまいましたから!」
エピーと言われた女性は改めてこちらの方を向き、挨拶を始めた。
「私、こちらのドリムのプロデューサー兼マネージャーを務めるエピー・エプスティーンと申します」
プロデューサーの方はどちらでしょう? とトリュとエルふたりに目を向ける。
「ああ、私がプロデューサーのトリュです。よろしくおねがいします」
トリュとエピーはお互いに名刺交換を始めた。
「…………『トリュ・ギャラガー』様というとあの北の大魔術師の!?」
エピーは目を丸くした。
「はい、北のと言わずにもう世界の大魔術師です!」
「それはそれは……」
「嘘っ!? あのギャラガー家の方だったの!?」
ドリムもビックリしている。
どうやらトリュもメロウに負けず劣らず有名人らしい。
「そうですか、再び愛燈の世界に戻ってこられたのですね…………」
エピーはトリュをまじまじと見つめる。
「はい。次こそ
挨拶もそこそこ済ませたドリムとエピーは俺たちと別れる。
「また、お会いする事もあるでしょう。この愛燈界、広いようで狭い世界なので」
ドリムはそう言って去っていった。
「…………」
トリュはまた黙ってしまった。
「どうかなされました? トリュ様。先ほどのお二人に不審な点でも?」
不審な点? 俺には何も解らなかったしエルも解らない様子だけれど。
「……うん、いやなぁ。ドリムの方だが」
大した疑問でもないんだが、と付け加えて
「どうして魔術を使ってまで髪の色を染めてるんだと思ってなぁ……?」
「まあ、魔術を使ってらしたのですね。それでは私は気付きませんね」
エルが言う。なるほど、俺も気付かないはずだ。
「そういうファッションかもしれないし、違うかもしれない。意味が解らん」
とりあえず、屋敷に帰るぞ、とトリュは歩き出した。
俺たちも続いて帰路につく。
「今晩はちょっと、いつもより豪勢なお食事を用意しています!」
エルが機嫌よく俺に言った。
そうだ、俺は無事、初来舞を終え、愛燈として一歩踏み出したんだ――――
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