第298話 救宝のラビリンス

 オルトランに入って2日目。


 空気が乾燥し、大きな湖がオアシスのような印象を持つ、かなり砂の目立つ巨大な街。


 目的地の『サヌール』に到着した俺は、買い食いしながら情報収集して辿り着いた、宮殿のような建物を見上げていた。


 大きな入り口の上には剣や杖の描かれた凄く見慣れた看板が。



(マジかー……)



 どうやらここがこの町のハンターギルドであり、ダンジョンの入り口でもあるらしい。


 地下迷宮というくらいだから地下であることは予想していたけど、まさかその入り口が建物の中にあるとは思わなかったし、ハンターギルドが管理しているとも思わなかった。


 中に入っても、やはり造りが今までとは違って独特だな。


 いつもは入って右側に進めば閑散とした修練場があるのに、ここではその右側が煩雑としていて人の出入りも激しい。


 となると、目的の場所はそちらだろう。


 数人、男臭いおじさん達と擦れ違いながら通路を進めば――



「おおっ……」



 思わず声が漏れるような光景がそこには広がっていた。


 修練場よりもさらに広いくらいのゆったりとしたスペース。


 そこには多くの椅子とテーブルがあり、食事や酒を飲んでいる人もいれば、お金を皆で分け合っている姿も見られる。


 いつもの見慣れた光景でありながら、その広さはよく見る受付ロビーの10倍くらい。


 気になって探している『米』はここでも見当たらないが、左側には系統の違う複数のお店が料理を提供しているし、まるで現代のフードコートのような雰囲気を感じさせる場所だな。



 そして右側の光景も何やら新鮮で面白い。


『無料貸し出し』『種の買取』『鉱物の買取』『武器の買取』『アクセサリーの買取』『希少物品の買取』『鑑定所』『相場相談』『オークション出品受付』『生き物の買取』


 壁際には、まるで出店のようにズラリと看板が掲げられ、いくつかの専門に分けられた買取のお店が。


 そして正面には、地下へと繋がる石造りの大きな階段。


 その脇には案内役なのか、カウンターに二人の女性が座っていた。



「こんにちは。ダンジョンは初めてなんですけど、そのまま入っちゃっていいんですかね?」


「大丈夫ですが、ハンター資格が無いとこの場で換金できませんから、最初にハンター登録を済ませてから来てくださいね」


「あ、ハンターなんでそこは大丈夫です」


「でしたら横の無料貸し出し所で、5点セットをお持ちください」


「ん? 5点セット?」



 疑問に思いながら視線を向ければ、おっちゃんが満面の笑みで手招きしている。


 釣られて足を運べば、出てきたのは『革袋』『大きい籠』『ホウキ』『ちりとり』『縄』の5つ。



「ホウキとちりとりで種を回収したら、その種は革袋に。籠には生き物を入れるのが基本だ。稀にデカい生き物が出ちまったら縄で外に連れてきてもいいが、まぁ大概は中の滞在組に売った方が金になる。あとは篭るために料理道具とか寝袋持ってく連中もいるけどよ。兄ちゃん手ぶらだし、一人なら日帰り予定だろ?」


「そう、ですね」



 あれよあれよという間に、籠に詰められた5点セットを渡され、親切なことにそのまま背負わされる。


 なるほど、みんなダンジョンにはこうして向かうのか。


 ダンジョン内部から拠点に直行直帰を考えていただけに、この荷物をどうしようと頭を抱えそうになるも……



(まぁ初日だし、今日くらいは普通の人の流れに合わせて動いてみるか)



 そう気を取り直し、地下への階段を進んでいった。






「おっほっほー! テンション上がるわ~!」



 体感15から20メートルくらいは潜って辿り着いた第一階層。


 階段を一歩降りるごとに少しずつ広がる景色は期待通りのもので、自然と足取りも軽くなってしまう。


 地面も壁も一面が茶色で、しかし壁掛けの松明が等間隔に存在しており、内部は部屋と通路で幾分かの明暗を分けながら奥まで続いていた。



『風の、乱刃よ、壁を、破壊しろ』



 ビュビュビュビュビュ――……!



 うん、『本』の内容から予想していたことだけど、まさかここまでゲームに寄せてくるとはね。


 壁も床も破壊不能オブジェクトのようだし、消えることも壊れることもない光源が用意されているとは、さすが初心者用ダンジョン。


 もしくは難易度に関係なく、ダンジョンとはどこもこういったものなのかもしれないな。


 となれば……おぉう、マジか。


『地図』を開けば見たことのない画面が映し出され、そのまま視界の先に広がっていた部屋へ足を踏み入れれば、新しい部屋が"マッピング"されていく。


 今まで見てきた外の世界とは違い、ダンジョン専用の地図が別に設定されているという事実。


 ということは迷宮と名が付くくらいだし、1フロアがそれなりに大きい可能性も出てきそうだ。


 いやーマジで。


 なんなん? なんなんなんなん、この世界。


 思わず口ずさんでしまうくらいに意味が分からず、そして楽しい。



 ――【心眼】――



「グギーッ!」



「……」




 あとは――、『転移』。


 一度町の上空へ飛び、すぐに先ほどまでいた部屋に戻る。


 よし、ダンジョン内の転移は可能で、しかしモブは再湧きしていない。


 ってことは、外のボス部屋と違ってリスタート無しのリポップは時間経過。


 適正ダンジョンでもないし、再湧きの周期調査はそのうち下層で必要と感じたらやるくらいで良いだろう。



「ギィ!?」



 しかし、弱いな。


 襲ってきたのは斧やら短剣を握ったコボルト達だが、強さはパルメラのゴブリン並み。


 初級ダンジョンの1階層だから当然と言えば当然なんだけど、メチャンコ弱くてデコピンでも倒せそうなくらいである。


 そして魔物は倒れた傍から武器を含め、身体が煙のように溶けて消えていく。


 代わりに残されたモノは――。



「これが、種ね」



 地面には小さな何かの種が、4粒ほど転がっていた。


 なるほど、ホウキとちりとりを渡された意味がよく分かる。


 しかしなぁ……



 ――【探査】――『種』。



 うーん。


 当初は種なんて需要はなく、拾うのも手間で、ダンジョンの隅でゴミのように溜まっている。


 このくらいの雑な扱いを予想していたのに、種専門の買取場所はあるし、部屋は思いの外綺麗だし、存外に種の需要と買値が高いのかもしれない。



「まぁ、あとは潜ってみてだな」



 とりあえず美味しくないコボルト以外の敵も、【心眼】を通じて視てみたい。


 果たして新規魔物、新規スキルは存在しているのか。


 俺は鎧を脱いだらホウキとチリトリをそれぞれ手に持ち、身軽さ重視でダンジョン高速マッピングを開始した。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る