第286話 『最善』の一手

 目の前には砂埃と周囲の血肉を巻き上げ、石壁を超えるほどの高さにまで到達した竜巻。


 レベル8の【風魔法】によって生み出されたソレは、発動範囲を限界まで狭め、引き換えに無数の乱刃による殺傷と、内に封じ込めるという対象の拘束を可能にした。


 結果内部で子供が錐揉みのように、前後不覚になりながら悶えている姿を薄っすら目にするも、これでもまだ不安が残る。


 目の前で空を飛んだことは、現実として飲み込もう。


 しかし、弟の首を一瞬で刎ねたあの動きだけはまったく理解ができない。


 結果を見れば、尋常ならざる速度で接近した。


 化け物染みた一桁ランカーの動きを考えれば、そういう結論になる。


 が、放った【闇魔法】は確かに発動していたのだ。


 偶然【闇魔法】に耐性があったとしても、拘束特化型と呼ばれる魔法を受けてなお、あそこまで動けるのは明らかに異常。


 できることならにしたいところだが。



(これはさすがに、手に余るか……)



 ならば、やむを得ない。


 このまま殺し切るまで、この監獄から逃がしはしない。



「ア、アシュー様! 持ってきました!」


「私がこのまま拘束し続けます。【火魔法】を使える者は最優先に、【投擲術】持ちは運ばれてくる『油』を樽のまま投げ入れなさい」


「わ、わかりました! 持続性を優先させます!」


「うらぁ!! この距離なら確実だ! 次の樽持ってこい!」


「中型増幅魔道具の設置完了。火属性と風属性の増幅を開始します」


「矢を射る意味はなさそうなので、魔石の予備も取ってきますね!」


「下の者達にも、武器を投げ入れろと指示を出してきます」



「良き成果を出した者は、次の弟か妹として、私が直接可愛がってあげますからね」





 ▽ ▼ ▽ ▼ ▽





 最初は無数の乱刃を閉じ込めた竜巻のようだった。


 俺の回りにいたゴロツキ連中も、そして足を切断されていた赤髪の女性も瞬く間に肉塊へと変わり、視界は茶色からすぐに鮮血の赤色へ。


 全身に鋭い痛みを覚えて思わず【不動】を使えば、そこからは猛風に身を任せて宙を舞うばかり。


 痛みはないが、視界を覆う不快な光景と前後不覚なこの状況に、ただただ顔を顰めるしかなかった。



 このような環境こそが、【空間魔法】の弱点だろう。


 ただでさえ発動が遅いのに、術者や対象に動きがあると、その遅さが極端に延びてしまう。


【不動】を止めることはできず、転移による脱出もできない状況が続き、しかしこのミキサーのような極地的暴風が終われば場も動く。


 そう思っていたら、お次に待っていたのは油と火球の投下だった。



 ――【発火】――



 瞬く間に風が油と火を飲み込み、融合し、爆発的な火力へと変貌していく。


 それは内部から見ていても、どこか見たことのある光景で――


 あの時、中にいた龍はこんな気持ちで外を眺めていたのかなと、思わず発動してしまいそうになるくらいだった。


 まぁこんな町中でやれるわけもないが。



 次々と放たれる様々な魔法や武器。


 一向に止む気配の無い猛威。



『風よ、この竜巻を、強制的に、止めろ!』



 もう、我慢の限界だった。


【不動】の切れ目に合わせて覚悟を決め、腕で顔を覆いながら、素早く詠唱を終える。


 イメージは流水と同じ、【風魔法】による風力の強引な上書き。


 すると範囲の狭さが功を奏したのか、急速に周囲は穏やかになり。



 ――【飛行】――



 宙に浮いたままようやく拘束から抜け出せば、石壁の上にいたあの男が、目を見開きコチラを見つめていた。



 あぁ。


 やっと、捕まえられる。



「ひはーっ!」


「ッ!?」



 この距離なら、バーストを使って飛んだ方が速い。


 飛来する俺を見て、咄嗟に杖を握り直し、刺突を繰り出すが――所詮は杖を所持した遠距離職。


 ここで鈍間な詠唱を開始しないだけまだマシだが。



「ヅァ……ッ!」



 両腕を切断し、そのままこの男にはこれがお似合いだろうと、すぐさま両足も切断する。



「ア、アヒッ……あづっ、あが……」



 あぁ、そういえば。


【発火】したままだったことを忘れて今更切るも、手足を失った男に纏わりつく火が消えることはない。


 魔法防御力が高いのか、火の回りは非常に遅いが……


 手足が無ければろくに火消しもできず、もう詠唱どころではないだろう。


 仲間なんざお構いなしに、目的優先で殺傷能力の高い魔法をブチ込んでくるようなヤツだ。


 弟と違ってあっさりと殺しはしない。


 ゴミはゴミらしく、苦しみながら死ねばいい。




『雷光、一線、薙ぎ払え』




『【投擲術】Lv4を取得しました』


『【射程増加】Lv1を取得しました』


『【歌唱】Lv3を取得しました』


『【算術】Lv5を取得しました』


『【封魔】Lv4を取得しました』


『【描画】Lv3を取得しました』


『【投擲術】Lv5を取得しました』


『【作法】Lv4を取得しました』



 指先から伸ばす雷光で、茫然と立ち尽くしていた遠距離部隊の者達を両断し、あらかた綺麗になったところで眼下を見下ろす。


 現状を理解したのかしていないのか。


 300か400はいそうなゴロツキどもが、総じてこちらを見上げていた。



【探査】――バーナルド一家に属さない者。



(反応はないが、どうなんだろうな……)



 やるなら今だ。


 ここで躊躇い、四方へ逃げられれば、間違いなく追いきれなくなる。


 そうなれば収拾はつかなくなり、被害は確実に広がるだろう。


 "天雷"を撃とうとし――、だが先ほどの少年の顔が、あの時の言葉が脳裏を過った。


 ここで撃てば、俺の魔力は多くに見られる。


 それでも俺は――、



 もう後悔はしたくない。


 ならば、撃て。


 多少の犠牲を払い、魔物と罵られようとも。



 この状況での『最善』を得るために、一人残らず―――





「眼下の、『悪』は、余すことなく、死んでください、"天雷"」





『【酒造】Lv3を取得しました』


『【薬学】Lv4を取得しました』


『【採掘】Lv5を取得しました』


『【魅了耐性】Lv2を取得しました』


『【細工】Lv3を取得しました』


『【庭師】Lv1を取得しました』


『【演奏】Lv3を取得しました』


『【畜産】Lv5を取得しました』


『【加工】Lv4を取得しました』


『【芸術】Lv3を取得しました』


『【俊足】Lv6を取得しました』


『【泳法】Lv2を取得しました』


『【伐採】Lv5を取得しました』


『【剛力】Lv7を取得しました』


『【拡声】Lv5を取得しました』


『【採取】Lv5を取得しました』


『【二刀流】Lv2を取得しました』


『【酒造】Lv4を取得しました』


『【舞踊】Lv3を取得しました』


『【歌唱】Lv4を取得しました』


『【彫刻】Lv1を取得しました』


『【料理】Lv7を取得しました』


『【物理攻撃耐性】Lv6を取得しました』


『【釣り】Lv5を取得しました』


『【描画】Lv4を取得しました』


『【芸術】Lv4を取得しました』


『【畜産】Lv6を取得しました』


『【絶技】Lv6を取得しました』


『【細工】Lv4を取得しました』


『【加工】Lv5を取得しました』


『【弓術】Lv6を取得しました』


『【建築】Lv5を取得しました』


『【逃走】Lv6を取得しました』


『【鋼の心】Lv5を取得しました』


『【採掘】Lv6を取得しました』


『【聞き耳】Lv4を取得しました』


『【伐採】Lv6を取得しました』


『【金剛】Lv7を取得しました』


『【農耕】Lv7を取得しました』


『【家事】Lv7を取得しました』


『【豪運】Lv5を取得しました』

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