第242話 念願

「そうでしたか。あの二人が『仲間』に」


「仲間とは具体的に何をするのですか~?」


「んーそう聞かれるとなんだろうね? 凄いポヤッとしてるんだけど、狩りだけじゃなくて……お互い助け合いながら、その先の目標を共有して一緒に行動するのが仲間なのかな。ゼオさんには血をあげなきゃだし、古代人のあの二人に帰る所なんてないっぽいし」


「それはそれは、下界でロキ君を守ってくれる者が現れたということですね~!」


「リガルは少し悔しがりそうですが……それでも皆が喜びそうな話です」


「はは、今は二人の生活基盤を俺が整えるって感じだけどね。ただこうなってくると、当初の予定をどうしようって問題が浮上してきてさ」


「拠点の話ですね?」


「あ、分かった?」


「えぇ。私達はこの時を待っていましたから」


「ふふっ、とうとうですか~?」


「うん。だから他の皆にも現状2つの選択があることを伝えておいてほしいんだ。特にアリシアに」


「もちろんですよ。私はロキ君の望むやり方に合わせます」


「どちらのやり方でいくか、皆にも聞いておきますよ~」


「じゃあまた連絡するから、その時にね! 見守ってくれててありがと!」



 あれ? なんかちょっといつもと様子が違うような気もするけど、気のせいかな?


 手を振りながら霧となって消えていく二人を見守りつつ、今後の事を暫し考える。


 やるべきことはいっぱいだ。


 でも、その全てがやりたいことで、いったい何から手を付けたらいいのか分からない。


 こんな幸せなこと、滅多にあるものじゃないと思う。





(本当に、とうとう……とうとうだ……ッ!)






「お待たせしましたー!」


「随分長いトイレだな」


「嬉ションってやつでしょ? ボク聞いたことあるよ」


「違うわ! 犬じゃねーし!」


 いつまでも見守ってもらうのは申し訳ないと思ってすぐに声をかけたが、女神様達のことはさすがにまだ言えない。


 それは皆の許可が下りてから――お互いが悪感情を持っている可能性もあるので、ここだけは慎重にいくことを許してほしい。


「えーと、もう一回教えてください! 間違えないようにメモしますんで!」


「それは構わないが、ロキよ。まずはその他人行儀なしゃべり方を止めてほしい」


「え? あっ、どうしても癖で、ごめん……」


「我はロキを同胞であり仲間だと思っているし、何よりも命を繋いでくれる恩人だ。これでは我まで言葉遣いを正さねばならなくなる。我儘を言うが、カルラのようにしてもらえるとありがたい」


「うん、分かった。じゃあ『ゼオ』でいいかな?」


「あぁ、その方が自然だ。ではもう一度言う。確実に必要なのは――」



【魔力操作】Lv5


【時魔法】Lv5


【無属性魔法】Lv8



 震えそうな手に力を込め、ゼオから言われた3つのスキル名と必要レベルを書き写していく。


 横でカルラが、今はこんな書き物があるんだね~って感心していたが、ごめん、今は相手をしている余裕がない。


 ステータス画面を開き、現状のスキルと照らし合わせ――



(うん、大丈夫だ。たぶん足りる、はず……たぶん……)



 現状のスキルポイントは『928』。


 かつて【狂乱】を上げた時は、レベル2からレベル8までで、たしか700くらいのポイント消費だったはずなのだ。


【魔力操作】Lv5は条件をクリアしているので


【時魔法】Lv4→Lv5


【無属性魔法】Lv3→Lv8


 今回足らないのはこの二つだけ。


 こんなことなら【無属性魔法】をレベル4まで上げておけば良かったと若干後悔だけど、これのために頑張って貯めてきたのだから、もう我慢なんてできそうもない。




 ふぅ――――――――………




 長い深呼吸。


 よし……じゃあ、いこう。




(【無属性魔法】をレベル4に)


 ポイント消費30。


『【無属性魔法】Lv4を取得しました』




(【無属性魔法】をレベル5に)


 ポイント消費50。


『【無属性魔法】Lv5を取得しました』




(【無属性魔法】をレベル6に)


 ポイント消費100。


『【無属性魔法】Lv6を取得しました』




(【無属性魔法】をレベル7に)


 ポイント消費200。


『【無属性魔法】Lv7を取得しました』




(【無属性魔法】をレベル8に)


 ポイント消費300。


『【無属性魔法】Lv8を取得しました』




 ここまでで、スキルポイントの消費は『680』



 よし、いけるッ!!



(【時魔法】をレベル5に)


 ポイント消費50。


『【時魔法】Lv5を取得しました』




『【空間魔法】が解放されました』







「ぬぅぉおおおおおおおおおおおおおおおおッ!!」







「な、何が起きた!?」


「ちょっとー! なんでロキはそうやって急に横で叫ぶの!?」


「ごめん! ごめんなさい~嬉しくて、あぁ、嬉しくて、もう死にそう……」


「はぁ!?」


「カルラ、私よりロキとの付き合いが長いのだ。この状況を説明しろ」


「師匠ぉ~ボクだって起こされたの今日だし、分かるわけないよ~」


「ごめんね。ちゃんと説明するから、ちょっ……あ、ここら辺壊さなければ好きに見てていいから、待ってお願い」



 特製籠をそのまま渡しておく。


 とりあえず二人にはそっちで遊んでおいてもらおう。


 興奮で過呼吸になりそうだが、大事なのはここからなのだ。


 余ったスキルポイントは『198』。


 全部ツッパでポイントをぶっこめば――うぉぉ、なんてこったい!


 丁度レベル6まで持っていけるじゃないか!


 だが一番の問題は、果たしてそこまで必要なのかということ。


 これからはポイントをどんどん好きなスキルに振っていけるのだ。


 適度なところでスキルレベルを止めても、俺が望む【空間魔法】の使い方ができるようなら、他に回した方が有意義ってもんである。


 うーん、でもまぁ、とりあえずはポチっとな。



(【空間魔法】をレベル1に)


 ポイント消費2。


『【空間魔法】Lv1を取得しました』



 そしてすぐさま詳細説明を開けばこのように出てきた。



【空間魔法】Lv1 一時的に亜空間と繋がり、その空間を活用することができる。 消費魔力:空間使用範囲と接続時間による。



 なるほど……


 今までの魔法系統とは違う説明だな。


 空間使用範囲と接続時間というのは、移動距離とかそこら辺で消費魔力が違うよって、そんな感じでいいのだろうか?


 ん~レベルを上げる意味があるのかどうか……


 ここはやはり、"師匠"に聞くべきだろう。



「ゼオ、【空間魔法】のスキルレベルって、上げるとどんなメリットがあるか分かる?」


「魔力消費の減少だな。あれはレベルを上げねば使い物にならぬぞ? 遠距離移動はもちろんだが、空間内に荷物を保有し続けるだけでも、その容量に応じて常時魔力を消費していく」


「え……マジっすか……?」


「我はそれで全てのモノを失っているからな」


「……」



 これはちょっと舐めていたというか、想像以上にハードな魔法かもしれない。


 移動距離と魔力消費に相関があるのは当然のことと覚悟もしていたが、まさか荷物を亜空間に仕舞うだけで、それも常時接続と見なされるわけか。


 視界の隅でカルラが俺の服を着ようとしている。


 せめてパンツを履いてからズボンを履けと言いたいが、やっぱり今はそれどころじゃない。


 とりあえず失っても大丈夫な物をと、地面に転がる小石を拾い上げる。



 ――【空間魔法】――



「「え?」」



 詠唱が必要なのかもよく分からず、スキル名を言葉にしながら頭の中でイメージすれば、数拍の間を置いて黒く小さな穴が生まれ、小石をスッと飲み込んでいく。


 そのまま黒い空間はすぐに閉じたので、これで収納は完了。


 ステータス画面から魔力消費量を確認するも、さすがに小さすぎたのか何も変化は起きない。



「ロキよ、初めから【空間魔法】が使えたのか……?」


「手に持ってた小石が消えたよね? 発動したってこと?」


「あぁ、今覚えたんだ」


「「……は?」」


「なんか普通の人間と違うところが色々あってさ。あ、実験が必要だから少し外の森に行ってくるね」


「ちょっと待てーい!」



 その後、実験をすることでかなりのことが分かってきた。


【空間魔法】の主な使い方は3つ。



 まず一つ目の『収納』は、土や石など落ちているモノを片っ端から収納していったところ、6畳の部屋いっぱいに埋まるくらいの容量で魔力消費が推定毎分10程度。


 これが【空間魔法】Lv1の時の消費量だった。


 今俺の自然魔力回復量は防具込みで1分間に8~9くらいだったので、4畳半程度の部屋が埋まる収納量であれば魔力消費無し。


 6畳分くらいだと少しはみ出て、徐々に魔力が減少していくという具合だな。


 この辺は魔力最大量が増えればどんどん緩和されていくので、今まで以上に魔力ボーナスが欲しいとこだね。


 そして自然回復量を上回る大容量のまま寝ると、魔力切れと同時に接続も切れて全てのアイテムを失うらしいので、大容量寝落ちは何があろうと絶対にしてはいけない行為であることを理解した。


 それと収納判定は対象に触れながらイメージするという感覚の掴みにくいもので、土に触れながら"この辺り"というイメージを作れば、一定範囲内ならそのまま生える木や草も含めて収納されていく。


 取り出す時はインベントリとはまた違い、"何をどの程度取り出したいか"をイメージして引っ張り出すことになるので、他の魔法同様に使用者のイメージがかなり重要になってくる魔法だ。


 あれこれ探すような手間はないが、何を仕舞ったか覚えていないと『全出し』くらいしか取り出す方法がなくなるので、あまりにも収納が多くなるようならメモしておいた方が良いのかもしれない。


 あ、ゼオ曰く【無詠唱】持ちでなければ発動に発声は必要だけど、一般的な基礎魔法とは違うので長く節を唱える必要はなく、それこそ『収納』程度の自分が自然と連想できる言葉で問題ないそうだ。



 んで次に凄く重要な『空間転移』は、これはもう間違いなく距離がそのまま消費量に繋がっている。


 移動ポイントは目視か記憶、あとは俺の場合マッピングが完了した地図も該当。


 記憶というのは過去に行ったことがあり、降り立つその場所がしっかりイメージできていればってやつだね。


 距離数を測れるようなモノも無ければ、そこまでのことをしようと思ったこともないので、目算で大体1㎞くらいじゃない? っていう距離を飛べば魔力消費はレベル1でおおよそ1前後。


 これだけ見ると一見少ないように思えるけど、あくまで俺一人で移動した場合なので、手持ちの荷物や同行者など、質量が増えればそのまま魔力消費も増えることが、カルラやゼオを帯同することによって判明した。


 身体の大きいゼオの方が魔力消費も大きくなるので、少なくとも一人二人という人数で魔力消費は決まっていない。


 それと帯同条件は魔法使用者と直接接触していることらしく、それはつまり接触さえしていれば、本人の意思に関係なく運ぶことも可能らしい。


 ちなみに自分は転移せず、対象だけを指定の場所に転移させることはできなかった。



 そして最後が『消失』だ。


 イメージする場所をそのまま抉り取るという使い方なので、かつてルルブの風呂作りでやりたかったことがそのままできるようになる。


 難点としては、上記でも触れている通り対象を指定の場所に飛ばすことはできないので、これをやると消失したモノがどこに消えるかは一切不明だし、射程は接触していることが大前提。


 発動は収納と同じ要領で、ただ途中で接続を切ってしまうと消失に切り替わるというのが、実験を繰り返していく中で受けた印象だ。



 また最大の欠点として発動の遅さが挙げられ、これは『消失』に限ったことでなく、『収納』、『空間転移』にも共通していることなので、発生のラグは【空間魔法】の特性でもあるんだと思う。


 特にに対しての発生は極端に遅い。


 なので対人や対魔物で、動く相手に都合良くスパーンと切り取るなんてこと、よほど相手がアホでもない限りはできないし、緊急回避としてどこかへ瞬時にワープする――


 こんなことも、やれる時間があるならそもそも緊急じゃないので、そういう意味ではなんでもできる万能魔法ということではない。


 まぁそれでも精霊との接点が無いからか、魔力が外に溢れ出ることもないし、内容が神スキルであることに変わりないわけでして。



『【空間魔法】Lv2を取得しました』


『【空間魔法】Lv3を取得しました』


『【空間魔法】Lv4を取得しました』


『【空間魔法】Lv5を取得しました』


『【空間魔法】Lv6を取得しました』



 ハイ、もうスキルポイントスッカラカンの全ツッパです。



【空間魔法】Lv6 一時的に亜空間と繋がり、その空間を活用することができる。 消費魔力:50%減 空間使用範囲と接続時間による 



 1レベル上昇で魔力消費10%減。


 ここまで上げれば狩りで収納スペース12畳分くらいは使えるので、換金効率も爆上がりすること間違いなしだろう。




 「うふ……うふふ……うふふふふふふふ……」




「ねぇ、師匠……さっきからこの人、地面見ながらうふうふ言ってるけど、本当に大丈夫なのかな?」


「まぁ普通じゃないことはたしかだが……しかし、面白いな。それは間違いない」


「それは、うん、表情がしょっちゅう変わるから見ていて飽きないね」


「ならいいではないか。それにあの手の検証を好んでやる者は強いぞ? スキルを我が物として十全に使いこなすし応用も利く。カルラも見習うべきところだな」


「なるほどー!」



 検証は約小一時間。


 夜もすっかり暗くなってきたし、今日のところはこんなものでいいだろう。


 追々出てくる疑問はその都度検証していけばいいとして――


 次にやることは、やっぱりである。



 目覚めの祝い、仲間の祝い、念願の魔法取得祝い。



 色々あるけど、細かいことはどうでもいい。


 カルラは俺の服をちゃっかり着てるので、未だスッポンポンなゼオの服だけどうにかすれば、まだ宴には間に合いそうな時間である。


 ならば今日くらい派手に行っちゃいましょう!



「それじゃ皆でご飯食べに行こっか!」

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