第240話 目覚め
「ロキ君が、もう一体の回復も始めましたね」
「やはりそうなりましたか~。災禍の魔導士が【空間魔法】を所持していたことは以前伝えていましたからね~」
「それでも随分慎重に確認はしていたようです」
「いけそうなんですか~?」
「どうでしょう。会話を聞くだけではなんとも言えませんが……少なくともロキ君は、回復させられると確信してから行動に移ったようです」
「あらら~もし本当に回復できてしまったら、自身が魔人種である可能性が高いという結論に行き着くでしょうねぇ~」
「それはもうやむを得ないでしょう。しかし途中から魔人に切り替わるなど、そんなことあり得るのですか?」
「魔人は異種配合の結果から生まれた偶然の産物ですから、途中からなんて本来は考えられません~。しかし魔石を有さず魔力が黒いのは、かつての魔人種にしか見られなかった特徴でもあります~」
「……となると、問題はこの先ですか」
「もしロキ君が魔人種だったとして、見つかればどうなりますかね~?」
「ロキ君が転移者だからこそ予想できませんね。見つかるも何も、意図してフェルザ様がこの世界に送り込んだ可能性が高いわけですし」
「そうであればいいのですが~……奪われたく、ありませんね」
「えぇ、本当に」
▽ ▼ ▽ ▼ ▽
休憩を挟みながら、かれこれ……何時間だろうか?
外はもう夕暮れとのことで、少なくとも8時間以上は滞在している気がする。
途中でお腹が空けば、大喜びでカルラは外の野生動物を捕まえてきてくれた。
二人で焼いたお肉を食べながら、俺は生成した水を。
カルラは生血を。
なんとも危険な絵面が目の前に広がっているけど、相手は血が大好きなヴァンパイアさんなのだからしょうがないんだろう。
一応お上品に飲んでるので気にしないでおく。
「なかなか起きてくれないね」
「皮膚や頭髪はもう回復してるし、あとは体内魔力だけだと思うんだけどなぁ……」
「ロキの血は魔人と同じような味がしたと思ったけど、ちょっと質が違うのかな? それとも眠る期間が長過ぎた?」
もう回復始めたんだし、普通でいいよ?
そう伝えたらだいぶ砕けた口調になったカルラに質問されるも、それは俺に聞かれたって分からないことだ。
少なくとも俺が現状魔人種の系統に属しているんだろうなということは、今日の一連の流れで理解できた。
いったいなぜ? という疑問はあるけれど、魔力は黒いし魔物スキルは使えるしって時点で普通の人間じゃないことは理解していたので、今更知ったところで「あぁそうなのね」くらいしか思うことはない。
――女神様達と違って血中に含まれる魔力量が少ないから、その分回復に時間がかかっている。
――リアは以前に、俺の魔力は黒と青紫が混ざっているようなことも言っていたので、ちょっと本来の魔人と性質が違う。
――カルラはカルラで1万年どころか、1日も眠らせたことがないという話なので、『眷属』を眠らせ過ぎた弊害がモロに表面化してしまっている。
それぞれ可能性がありそうだし、下手をすれば複合でこのような結果になっているのかもしれない。
それでもカルラ曰く、ここまで魔力が回復したのは初めてのようで、十分凄いと大喜びしていた。
でも起きてくれなきゃ意味がないんだよなぁ。
それにこの魔王さん、なぜかめちゃくそ弱い。
【洞察】のレベルがまだ高くないのでかなり曖昧だが、今のところはそこら辺のEランク狩場にいるオークくらいには弱い気がする。
なんか魔力保有量が頭打ちになっているような印象もあるし……これじゃ、まともに魔法なんて使えないんじゃないだろうか?
「ん~1時間以上何も変化がないし、もう師匠って呼びかけたら起きないかな? このまま続けても先に進まなそうだし」
「え~っ」
なんだコレ。
目の前でテレテレしているヴァンパイアはまるで乙女のよう。
いや、男だけど。クッソ顔は可愛いけど。髪なんてサラッサラだけど。
「師匠~♪」
「……」
「起きて~♪」
「……ッ」
「「おぉ!?」」
カルラの掛け声に、僅かではあるが眉間に皺を寄せる魔王様。
これは掛け声作戦、効果覿面かもしれない。
「なんかいけそうじゃない? ホラ、俺も呼びかけるから頑張って!」
「うん! 師匠~♪ 朝だよ~♪」
「頑張れ頑張れ!」
「師匠~♪ ご飯だよ~♪」
「頑張れ頑張れ、起きられる起きられる、絶対起きられる!」
「師匠~♪ 大好きだよ~♪」
「え"!? が、頑張れもっとやれるってやれる気持ちの問題だ頑張れ頑張れそこだ!」
皺は深く寄り、肌には……なんか鳥肌みたいなモノがプツプツしているような気もするけど、やはりそれでも目覚めてくれない。
苦悶の表情を浮かべ、なんだか悪夢を見ていそうな雰囲気すらある。
うーん、吸血人種は魔力がないと何もできないって話だし、やっぱり根本的な魔力量が不足しているのか?
ならば。
――【魔力譲渡】――
譲渡効率は悪いけど、とりあえず100くらいは――そう思ったが駄目。
そもそも渡せず、生きていることはもう間違いないので、単純に魔力量が最大値になっていてこれ以上渡せないことが予想された。
つまり、この最大値を上げないと魔王様が起きない可能性も出てくるわけだ。
(うがぁーそんなの、強制的にレベル上げるくらいしか思いつかないし!)
あともうちょっとで【空間魔法】にリーチが掛かっているというのに、最後の一手が手繰り寄せられずに躓く。
たぶん魔王様ならレベルだってかなり高いだろうし、そもそも魔物が近くにいないのだから、強制レベル上げなんてまったく現実的じゃない。
なにか。
なにか、ないか。
魔王復活の一手が―――――――――
「ぬほぉぁぁああああああああああっ!?」
「な、な、な、なにっ!?」
カルラが驚いて飛び跳ねるも、今はそれどころじゃなかった。
あった。
一生使うことはないと思っていたクソスキル。
なるほど、なるほど、なるほどッ!
おまえの出番は、ここかーッ!!
――【強制覚醒】――
かつてキングアントから取得したこのクソスキルを、心の中でソッと呟く。
その瞬間、波のように不可視の魔力が俺の周囲から飛んでいくのを【魔力感知】が捉えた。
たぶんカルラも使っていたのか、目を見開き、壁すら通過していくその魔力波を眺めている。
「え? ロキ、今のなに――」
「ほらほら、そんなことよりカルラ、待望の魔王様がお目覚めだよ」
「ッ!?」
二人して視線を向ければ、そこには見た目だけで言えば40代くらいだろうか。
やや浅黒い肌をした男が、カルラと同じ真っ赤な瞳を天井に向け、身体を起こそうとしていた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます