第226話 次の標的
初代ショートソードは地面に。
2代目高級ショートソードは、全力でヴァラカンの首に向かって投げつける。
――【投擲術】――
「グォアアァ!」
命中補正付きの影響で、今まで散々斬ってきた傷口にそのまま剣が吸い込まれていく。
まぁそれでも埋まったのは剣身の7割ってところだが、ヘイトが俺に向いているならそれで良い。
コツコツとダメージを与えたおかげで、首が上手く曲げられず、満足に俺を見据えられていない。
足に蓄積したダメージのおかげで、最初の頃とは違い、もう跳ねることすらできないんだろう?
皆のおかげだ。
散っていった――皆の努力で今があるんだ……ッ!
――【身体強化】――【気配察知】――【捨て身】――
だから、ここからは弔合戦だ。
まずは、おまえを殺すッ!
――【威圧】――
上空にいる俺を辛うじて睨みつけていたその目が、一瞬にして怒気を失い視線を彷徨わせる。
素の実力で言ったらヴァラカンの方が上。
しかし、ゴブリンジェネラルから初めて【威圧】を食らった時、格下相手にもかかわらず俺は僅かに身体を硬直させられた。
目を合わせていれば、そして耐性が無ければ初回ほど効く。
しかしその後は強さの影響を大きく受け、同じ対象だと実力差があるほど効きが急激に悪くなる。
それが実験で分かった【威圧】の特徴だ。
だからここぞという局面まで温存しておいた。
(あのタンクさんに何回も使いやがって――やられる気分はどうだよ!!)
――【踏みつけ】――
全力で、残り3割ほどはみ出した剣の先端部――柄頭を踏み抜く。
「グォオオオオアア!?」
「黙れ」
そのまま頭部から伸びる1本の角を掴み取り、血走らせ俺を睨むその瞳に向かって――
「――【体術】剛力――【爪術】貫手――【硬質化】――」
全力でデカい瞳の奥へと手を潜り込ませていく。
「グギャァアアアアアアアアアアアアアアアア!?」
「さぁ、どっちが効くが実験だ」
「!?」
『頭ン中の、細胞壊して、弾け飛べ、"爆雷"』
「ギョォアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!?」
「次」
「グォガアアアアアアアッゴオオオオアオオォォォ!!」
『脳みそを、切り刻んで、かき混ぜろ、"千刃"』
「ギョゴアオオアア……アガが……ガぉぎがあァア……」
「どっちか分からないな。逆」
「……?」
「――【体術】剛力――【爪術】貫手――【硬質化】――」
「ガ……が……グッ……」
『頭ン中の、細胞壊して、弾け飛べ、"爆雷"』
ピクッ……ピクッ…………
『脳みそを、全力で、かき混ぜろ、"千刃"』
『レベルが57に上昇しました』
『【丸かじり】Lv1を取得しました』
『【丸かじり】Lv2を取得しました』
『【丸かじり】Lv3を取得しました』
『【丸かじり】Lv4を取得しました』
『【丸かじり】Lv5を取得しました』
『【灼熱息】Lv1を取得しました』
『【灼熱息】Lv2を取得しました』
『【灼熱息】Lv3を取得しました』
『【灼熱息】Lv4を取得しました』
『【灼熱息】Lv5を取得しました』
『【気配察知】Lv6を取得しました』
『【火光尾】Lv1を取得しました』
『【火光尾】Lv2を取得しました』
『【火光尾】Lv3を取得しました』
『【火光尾】Lv4を取得しました』
『【火光尾】Lv5を取得しました』
『【炎獄柱】Lv1を取得しました』
『【炎獄柱】Lv2を取得しました』
『【炎獄柱】Lv3を取得しました』
『【炎獄柱】Lv4を取得しました』
『【炎獄柱】Lv5を取得しました』
(称号は無しか……)
――【魂装】――
あぁ、全身が乾く。
現状の最高DPSコンボは素晴らしいが、これは魔力を使い過ぎだな。
できれば少し休憩したいところだが、まだ問題は抱えているし、のんびりはしていられない。
まずは剣を返してもらわないと。
「フンッ!」
「た、倒したのか……?」
「えぇ、確実に」
念のため周囲を見渡せば、まさか俺が一人で倒すと思っていなかったのか。
それともまだ倒せたと理解していないのか。
全員がその場で茫然と突っ立っている。
いや……1人は違うか。
先ほど右腕を失い、必死に逃げた男は岩壁の手前で倒れていた。
【探査】――死体。
ッ―――…………
あの位置で死体になっているということは、間違いなくヴァラカンに殺されていない。
あの【炎獄柱】の龍に食われたのなら、身体は運ばれてこの場にないはずなのだ。
つまり、この壁面にいる誰か――死体場所からしても、近場にいる遠距離部隊の誰かが魔法で撃ち殺したということはほぼ確定だろう。
あぁ、反吐が、出る。
「ボスは倒しましたが、他にもまだ、潰さなきゃいけない人達がいます」
「……」
「ここからはとても見せられるような光景じゃありませんから、僕を信じて眠っていてもらえませんか?」
「お、俺の力は、必要じゃないのか? 俺だって……!!」
「酷なようですけど、グロムさんも動けば間違いなく巻き込んで、あなたも殺してしまいます」
「……ッ」
「だから、お願いします」
「わ、分かった」
「では、僕の眼を見て――――――【睡眼】」
これから起きることは、夢だと思ってください。
▽ ▼ ▽ ▼ ▽
「た、倒しやがったぞ……マジで仕留めやがった」
「これは、凄いな……最後の攻撃は――何をしていた? 顔を殴っていたのか?」
「はっきりとは見えなかったが、地面に捨てられてるんだから目玉だろ。両方の目玉抉りやがって、たぶんそん中から攻撃したくせぇ。その前に剣もぶん投げてたから、あれが致命傷だったんだろうよ」
「まさか、本物か……?」
「あぁ、下手に刺激しちゃあ、こっちが想像以上の損害を被る可能性もある。ちゃんとあいつには分け前を渡した方が良い」
「止むを得ん。それに……二人か。近接が二人生き残ったという実績もあった方が、次回の募集も人集めはしやすいだろう。悪いことばかりじゃない」
「ちょっと盛って吹聴しとくか。二人だけ死んだって」
即席の壇上から降りたら、今回の英雄を称えるために中央へと向かうフィデルとガルセラ。
しかしその会話を聞きながらも、不安が拭えないユーリアは再度確認をする。
「ね、ねぇ、本当に大丈夫なんですか?」
「何がだい?」
「あの子供は、防具も身に着けずに一人で活動するくらい強いって……ジョフマンさんが」
「……強いのは先ほどの戦いを見れば分かるさ。でもね、こちらは約35名ほどの精鋭がいるんだよ? 向こうのタンクは気絶しているみたいだし、もし万が一何かあっても、僕がいなしている間に遠距離部隊がハチの巣にして終わりさ」
「そ、そう、ですよね……」
「それより」
「?」
「僕の前で、他の男の名前を口にしないでくれないか?」
「ご、ごめんなさい……」
この時、ユーリアは、今回は殴られなかったと安堵した。
他の人がいる時は優しいのだと。
憧れのAランクハンターがそう言っているのだから間違いない。
自分のようなCランクハンターでも気に掛けてくれる彼が言うのであれば……
(ごめんなさい)
死体が残らないからこそ、罪悪感が生まれにくい場所。
何も分からないまま訪れた前回は、その『何も残らない』という言葉になぜかホッとしてしまった。
でも今回は残ってしまう。
これからの結果が目に入ってしまう。
想像すれば胸が締め付けられ、一人ソッと「私はそこまで望んでいるわけじゃない」と、これから死にゆく運命の人達に謝罪をするのだった。
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