第195話 深層
あれから4日。
結局数を8に増やした専用狩場を巡り、死体の状況を確認しつつ【雷魔法】を撃ち込んでいく。
どこも順調と言えば順調。
死体除去は想定以上にフォレストウルフが良い仕事をしてくれており、【招集】では呼べないものの、翌日には匂いに釣られたのか大量に集まって『山』に噛り付いていた。
減っては増えて減っては増えての繰り返しではあるものの、狩れば徐々に周囲の魔物総数は減っていくので、一応当初に比べれば死体の数は半分くらいに減ってきている。
そろそろ下見だけしておいた荷車を購入し、武具の散布準備に入ってもいいかもしれない。
もしくはもう少し専用狩場の数を増やすかだな。
一番獲得しやすい【体術】はレベル7までもっていけそうだが、その他の近接戦闘系スキルも、『盾』以外はできればレベル6まで引き上げてしまいたい。
なんせ戦闘系のボーナス能力値は【杖術】【弓術】と【盾術】以外今のところ全て『筋力』だ。
ここで数種類のスキルを一気に引き上げれば、きっと体感できるくらいに俺の地力は上がってくると思っている。
(そうすれば、もしかしたらばあさんに――)
今の目標だ。
負けたくない、超えてやりたい。
どれくらい差があるのかは分からないけど……
ばあさんはそれこそ大ばあちゃんで、人である以上いつポックリ逝ってしまうか分からないのだから、できる限り早めに勝てる実力を身につけておきたい。
そんなことを考えながら、順調じゃない方の結果に視線を移し、その厳しい現実に眉根を寄せる。
まぁなぎ倒した木を輪切りにして撒いただけなので、この結果もしょうがないんだろうけども。
どのポイントに行っても、俺の自作『盾』が誰にも、一切、まったく拾われている様子がないのだ。
意外とゴブリンも贅沢者のようで、どうせなら最後は両手で握って、死の間際にでもゴブリンナイトへ転職していただきたかったのに残念な結果である。
「はぁ~盾の数が少ないんだよなぁ……」
どうしようもない悩みだ。
人が落とした物の再利用ということは、どうしたって人間の装備比率によってゴブリンの所持率も変わってくる。
やっぱり多いのは『短剣』と『棒』がトップ、次いで『剣』『槍』ときて、次点で『斧』『鎌』、少ないのは『槌』、そして激レア扱いの『盾』と、現状このようになっている。
『棒』はまぁ落ちているそこら辺のしっかりした枝が『棒』判定になったりするのでアレだが、鎌なんて主武器で使っている人を今まで見たこともなかった。
だから不思議に思っていたわけだが、遺物ハンターの人達が高確率で所持しているようなので、その人達の犠牲か落とし物でそれなりの数がこの樹海にあるんだなということも分かってきた。
あとは単独で【付与】枠が生まれるのに装備比率が低過ぎる盾だが、見ていると実物の盾は結構デカい。
俺なんかが考えそうなミニチュアサイズの盾をポケットに入れ、付与だけ稼ぐみたいな戦略が取れないから、邪魔で純タンカークラスしか持たないのが『盾』なのかもしれないな。
このあたりの情報はパイサーさんから聞き忘れていたので、いずれドワーフの国に行った時にでもちゃんと確認しておくとしよう。
そして――
(大喰らいが餌に食いついた様子も無し、と)
一番肝心の予想が外れているっぽいことに関して、どうしたものかと思いを巡らす。
まだ警戒して踏み込んでいない深層エリア。
かつてはいた魔物が、スタンピードの発生と時を同じくしていなくなる。
そんな現象、パッと思いつくのは
"そのエリアの魔物も脅威と感じる何かが生まれたから"
普通に考えればこれしかないんじゃないかと思っている。
つまり、以前リプサムで聞いた『上位種』の存在だな。
魔石を喰らって強くなるという話なら、魔石付きでこれだけこんもり餌があるこの状況を見逃すものだろうか。
1か所なら気付かないということもあるだろうが、もう既にこんな場所が8ヵ所もあるのだ。
どこか1ヵ所でも違和感を覚えれば、深層にいるのは上位種と想定して動けるのに、原因がどうにも不明のままだと今後の行動方針も定まらない。
(まだ中層をスポットにしているから遠過ぎるのか? それともまさか――……、あの高い山に何か住み着いた、とか?)
ゲームならイベントや設定でありそうな話だ。
そして後者になると、Cランク狩場相当の上位種という話じゃなくなるので、俺でどうこうできるのか怪しくなってくる。
まぁどちらにしても、なんで深層の魔物がいないんだっていう謎にブチ当たるわけだけど。
ん~分からんなぁ……
そんなことを考えながらも、次の【招集】に向けて付近に人がいないか【探査】をしていると――
「あ、引っかかっちゃった」
視界の先を見れば、僅かに茶色い地面が見えるその場所で、数人の人間が穴を眺めて何かをやっている。
どう見ても遺物ハンターの御一行、こうなると素直に撤退だ。
後発で訪れ、普通じゃない狩り方をしているのは俺なわけだし、【招集】使いますから死にたくなければ退いてくださいなんて、そんなふざけたことを言えるわけもない。
少し浅層に寄り過ぎたなと、再度北上しながら魔物を集めていった。
▽ ▼ ▽ ▼ ▽
さらに3日後。
より近くなった山々を眺めながら、たぶん天に住まうフィーリルに向かって謝罪を繰り返す。
(意思が弱くてすみません。誘惑に弱くてすみません。結局俺は、我慢ができませんでした。本当にごめんなさい)
結局俺は深層に踏み込んでしまっていた。
バーカバーカとなじられることは覚悟している。
でもでも、しょうがないのだと、そう思いたい。
結局のところ、深層まで踏み込んでしまった最大の理由は魔物不足だった。
探せば中層にもまだまだいるのだが、いかせん密集度がかなり下がってしまっており、すぐに効率厨が顔を出してしまう俺にはどうにも我慢のできない時間が続いていた。
酷いと【招集】使って僅か6匹とか、いやいやさすがにそりゃねぇだろ、って突っ込みたくなるほどの激減っぷり。
魔物が集まらなきゃ死体の数も減らず、その結果武具の取り出しが進まないという見事な悪循環が発生する。
だからちょっとだけ、視界の先に見えている深層の魔物をチェックしつつ、呼べるなら呼んじゃおうかと考えてしまうのも普通のことだと思う。
それに切羽詰まって、俺は疑ってしまったのだ。
本当に深層って魔物いないのか? と。
そもそもとして、情報元のおばちゃんはこう言っていたはずだ。
『――ゴブリン種以外の魔物情報がほとんど出なくなったのよね』
まぁこれ以外にも結構重要なことは言っていたと思うが、そこは置いておくとして。
この言い方であれば深層にもゴブリン種は多くいるかもしれないし、話を聞かなくなっただけでオーク種やオーガ種とかいうのもいたりするかもしれないのだ。
だからコソコソと、かなり警戒しながらも複数個所【探査】を使って調査していた。
そしたら、いたのだ。
ゴブリン種も、そして個体数はかなり少なかったがルルブよりも上位と判断できるオーク種、そのさらに上位であろうオーガ種ってやつも。
こうなると、止まれますか? って話になるわけですよ。
【洞察】使ってみたらまぁまぁ強そうな雰囲気は感じ取れるけど、それでも問題無く勝てそうだねって分かっちゃうんだから。
止まれるわけがありませんって、こうなっちゃうわけですよ。
――で。
――【招集】――
結局作っちゃいました、深層に新しい専用狩場。
だってオーガは来てくれなかったけど、上位種っぽいオークはヒットすれば来てくれるわけだし。
資料本に載っていないからどんな種類がいるのか分からないけど、倒したら自然取得でレベル1だけ取得していた【捨て身】ってスキルのレベルがすぐに上がったので、こりゃラッキーってなもんである。
ただ俺だってバカじゃない。
過去の失敗はちゃんと活かし、すぐに床ペロしないよう多少なりは状況を踏まえた行動も取るようにしている。
魔力は何かあった時用に、例の自然回復量増加丸薬もガッツリ飲んで8割以上は必ずキープ。
暇さえあれば『上位種』というワードで【探査】をかけまくっていた。
それに最終奥義で、何かあった時に即『テレフォン』が使えるよう、しっかり前日に【神通】を使わないでおいたのだ。
情けない案だし本当の緊急用だが、それでもいざという時このスキルを使えるか使えないかが俺の生死を分けると言っても過言ではない。
そんな警戒度最大状態をキープしたまま、狩り続けること約2時間後。
しっかり休憩をはさみ、そろそろ次の【招集】をいっとこうかと動き始めた時、【探査】で引っかかる前に『視界』が違和感を捉えた。
「……あれか」
姿形は見えない。
だが上空に立ち昇った土煙の跡が、一直線にこちらへ向かってきている。
目的は専用狩場の死体か、それとも俺か。
どちらか分からないが――
まず、敵であることは間違いないだろう。
だから、絶対に油断はしない。
そう思っていつでも逃げられるようにさらなる上空へ舞い上がる。
あんな移動方法を取っている時点で飛行タイプじゃないことは明らかだ。
ならば距離をしっかりとれば空は安全圏。
そこから遠目に【洞察】を使い、推定戦力を見定める。
俺が上空から眺めていることも知らず、その"対象"は専用狩場に入り、一瞬動きを止めたのち、すぐに目的の餌場へ突撃していった。
距離があり過ぎて詳しくは分からない。
それでもゴブリンを――、んん? 投げ飛ばした……? 好みがあるのか、オークだけを探すように掴んでは食いちぎっている様は、相当な図体のデカさを連想させる。
全身は黒く、この地が緑魔種の住処と言われているのに、まったく相応しくない色合いだ。
ゴブリンやオークでもなく、一度だけ目にしたオーガともまた雰囲気が違う……直立歩行する獣のような雰囲気を感じる。
あれがまず間違いなくここのボスであり、もしかしたら20年前に発生したスタンピードの犯人なのかもしれない。
そして――
俺は緊張からくる喉の渇きを誤魔化すように、持ち合わせていた魔力ポーションを次々飲んでいく。
本来マズいはずのソレも、今は味なんて感じなかった。
定量型で大した回復量じゃないが――それでもまったく油断できる相手じゃない。
「あれは……いける……たぶん、いけるぞ……」
そうだ。
かなりギリギリっぽいが、【洞察】が教えてくれている。
あいつは、今の俺なら殺れる。
ならば、餌だ。
あいつが餌の魔石を喰らっているように、俺も、おまえのスキルを喰らう。
――全力で、殺る。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます