第193話 オイシイ展開

 持っていった中型の革袋をドサリと床へ置き、白い息を吐きながら椅子にもたれ掛かる。


 時刻は……時計を見れば23時過ぎ。


 眼球にかなりの疲労が溜まっていることを自覚し、グリグリと指で揉み解しながら自らに【回復魔法】を唱えた。


「うぅ~寒ッ……はぁ――しっかし、あそこはヤバいわー……」


 汗と血の臭いが纏わりつく身体も気にせず、そのまま椅子に座ってボールペンを。


 とにかく忘れる前に整理したい、その思いだけで持ち帰った情報を取り急ぎ纏めていく。



 <浅層>


 ゴブリン:パルメラと同じ


 ホブゴブリン:俺と同じくらいの背丈 ゴブリンの上位互換で特徴はほぼ同じだけど絶対に【呼応】持ち


 フォレストウルフ:今まで出会ったウルフ種の中で一番大きい ルルブにいたスモールウルフよりやや強い程度か



 <中層>


 ホブゴブリン:呼応〇 中層にも多く出現


 フォレストウルフ:呼応× ゴブリンを乗せていない状態でも普通に出現する 大体3~5体ほどの集団で登場


 ゴブリンファイター:呼応〇 体長170~180cmくらいのガチムチゴブリン ルルブのオークよりも明らかに強い 【体術】Lv2は確定


 ゴブリンウォリアー:呼応〇 【槍術】【斧術】【剣術】【短剣術】【棒術】【鎌術】【槌術】所持までは確認 連動して100%該当の武器持ち


 ゴブリンナイト:呼応〇 必ず盾を持っているので【盾術】スキルは所持していると思うけど、個体数がかなり少ない


 ゴブリンアーチャー:呼応× ギルドの資料本には書かれていたが個体を確認できず、ただ矢が複数飛んできたのでどこかにいることはいる 


 ゴブリントラッパー:呼応× 1発でスキル取得までいったので、【罠生成】Lv3と【罠解除】Lv3持ちは確定 ただ【招集】には反応せず岩陰に隠れていた


 ゴブリンメイジ:呼応× 【杖術】Lv2はたぶん確定 それとは別に【風魔法】と【土魔法】を使ってくることも確認 ただし2種を併用して使う個体は確認できず


 ゴブリンライダー:呼応〇 【騎乗】Lv3と【騎乗戦闘】Lv3は確定 【招集】に反応して真っ先にフォレストウルフに乗りながら登場する とにかく動きがウザい 

 

 ゴブリンコマンダー:呼応〇 【威圧】Lv3所持は確定 慣れれば弱い 【威圧】を初めて使われた時は焦ったがすぐに慣れた

 

 ゴブリンジェネラル:呼応×? まだ個体を確認できず 



 ふーむと顎に手を添え、裏紙に書きだした内容を見て唸る。


 まだ全容が分かったわけじゃない。


 中層で試しに使った【招集】の結果に、ついつい飯のことも忘れてヒャッハーしてしまったが……


 それでもまったく時間が足りなかった。


 眼球疲労から【夜目】で活動できる限界を知って帰ってきたものの、できればあと20時間くらいはそのまま検証し続けたいくらいには面白い場所だ。


 まぁそれは明日続きをするからいいとして、まず【呼応】に反応するヤツとしないヤツがいること。


 これが分かったのは大きい。


 反応するヤツは100%近接に該当するタイプなので、遠距離型には残念ながら備わっていないと思った方が良さそうだ。


 外からチクチクと攻撃してくるズル賢い戦略を、ゴブリンのクセにしっかり取ってくるということである。



 あとは個体数の圧倒的な差だな。


 今日中層で狩った体感だと、フォレストウルフ3割、ホブゴブリン2割、ゴブリンファイター3割、ゴブリンライダー1割、残りが纏めて全部で1割。


 このくらいの比率という印象が強かった。


 そしてホブゴブリンもどこかから拾ってきたのか、人間が製造したと判断できる武器を持って現れることもある。


 中には弓をそのまま振り上げ、殴りつけてくるホブゴブリンまでいたのだ。


 だからこそ、ここに微妙な違和感を覚える。


 ゴブリンもホブゴブリンも、武器を持ったところでその魔物名称は変わらない。


 資料本ではそうなっており、少なくともゴブリンであれば世間でも『何を持とうがゴブリン』と、そのように認知されている。


 しかしさらに上位となるゴブリンには基礎となる名称は無さそうで、装備形態によってなぜかそれぞれの名称が変わっていた。



(もしかして、初めから扱う装備を限定した別種扱いとして生まれている?)



 そんな発想が飛び出すも、すぐに自ら首を振って否定する。


 というのもゴブリンが自ら武器を生み出している様子はないのだ。


 振るう武器は同じ種類でも統一性がなく、錆びで茶色く染まった武器を振り回しているやつらの方が多いくらいだった。


 つまり事情はどうあれ、人間が使っていたお古を使い回しているとしか思えない。


 なのにアーチャーやナイトといった、専用装備を持つこと前提の魔物が生まれるのはおかしいだろう。


 そう、どういう理由か魔物名称は変わるも、種族特性として拾ったから途中で切り替わって―――



「あ」



 たまたま行き着いた、ある意味当たり前の発想に思わず声が漏れる。



「な、なんで俺は最初に気づけなかったんだ……?」



 そうだ、これはパルメラでも気付けたことだ。


 ネーミングでボヤけていたが、出現比率の高い素手のゴブリンファイターが中層の"基礎"だとすれば――



 



 それでも、【招集】とのコンボが上手くいけば素晴らしくオイシイ展開になる。


 となれば、準備すべきモノは――



 風呂付き宿に拘ったのは誰だったのか。


 その後も、樹海という環境の中でどう立ち回るべきなのか。


 ひたすらに脳内妄想は続いていき、慌てて風呂に入り布団に潜ったのは深夜も4時過ぎ。


 日の出待ちの旅人や商人が起き始めるような時間であった。





 ▽ ▼ ▽ ▼ ▽





 若いって素晴らしいなぁ。


 僅か2時間程度の睡眠もなんのその。


 朝の鐘の音と同時に目を覚まし、昨晩の空腹を埋めるように1階のレストランでモリモリ食事。


 ビビる店員に朝から追加注文しまくり腹を満たしたら、目的のモノをいくつか物色しに町へと繰り出した。


 まずはここだぜ~と向かったのは、大通り沿いにあることだけは把握していた薬屋さん。


 中はメイちゃん家と違い、漢方系の薬の他にもポーション類を豊富に取り揃えていた。


「おはようございます~」


「はいおはようございます。何をお探しだ?」


 丁寧なんだかぶっきら棒なんだか分からないおじさんに、初めて買う目的の物について尋ねていく。


「魔力回復系の薬が欲しいんですけど、どのようなものがあって値段はおいくらくらいですか?」


「魔力回復薬だと一般的な魔力回復ポーションと、持続的に魔力回復量を上げる錠剤とがあるぞ。こいつと――こいつだ」


 そう言われカウンターの上に置かれたのは、日本にあった乳酸菌飲料くらいの大きさをした50mℓくらいの青い小瓶。


 傷を癒す回復ポーションは同じサイズでも赤だったので、内心やっぱり青なんだなとちょっと感動しつつも内容を確認していく。


「魔力回復ポーションはこのサイズで『微小』回復、こっちの濃度が濃いやつだと『小』回復だな。それぞれ8,000ビーケと20,000ビーケだ」


「あっ」


 この悪気は無いであろう回答に、ソッと目を閉じ心の中で唸る。


(しまった、魔力も数値化されてないのか……『小』ってどんだけだよ。ってか定量回復なのか、パーセンテージで動く変動回復なのかで全然違うぞ?)


 とりあえずお金は問題無さそうなので黙って頷き、その横に置かれている錠剤の内容も確認する。


「こいつはちっとばかし値が張るな。高ランクの魔導士タイプなんかがよく使う薬で、1粒飲めば効能は約半日持続すると言われている。10粒入りで80万ビーケだ」


「なるほど。その効果はどれほどで?」


「だから半日だ。あとは魔力が回復しやすくなるということくらいしか知らん。でもまぁ、結構有名な薬だ」


 ひょえー!


 それでいいのか薬屋の親父よ。


 今度は『微小』やら『小』なんて表現すら省いてくるその大雑把さに頭を抱えたくなってくる。


 それで80万ビーケて。


 そんなアホな商売あるのかよと思いながらも――


「買っちゃう」


「どれをだ?」


「全部、それぞれとりあえず1個ずつで」


「ほーう……ありがとうございまーす!」


 良いのだ、これで。


 騙されたらこの親父の店吹っ飛ばしてやろうかと思うけど、たぶんきっと、大通りに面しているから大丈夫だと思いたい。


 それにゲームであれば、効率を金で買えるなら基本は買いなのだ。


 そうやってソロでやりくりしてきた俺からすれば、ここでヒヨる選択は無い。


 金に余裕があるうちはゴーゴーゴーである。


 ついでにメイちゃん家の薬屋で買い占めた丸薬をここでもありったけ購入。


 併用が大丈夫か聞いたら「知らんから自分で試せ」と有難い言葉を頂いたので、有能薬師がパーティに欲しいと思いながらも店を後にする。


「まぁ、いざとなれば【毒耐性】が頑張ってくれるだろ……たぶん」


 そんな呟きを漏らしながら、次なる目的地へと向かって歩き出した。

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