第128話 一時の別れ
「ここでの食事もこれが最後か~なんか寂しくなっちゃうね」
「本当ですね。この1週間、全てが新鮮で本当に楽しかったです」
揃って食べ終わった朝食を眺めながらしみじみと話す。
お互いにとって特別な体験。
俺がこの日を忘れることは、生涯をもって確実に無いと断言できる。
「はぁ、俺はもっとリステにいてもらいたいんだけどなぁ……」
「ロキ君、ダメですよ? 私もそうしたいのは山々ですが……次はリガルが控えていますし、スキルも早めに与えないといけません」
「あーそうだった。ちなみにリガル様はいつ降りるとかって言ってた?」
「それは特に何も。なので今夜にでも相談されたら良いと思いますよ」
「そっか。それじゃ最近サボり気味だったし、今日の夜に【神通】使って相談してみるかな? あとは――……スキルってなると俺が教会に行けばいいんだよね?」
「そうですね。【分体】では固有最上位加護が使えませんから、一度教会に来てもらう必要があります。ただ魂まで神界に来る必要はありません」
「ん? 神像の前までいけば良いってこと?」
「そうです。そこまで来てもらえれば本体の魔力が通りますから。ただ……少々身体が光るはずなので目立つかもしれませんね」
「げげ! そういえばアリシア様の時も光ってたような。なら迷惑じゃなければ神界に一度行くよ。目立つのは避けたいし、顔が見られるならその方が俺も嬉しいし」
「……もう。そういうことを言われると帰りたくなくなるじゃないですか」
「あ、あは……あははは……」
幸せ一杯の新婚生活とはこういうことを言うのかもしれない。
同棲すら経験したことのない俺には未知の体験だが、こんな毎日が味わえるならどこかに早く定住してしまいたいと思ってしまう。
しかしそのためには、女神様達が【分体】を降ろす真の目的。
転移者がこの世界に運ばれている理由について、何かしらの発見や目途が立たないと難しいか……
「俺が強くなるために頑張っている間、転移者探しの進展があると良いね」
「本当です。その点が解決しないと、ロキ君のところへ気軽に伺えませんから」
昨夜リステは、女神様達は皆俺が強くなるのも待っていると教えてくれた。
それは俺が最優先にしている目的を理解してくれているからで、その間不必要に邪魔はしないと。
だから女神様達の俺をポイントにした降臨はとりあえず一度きりだ。
最後のアリシア様はもしかしたら微妙かもしれないみたいだが、一巡が終われば俺は狩りに専念。
そして女神様達は不人気のパルメラ探索やフェリンの旅希望など、どう話が纏まるかは分からないものの、転移者探索を本格化させるという話だった。
そしてこのどちらにも見通しが立てば、その先に見えるのは幸せ家族計画だ。
リステがいて、たぶんフェリンもいてくれて、それでフィーリルとお茶でも飲みつつリアとどこかへ遊びに行き、リガル様と模擬戦でもしながら強さについて語り合う。
いまいちアリシア様だけどうなるのかイメージが湧かないけど、そんな楽しそうな生活が待っているかもしれない。
ならば俺は可能な限り早めに強くなり、その中で何か転移者絡みの情報でも入れば情報共有していくのがベストだろう。
と、なるとだ。
どうしても気掛かりな点が一つある。
「あのさリステ、女神様って子供……できるのかな?」
以前フェリンにも聞いた質問。
だが今は状況が違うのだから、失礼かもしれないけどこの件を有耶無耶にすることはできない。
「それは……残念ながら分かりません。遥か昔にアリシアが、私達女神は人間の素体として生み出された可能性が高いと言っていました。リガルだけはエルフですね。人種が生まれる前からこの容姿だったことからの推察ですが、そうなると身体も人間と同じである可能性はあると思っています」
「そっか。まぁ、そう簡単に分かるもんじゃないよね」
将来的にできたら嬉しい、でも楽観的な考えは持つべきじゃない部分だろうな。
そもそもとして、女神様に限らずこの世界の住人と俺は生物的に同一なのかも分からないんだ。
異世界人という括りではなく、転移者だけの問題――それでもこの悩みを抱えて生きていくしかないんだろう。
「リステさ、固有最上位加護って使ったらどれくらい動けなくなっちゃうの?」
「おおよそ1~2ヵ月ほどでしょうか。そこくらい休めばある程度は元に戻るとは思います」
「そっか……なんとなく予想はできていたけど長いね」
「それでもやらなければならないことですから。どの道やるのであれば、早めの方がロキ君の旅もしやすくなるでしょう?」
リステの言っていることはごもっとも。
旅をする上で地図が欲しいと思ったのがそもそもの切っ掛けなんだ。
ならば旅の序盤でスキルは活用できた方が良いに決まっている。
それでも――
思わずリステの細い腰に手を回し、額をお腹にくっ付けてしまった。
どうにもならないと分かった上でのささやかな抵抗だ。
「ロキ君はすっかり甘えるようになってしまいましたね。大丈夫ですよ。動けるようになったら、こっそり会いに来ますから」
「……大丈夫なの?」
「皆が我慢している以上、頻繁には来られないと思いますが……たまにならなんとかなるでしょう」
「それだけでも嬉しいよ。なら早い方が良いんだろうし、今日の夕方くらいにでも教会に行ってみるかな?」
「えぇ、お待ちしておりますよ」
言いながら、身に着けていたアクセサリーを外していく、その姿をボーッと眺める。
リステはこれから最後の転移者探し、これで……しばらくはお別れだ。
「本当に、なんと言えばいいのか分からないけど……凄く嬉しかったよありがとう」
「こちらこそです。それにのちほどまた神界でお会いできるのですから」
「ははっ、そうなんだけどね。その時は宜しくね」
「もちろんです。ではまた」
「うん、また」
リステが屈み、それを合図かのように口付けを交わすとリステの身体に霧が纏う。
笑顔のまま消えていくリステを見つめながら、ここ1週間の出来事に思いを馳せる。
「たぶん、俺以上に幸せな人はいなかっただろうなぁ……」
しばしその場に立ち尽くすも時間は有限だ。
寝不足だが狩りもしたいし、教会の開いている時間だって限られている。
ストレージルームに向かい荷物を纏め、ベッド脇に置かれた二つのアクセサリーとリステ用の靴も回収していく。
そして最後に部屋を見渡すと、ふと、リステが好んで座っていたソファーが気になった。
なぜ、いつもあそこに座って外を眺めていたのだろうか?
そんな軽い疑問と、何となくリステと感覚を共有したいという気持ちからそのソファの前に立つと――
(そういうことね)
視界の先に見えたのは、多くの屋根の中から突き出した一本の十字マーク。
自然と同じ場所に座り、少しの時間、リステと同じ風景を眺める。
(はぁ――……)
俺はかぶりを振り、溜め息交じりのまま約1週間リステと共に過ごした最上階の部屋を後にした。
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