第68話 ハンターとは
「着きましたね」
「あぁ」
「見た感じは普通、だなぁ」
「逆にいつものところより
「……」
「っしゃあ! 俺は覚悟を決めたぞっ!」
「俺もだ」
セイル川が入り込む森を見つめる7人。
太陽の具合を見るに、今は11時くらいだろうか。
急遽の方向転換をしてしまったので、トータル4時間くらいかかってしまったが……
それでもよく言えば穴場、悪く言えば魔物の巣窟とも言える場所に俺達は到着した。
周囲は釣りに向かう道中と同じく草原地帯で、何も言われなければパルメラ大森林に入るのとほとんど変わらない景観が続いている。
結局俺の提案に乗った6人は、良くも悪くもハンターだった。
いや、違うか。
この世界の住人と呼ぶべきだな。
死は身近な物。
稼ぎにある程度のリスクを背負うのは当たり前のことで、『大金』と『死の可能性』という二つを天秤にかけて彼ら彼女は『大金』を取った。
そういう思考の持ち主だったということだ。
……若干1名は怪しいが。
まぁそれでもついてきたんだ。
ならやるだけのことをやろう。
魔物を狩りまくり、ついてきた6人を極力死なせないようにしながら稼がせ、そして俺も稼ぐ。
ジンク君達の時以上に気合を入れないといけない。
「それでは始めましょうか。今日はとりあえず川から東におおよそ500メートルくらいまで。このくらいの範囲の魔物を、僕が移動しながら殲滅するつもりで倒していきます」
「1時間後くらいに俺達は突入で問題無いな?」
「えぇ。時計が無いのでおおよそだと思いますけど、そのくらいで大丈夫なはずです。くれぐれも川から離れ過ぎないようにしてくださいね。僕も感覚でしか距離を計れませんので、体感300メートルくらいとか、ある程度距離の安全マージンを取っておいた方が良いと思います」
「了解だ」
「何かあっても今いる安全地帯までは逃げ易いと思いますから、初日の今日は極力森の浅い箇所を中心に。皆さんの籠が埋まったら――ミズルさん」
「おうよ!」
「指笛を可能な限り大きく鳴らしてください。それで僕は終了の合図と判断しますので、今日は僕も一旦ここに戻ってきます。あとは万が一魔物に囲まれてどうしようもない時は、指笛を2回鳴らしてください。間に合うと断言はできませんが救援に向かいます」
「任せろ。そうならないように、ヤバいと感じたら森からの脱出を優先するぜ」
「それが一番ですね。ふぅ――……では、早速行ってきます!」
後ろから声援が飛ぶ中、俺はルルブの森へ走り出す。
まずは川の周辺からだ。
オークを漏らすとは思えないので、スモールウルフとリグスパイダーを対象に、【探査】を切り替えながら魔物の空白地帯を作り、そして広げていく。
(突入してすぐは何も反応無しか……となるともう少し奥か?)
そう思って森の入り口から約100メートルほど入ったところで気配が一変した。
(すげっ……オークが目視で3匹、リグスパイダーが周囲30メートルで……5匹か。そしてスモールウルフは――何匹いんだよ、これ……)
【探査】に具体的な数を示す能力は無い。
感覚であの場所にある、あの辺りにいるというのが分かるくらいなので、数が多過ぎると個別の反応も掴めなくなる。
(まぁいいさ。どうせスモールウルフなんて向こうから寄ってくるんだろ? 既にこっち向かって走ってきているしな。だったらリグスパイダーの射程に入らないよう気を付けつつ、近寄ってくるのを片っ端から捻じ伏せればいい)
そう判断して一歩、さらに一歩と森の奥へと足を踏み入れる。
「オラッ!!」
前方から飛び込んでくる4匹のスモールウルフ。
その先頭が【突進】を使ってきたタイミングで横薙ぎに剣を振るう。
すぐさま同じように【突進】してきたスモールウルフを袈裟斬りにし、続く2匹のうち1匹の動きに合わせて腹を裂く。
「痛ぇなぁ……」
もう1匹に腕を噛まれるも、防御力のおかげか歯が僅かに食い込んでいるだけだ。
この程度なら多少痛いだけで済む。
噛みついていると思っているスモールウルフの頭を剣の柄で殴りつけ、地面に転がったところを蹴り飛ばし、近づいてくるオーク3匹、スモールウルフ5匹、さらにその後ろに見える数体のスモールウルフにも備える。
「ハハハッ……こりゃすげぇ! まさに休む暇も無い入れ食いだ!! オラッ!! かかってこいよ!!」
俺の足先に青紫の霧が纏う。
ドンッ!
『土よ、大きく、盛れッ!!』
ズズズズズズッ……
足踏みと同時に出現する眼前の土の山で、同時に振り被ってきたオーク2体、【突進】を仕掛けていたスモールウルフ2体の間に壁を作り、土盛りの横から蹴り上げてオークの首を切り裂く。
「くそッ……」
筋力の問題か、それとも【剣術】スキルの問題か。
今の俺ではオークの首を刎ねるに至らず、それでも膝を突いて蹲るオークの首へ背後から剣を突き刺し、こん棒とも呼べる、太い木の丸太を振り回す別のオークの攻撃を躱しつつも太ももを斬り付け膝を突かせる。
その瞬間、オークの背後から飛び掛かってくるスモールウルフが襲ってきたため、咄嗟に左手で握ったナイフを眼球の奥に刺し入れた。
「んぐっ!」
横っ腹に衝撃を感じて軽く吹き飛ばされるも、そこまで強い痛みは無い。
その原因には視線も向けず、次々と飛び掛かってくるスモールウルフを睨みつけながら、右手のショートソードと左手のナイフで斬り付けていく。
『【噛みつき】Lv2を取得しました』
(フッ……ハァ……オークを倒しきる前に、もう次のスモールウルフの団体が――)
倒れるスモールウルフを踏みつけながら、先ほど殴ってきたであろうオークの首にナイフを突き入れ、眼前で上段にこん棒を振りかぶっている3匹目のオークの腹へ剣を刺し込む。
だが振り被るこん棒は止まらない。
ゴツッ!
「がはッ……」
頭に強い衝撃を覚え、視界が明滅したところに肩や腕、足に僅かな痛みを感じる。
「くっ……うぜぇな……」
『風よ、周囲を、切り裂け!!』
ヒュヒュヒュヒュッ――
青紫の霧がすぐに見えないかまいたちへと変化し、俺に噛みつくスモールウルフの身体を切り裂いていく。
『【突進】Lv4を取得しました』
目の前で腹に剣を刺されたオークも無数の傷を負っているが、俺がしゃがんでいたためかその攻撃は上半身に届いていない。
だが痛みのせいか、顔が徐々に下がってきている。
――ならば。
左手に持つ首に刺さったままのナイフを抜き、すぐさま下がってきたオークの喉元に下から深く突き入れる。
ハァ……ハァ……
これで、オークは死亡だろう?
『【棒術】Lv2を取得しました』
「フゥ……フッ……ハァ……やっと……落ち着いたか……」
辺りに横たわる、20体近くの魔物の死体。
ここまでの連続戦闘は経験に無い。
まさに疲労困憊という言葉が今の自分にはしっくり来る状況で、次々にスキル取得のアナウンスが視界上部を流れるも、そんなものを悠長に眺めている余裕なんてまるで無かった。
だが少し落ち着いた今でもそんなことを気にしている時間は無い。
もう少しすれば、彼らは素材を求めて森の中へ突入してくる。
可能な限り、魔物のいない空白地帯を広げておかなければ――
「さすがに……手付かずだった……川付近は、ヤバいな……魔力の使用を……抑えないと……」
息も絶え絶えにそう呟きながら、気配が残っているリグスパイダーの下へと歩みを進めるのだった。
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