第67話 ルート開拓

 ハンターギルド内の解体場。


 そこは朝から異様な光景が広がっていた。


「よし、エンツ! お前はロキの特大籠担当だ!」


「おう! 限界まで運んでやるッ!」


「ロイズ! マーズ! お前らも自分の限界と思うところまでは籠に詰めろよ!」


「分かったわ」


「まさか自分が籠を背負うとは思いませんでしたね……」


「俺とザルサは籠の容量限界まで運ぶ。近接職の意地を見せろよ?」


「当たり前だ。ロイズとマーズにはさすがに負けない」


「ミズルパーティも問題無いようだな。それじゃあロキ、頼む」


「分かりました」


 そう声を掛けられ、ロキは自己紹介をする。


「ミズルさんパーティの方は初めまして。僕がこの計画を立案したロキと言います。急な話だったとは思いますが、お互いが得をするようにと思っての作戦ですので、皆さん無理の無い範囲で頑張りましょう!」


「「「「「「おぉう!!」」」」」」


「その他詳しいことは道中たっぷり時間がありますから、気になることがあれば移動しながらでも話し合いましょうか。さっ、それじゃあ出発しましょう!」



 解体場側の裏門からゾロゾロ出ていく、籠を背負った6名+近接装備の少年1名。


 普通は籠を背負う荷運びがパーティに1名。


 誰に聞いてもまず同じ答えが返ってくるハンター達の常識である。


 そんな常識から外れる光景を、この解体場の主任ロディはもちろん、ただ籠を取りに来たハンター達も、「何事か?」という眼差しを向けながら見守っていた。





 ▽ ▼ ▽ ▼ ▽





「つーことはあれか? まだルルブの拠点場所も決めてないのか?」


「ですね。なんせ昨日が初めてだったもので。まぁだからこそ今なら融通が利くとも言えますが」


 今俺達はルルブの森内部の構造について確認していた。


 今日はいい。


 同時スタートなのだから、トラブルも無く皆の籠は一杯になるだろう。


 だが明日以降、上手く合流できなかった場合はこの計画も頓挫してしまう。


 俺がルルブの奥に拠点を構えれば、彼らが踏み込んでくる入口へ戻ることが困難になってこの作戦は上手くいかない。


 だが合流を優先してあまり森の浅いところに拠点を構えては、他のパーティも動いているだろうから周辺の魔物が枯渇しやすくなるし、そもそも俺が拠点を構える立地があるかも分からない。


 諸々の経験値とお金。


 二兎を追ったのは俺なので、拠点はある程度妥協もしていかないとダメなんだろうけど……


「あー……俺達がいつも入る森の入口からなら、2時間くらいのところに崖はあったよな?」


「あぁあるな。俺達がそこまで入り込むことはほとんど無かったが、確かフェザー達はそこで引き返していたはずだ」


「フェザー?」


「ベザートで一番稼ぐ連中だな。……って、ロキの方がもう稼いでいたか」


「あぁ特大の籠を使っている、ルルブで1日40万台ってパーティですね」


「あそこは肉を厳選するからな。そんくらいはいってもおかしくねぇ」


「まぁまぁ皆さんも、少なくとも今日は間違い無くその40万なんて超えるんですから、お金のことはそんな気にしなくていいと思いますよ」


「ね、ねぇ……本当にそんな額が稼げるの?」


「あぁ……いまいち信じられねーっていうか、リーダーが大丈夫だって言うからついてきたけどよ。……本当にいけるのか?」


「大丈夫ですよ。一人最低でも15万ビーケくらいはいくんじゃないですか? 6人を一つのパーティと見るなら90万ビーケ以上ってことですね」


「あ、有り得ない金額……」


「なんでそんな普通に言ってるのよ……15万ビーケもあれば楽に半月は暮らせるわよ!?」


「なぁ興味本位で聞くんだが、ロキって1日どれくらい稼いだことがあるんだ?」


「んー僕はパルメラ大森林とロッカー平原くらいしか知らないですからね。ロッカー平原なら確か80万ビーケくらいだったと思います」


「「「「「「…………」」」」」」


 お金なんて敵を効率重視で乱獲していれば勝手についてくる。


 だから今ある問題はそこじゃないんだが――


 どうしても皆さんお金の方に意識がいってしまっているな。


「問題はお金じゃないんですよ。そのフェザーさん達と狩場が被っているかもしれないっていう方がマズいです」


「そうなのか?」


「それこそ僕が倒した魔物を先に拾われちゃうかもしれませんよ? 魔物の数も狩場が被れば減るでしょうしね」


「ふむ……」


「ちなみにルルブの森に入るパーティは、皆さん同じところからですか?」


「ん? あー……そういやそうだな。どいつも昔からこの道を通ってルルブに入る」


「少なくとも、俺の親父の代からルルブはこの道だったはずだ」


「なるほど。森はそれなりに広そうなのに同じルートか……」


 まぁそれもしょうがないことなのか?


 俺だって昨日ルルブに行った時は、ベザートの北西にあるという情報を頼りに、リア様と既に踏み込まれているあぜ道を通りながら向かったんだ。


 何も考えなければ、ベザートから一番近く安全な通り道として、自然と入口が決まってしまうものなのかもしれない。



(混むことを回避……別ルート……ただ辿り着けなければ意味がない……)



 そこでふと、ルルブの森を通るセイル川のことを思い出す。


「あの、ルルブの森の中をセイル川が通っているんですよね?」


「そうだな」


「パルメラの中を流れてベザートの横を通り、ルルブの森へ入っていく――その川が入り込むルルブの森入り口で狩りをしたことはあります?」


「川の方からルルブに入るやつなんて聞いたこともねーぞ?」


「そうだな。俺もそんな経験は無い」


「それはベザートの町から遠いからですか?」


「誰もそこで狩りをしているやつがいないからな。さっぱり分からんとしか言えん」


「んだな。行こうと思ったことすらねぇよ」


「そうですか……」


 川を辿ればルルブの森に着けるなら、迷子になる要素はまったく無い。


 おまけに人もいないとなれば最高の狩場じゃないか? と思ったが……そう上手くはいかないか。


 そう思っていたら、道中黙っていたマーズさんが口を開いた。


「移動時間はさほど変わりませんよ。子供の頃うちの爺さんと一緒に、釣りのついでで見に行ったことがありますから」


「え?」


「ただ昔から危険だから行くなと言われていた場所です。川の周辺は魔物が多いという話があるみたいですからね」


「あぁそんな話はあるな。だから行くやついねーのか?」


「そりゃそうでしょう。誰も行く人がいなければ、何かあった時に助けも期待できないんですから。そもそも―――……」



 おいおいおいおい……



 冷静になって考えろ。



 川の周りは魔物が多い、これはパルメラでも経験した。


 ということはルルブでも同じだろうし、だからこそ危険で誰も行くことがなく、忘れ去られていたというのも納得はできる。


 そして誰も行く人がいないなら狩り放題。


 俺的には超美味しいし、6人の素材回収にも大いに貢献できるだろう。


 肝心の移動に関しても、子供の頃のマーズさんと爺さんが行けるくらいなんだ。


 行ってみないと分からないが、ベザートの町からセイル川までの約2時間。


 あの道中に広がる草原地帯がそのまま続いているという可能性は高い。


 おまけに川付近なら拠点に最適な洞穴も見つかる可能性があるし、水の確保も容易で【水魔法】を取得する用のスキルポイントもとりあえずは温存できる……


 さ、最高過ぎる環境だろう!!



 ――――しかし、だ。


 問題は6人の安全が確保できるかどうか。


 いくら魔物は自分達でといっても、気付いたら全滅してましたなんてことになってしまえば俺も責任を感じてしまう。


 定点狩りの要領で周辺を狩り倒せばまず問題は無さそうだが――



(う……うぐぐぐ……どうしよう……)



 こうして悩んだ俺から出た言葉は、6人に対しての問いかけだった。



「皆さん。大金を掴む代わりに、する覚悟はありますか?」

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