第53話 Eランク

「お、お願いします……!」


「相変わらずストイックな野郎だな……たまには妥協しろよ妥協を。下ろすのだって一苦労だぞっ、と」


 そう言いながら素材がパンパンに詰まったを地面に下ろすロディさん。


 素材を売る時は背負った籠をそのまま解体場のカウンターへ置くのだが、高さがあり過ぎて中身を取り出せないので、特製籠を作ってもらってからは毎回この流れになってきている。


 ちなみにこの籠、20000ビーケで作成してもらった俺専用の籠だ。


 用途が狩り目的だけなので、そのまま解体場に置かせてもらっている。


 この世界で重量計は見たことが無いから、いったいこの籠に荷物を詰めると何kgになるのかは分からない。


 ただ体感だと今まで使っていた大型な籠の1.5倍~2倍弱くらいは入りそうなので、たぶん50kgくらいはあるのではないかと思われる。


 そう考えると、こんなの背負っても辛うじてジョギングができているわけだから、初期の頃に比べれば明らかに体力はついてきているだろう。


 もしくは自分の体重より重いことは確実っぽいので、筋力値が裏で良い仕事をしているかだな。


「こりゃ新記録じゃねーか? 今日はエアマンティスの魔石が明らかに多いぞ?」


「へへっ、狙って狩りまくってやりましたからね……」


「エアマンティスって狙って狩れるような魔物だったか? まぁいい。ほれ、今日の分だ」


「あ、預けでお願いします~」


「馬鹿野郎一応確認しねーか。俺がポイズンマウス1体分って書いていたらどうするつもりだ!」


「そこは信用してますからぁ」


「そうやって油断していると足を掬われるんだぞ?」


「うっ……分かりましたよ確認しますって。えーとポイズンマウス84体にエアマンティスが31体分と。たぶん大丈夫です」


「まるで金に興味無しって感じだな……」


「だって欲しい物がないんですもん。あ、でもそろそろルルブの森に行こうと思っているんで、そしたら何か欲しい物が出てくるかもしれないです」


「ふむ……そうだな。これだけロッカーの魔物を狩ってこられるならまず問題は無いだろう。というより、今ルルブに行っているやつらよりもサクサク狩れるんじゃねーか?」


「そうだと良いんですけどね。まぁそこはホラ。油断していると足を――ってやつなんで、とりあえず明日は休暇にして情報収集しようと思います」


「おう。何か分からないことがあったら聞きに来いよ」


「はーい、ありがとうございます」



(うぐぐぐ……肩の荷が下りるとはこのこと。解放感がとんでもない)



 そのまま肩をコキコキ、グルグルと回しながらも次は受付の方へ。


 するとジンク君達が丁度お金の分配をしているところだった。


「おっ! 久しぶり~」


「ロキ君やっほー! こないだギルドからポーション貰ったよ!」


「こんばんはロキ。何かあった時に助かるありがとう」


「出た! ロッカー平原の新記録を叩き出している大富豪ロキだ! ポーションありがとう!」


「なんだそりゃ!」


 とりあえずお食事処のおばちゃんに毎度の氷水を頼みつつ聞いてみると、ベザートで活動するハンターの間では、既に俺の素材量が異常だという話が周知されてしまっているらしい。


 まぁ解体場で鉢合わせればすぐバレるしね。


 隠す気も無いんだからしょうがないか。


「有名だよ? ロキ君お金持ちって!」


「あのかぁりぃをご馳走してくれるくらいだから凄い」


「ん~お金はおまけ程度なんだけどね。未だに1日5000~6000ビーケくらいで生活してるし」


「そんな貯めて凄い装備でも買うのか?」


「いや、今のところそれも必要とは思わなくてさ。ただただ貯まってく感じになっちゃってるよ」


「すごっ!」


「羨ましい……」


「なぁなぁ。ロッカー平原ってやっぱり稼ぎが良くなるのか?」


「やり方によるかなぁ。移動に時間がかかっちゃうからね。でも敵は思っていたより弱いよ? パルメラ大森林よりちょっとだけ強いくらい。なになに、行ってみたくなったの?」


「あぁポイズンポーション貰ったら妙に意識しちゃってな。そっかちょっと強いくらいか……」


「ジンク君は【気配察知】持ってるよね? レベルいくつか聞いても大丈夫?」


「レベルは2だぞ。前にロキから貰った硬貨で確認したから今も2のはずだ。あっ! そうだ! 串肉!!」


「あぁいいよいいよ気にしないで。これから宿でご飯だからさ。でもレベル2なら問題ないかな? エアマンティスの魔法ってそんなに射程が長くないみたいで、【気配察知】の外から魔法を撃たれたことってないんだよね。撃たれてもたぶんその距離なら大したことないし」


「そうなのか? 当たると剣で切られたみたいにパッサリって聞いてたからさ。怖くて行かなかったんだよ」


「たぶんジンク君なら大丈夫な気がするけど……ただあそこは採取するような物が無さそうだから、メイちゃんが手持無沙汰になっちゃうかも」


「えーそうなの? なら私何すればいいの?」


「そうだな~解体できるなら解体担当になっちゃうといいかもね。そしたらジンク君がすぐ次の魔物に当たれるでしょ? ポッタ君はそのまま素材運び担当って感じで」


「解体も一応できるよ! 気持ち悪いけど!」


「ん~……」


 唸りながら、ジンク君達がお金を広げている目の前のテーブルを見る。


(ざっと30000ビーケ弱くらいか……となるとポイズンマウス5体で今日の戦果は超えるわけだし楽勝な気がする。ただ万が一があっても責任取れないんだよなぁ……)


 問題はそこだ。


 勧めるだけなら誰でもできる。


 コツだって知り得る限りで教えることも可能だ。


 しかしジンク君達はまだ子供であって、何かあれば既に面識があるメイちゃんのご両親はもちろん、ジンク君やポッタ君の親御さんにも合わせる顔がなくなる。



 コンコンコンッ



 指で机を叩きながら天上を暫し眺めつつ考えを巡らし――


 一つの提案をする。


「一応確認だけど、本当にロッカー平原行ってみたい?」


「あぁどんなものか試してみたいな」


「私も見に行ってみたい!」


「僕も僕も! お金が増えるなら嬉しい!」


「そっか。ならさ、俺明日は休みにする予定だったから、実際どんなところか一緒に行ってみる?」


「えっ? 休みなんだろ?」


「休みって言ってもルルブの森に向けて情報収集しようと思っていたくらいだからさ。そんなに時間もかからないし、例えばお昼の鐘が鳴ってから出発ってのはどう? それなら午前中に用事済ませちゃうし」


「もしそれでいいならお願いしたい!」


「うんうん! ロキ君がいれば安心!」


「丸一日じゃなければ僕もしっかり運べると思う!」


「それじゃ明日の半日使ってお試しで行ってみよっか。ただし、今後もジンク君達が継続して通えるかを判断するんだから、よほどじゃない限り俺は手を出さないよ?」


「あぁもちろんだ。ロキの後をついていくだけじゃ意味ないからな!」


「楽しみー! あっ! お父さんにナイフ借りなきゃ!」


「僕はいつも通りでいいの?」


「ポッタ君はいつも通りで大丈夫だよ。たぶんパルメラより荷物が軽くなるんじゃないかな? ホーンラビットみたいに丸ごと持って帰るなんてないからさ」


 そう言って明日の約束を決めた後、分配の手伝いをしたら俺はアマンダさんのところへ声を掛ける。


「アマンダさん。ご相談が!」


「何かしら?」


「Eランク魔物を狩る特別許可をいただきたくてですね。ヤーゴフさんに相談してもらえないでしょうか?」


「あら。それなら必要無いわよ?」


「え?」


「ロキ君がEランクにしてほしいって言ったら、すぐにしていいってギルマスに言われているから」


「あ、そうっすか……」


「あんな連日記録更新し続けている人をFランクのままにしておくわけないでしょう?」


「それならそうと言ってくれれば――」


「朝しかここに立ち寄らないのは誰かしら? 伝えたくても伝えられないのは誰のせいかしら?」


「ふぐぐぐっ……すみませんでした……」


 そう言いながらもギルドカードをアマンダさんへ渡す。


 確かにお金は全部預けているので、夜に受付の方へ来ることは無い。


 朝は朝で依頼の争奪戦していて混み合っているし……なるほど俺が悪いなウン。


 でも良かった。


 これでとりあえずルルブの森に行ってもちゃんと換金ができる。


 いくら買う物が無いと言ってもお金はあるに越したことないのだから、ちゃんとEランクにして常時依頼をこなせるようにはしておいた方がいいだろう。


 それにしてもこの世界。


 なんだか普通に生活するだけなら楽勝過ぎる気がするなぁ。


 そんなことを思いながら、目新しさの欠片も無い。


『E』と表記された鉄のカードを受け取った。

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