『宇宙タクシー』 その2

やましん(テンパー)

『宇宙タクシー』 その2


 今年も、時期が来ました。


 しかし、なぜか、織姫さまからの予約が入りません。


 前回のときに、織姫さま、ちょっと、認知症かなあ、という感じが、ちら、と、あったのです。


 それとも、ぼくのような個人タクシーをみかぎって、サービス満点の、大手宇宙タクシーに、変更したのかな?


 ぼくにとっては、数少ない、長距離のお客様です。


 去年、なにか、気にさわること言ったかしら。


 気になります。


 とはいえ、呼び込みはしないのが、個人宇宙タクシー連盟のお約束です。


 過当競争になり、下手すると、共倒れになるからです。


 気ばかり焦っておりました。


 すると、今日になって、織姫さまから、宇宙電話が入りました。


 『あのう。じつは、やましんさん、宇宙コロナのワクチン接種なさいましたの?』


 と、おっしゃいます。


 痛いなあ。


 組合から、職域接種の申し出は、銀河宇宙衛生局にしたようですが、なんでも、アンドロメダ銀河政府の力が強く働き、ワクチンの製造元である、カシオペア矮小銀河に工場がある、老舗の『カシオペア大宇宙製薬』が、銀河系に送る量を絞っているらしく、予約通りにワクチンが入荷しないんだそうで、ぼくは、まだ、接種できていません。


 いまのところ、ワクチンを製造できるのは、この会社だけなのです。


 カシオペア矮小銀河は、アンドロメダ銀河の伴銀河で、古い星ばかりなのですが、どうやら、ワクチンの原料が、そこでしか、採取できないらしいのです。


 大手の宇宙タクシーは、独自ルートで、すでに、ワクチンを大量に入手して、傘下の会社まで含め、接種を進めていました。


 個人宇宙タクシー連盟健康保険組合には、そこまで、力がないのです。


 まあ、今回はだめかなあ。


 と、諦め気分で申しました。


『それが、予約はしたけど、まだなんです。』


『あらま。そうなんですか。あたくしは、毎日、接種しておりますの。だから、分けて差し上げましょう。』


『は? はあ。それは、ありがたいお話ですが、やはり、組合とのからみがありまして。はい。』 


『あらま。そう。じゃ、営業はしてないの?』  


『いえ、営業は、停められていません。ウィルス検査は一週間おきにしておりまして、前回は、昨日ありまして、陰性でした。はい。』


『あらま、たいへん。あたくしは、毎日接種しておりますの。あなたは?』


『いや、まあ、まだでして。』


『それはたいへん、わたくしは、毎日、接種しておりますの。あなたは?』


『いえ、その、まだです。はい。』


『まあ、たいへん。じつは、あたくしは、毎日接種しておりますの。あなたは?』 



 むむ、これは、かなり、まずいかなあ。


  

 そこに、ひこぼしさんから、電話が入りました。


『ああ、あの、かけ直していいですか。織姫さま。』


『はい。よろしくてよ。』


 やれやれ。


『はい、やましん宇宙タクシーれす。』


『あ、ぼく、ひこぼしです。あの、彼女から、連絡ありましたか?』


『ええ、いま。』


『そうですか。いやあ、なんか、話が通じなくて。ちょっと、今度、会ったら、わし座診療所に、つれて行こうと思って。あそこは、認知症専門の先生がいるからね。やましんさん、ちょっと面倒ですが、連れに行って、ついでに、ぼくを拾って、診療所まで行ってくれますか?』



 やた。それは、申し訳無いけど、ありがたいお話です。


『それは、もちろん。』


『よかった。最近は、彼女、ときどき、暴れるらしくて。よく知ってるあなたなら、大丈夫かなあ。とは。わはははははははは。ぼくも、最近は、腰が弱くて、あまり、動けなくて。一人では、扱いきれないかなあ、とか。ははははははは。』


『はあ、わかりました。では、いつものように、お迎えに行きますね。』


『ぜひ、よろしく。あ、やましんさんの車、防護スクリーンがありましたよね?』

 

『まあ、設置義務がありますから。』


『よかった。じゃ、お願いします。ははははははは。』



 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・

   


 時の流れとは、非情なものなのです。


 認知症の織姫さまと、腰痛のひこぼしさま。


 いつまでも、なかむつまじく、過ごしてほしい。


 天帝さま、いいかげん、同居の許可をだしてあげてくれないかなあ。



 ・・・・・・・・・・・・・・・・・


     つづきは、また、来年………

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『宇宙タクシー』 その2 やましん(テンパー) @yamashin-2

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