33話 英雄

優一はアトランティアに入国すると多くの民や兵士に盛大な拍手と歓声で出迎えられた。

「いったい何だ!?」

「おおおおおおおおおおおおぉぉぉぉぉーー!!」

「我らの英雄が国へ入国されたぞ!!」

沢山の人だかりに囲まれ、優一は気恥ずかしそうにする。

「俺が英雄だって!?」

「はい!貴方は私達の国から、あの恐ろしい邪竜を追っ払ってくれました!」

優一は鳩が豆鉄砲を食ったような顔をする。

「貴方が戦っていた勇姿は、この国全土に水晶球によって放送されていました!」

英雄に歓声をあげるアトランティア民衆の頭上を越えて、琴音達が優一に駆け寄る。

「兄さんーー!」

「優一さん!!」

飛行能力を使って向かってきた琴音とティファリアは優一に抱き着く。

「無事でよかったです!」

「心配したんだから!」

国中全体が喜び合っていると、女王アリエスタが優一の元に泳ぎより国民達は道を開ける。

「よくぞ邪竜アルザラムの恐怖からこの国を守ってくれました。深く感謝を申し上げます」

女王が頭を下げると、周りにいた国民、いや水晶球でその光景を見ていた国民全員が一斉に頭を下げる。

その光景を目にした三人は困惑する。

「おいおい、やめてくれ!別にそんな大したことはしてないぞ!それにアルザラムは恐らく生きてるしな!」

優一は笑いながら言うと、女王アリエスタは咳払いをした。

「いえ、この国が救われたのは事実。それに暫くは、アルザラムはアトランティアを攻めてくる事はないでしょう」

「そ、そうか?そんなに喜んでくれるなら何よりだ」

「では、今宵は英雄をもてなす晩餐会を開きます。宜しければ、宮殿までご同行してもよろしいでしょうか?」

優一は断ることも出来ず、両腕から離れてくれない琴音とティファリアと共に宮殿へと向かった。


優一達は、パーティー用の衣装が用意された各部屋へと案内された。

(晩餐会に水着で参加するのは流石にないよな)

優一はコーディネーターに着替えを手伝ってもらう。

鏡の前に座った優一は、コーディネーターに前髪をオールバックにされる。

衣装を纏った優一は部屋から出て宮殿内を歩いていた。

廊下からは街が一望できた。

優一が一人で廊下を歩いていると、遠くの方にイルミと、女王と同じ髪色をした少女が一緒にどこかに向かって歩いていた。

(イルミって一体何者?)

それから数分後。

琴音とティファリアが衣装部屋から出てきた。

純白のドレスに身を包んだ琴音とティファリア。

琴音は白い髪をお嬢様風のハーフアップに整っており、ティファリアは長い髪を鎖骨辺りに綺麗に結んで特徴的なS字のくせ毛が右肩から胸元まで垂らしていた。

「「どうですか?」」

優一は二人に見惚れて言葉を見失う。

「「ねぇ!」」

「に、似合ってるぞ!」

優一は恥ずかしそうに顔を赤らめる。

優一の顔を見た二人も真っ赤になって俯く。

「「ありがとう」」

二人の後ろから顔を出すラティスとルナフィーネ。黒いドレスを身にまとっており、ラティスは琴音と同じ髪型にしており、ルナフィーネは右側を三つ編みにリボンを付けていた。

五人は会場へと向かう。

高級感を醸(かも)し出す晩餐会の広間。広間の中心には、大きなテーブルにクロスが引かれており、ご馳走が置かれていた。中心のテーブルから一定の距離に円状のテーブルが数か所に置かれており、取り皿やご馳走が並べられていた。

中は燭台に火が灯されて、会場全体が明るく保っていた。

そして、使用人が一定の距離に各テーブルに待機している。

優一達は会場の中心にある大きなテーブルへと使用人に案内される。

「お待ちしておりました。それでは、主役が揃いましたのでこれより宴会を始めたいと思います」

パーティー会場に集まった偉人らしき人達がお酒の入ったグラスを持つ。

アリエスタの合図と共に乾杯をした。

琴音とティファリアはラティスとルナフィーネの食べたい料理をお皿に盛ってあげていると使用人が近づいてきた。

「私たちが料理やお酒をお持ちしますので、どうぞ席で御ゆるりとお過ごしください」

「大丈夫です。私達で取り分けますので」

ティファリアは丁寧に断ると使用人は優一の方に振り替える。

優一の持つ皿には豪華な料理が山のように盛られており、琴音はその皿を受け取ると自席に運ぶ作業を目にして唖然とする。

「とりあえず、このくらいかな?」

「そうね!あまり取りすぎるとテーブルに置けませんから」

五人は席に着き料理を食べ始めるが暴食の三人はすぐに皿の盛られた料理を平らげ、次の料理を取りに行く。

偉人達も声を掛けようにも三人の迫力に負かされて話しかける事が出来ない。

再び、料理を皿に盛って席に付いていたティファリアの元に、使用人が赤いワイングラスをお持ちする。

ティファリアはワインを受け取ると一気に飲み干す。

「ティファリアちゃんお酒飲めるの?」

「はい!私、もう十六歳になったのでお酒が飲める歳です」

「十六歳でお酒が飲めるの?」

「俺の世界ではお酒は20歳からなんだ」

「そうなのですね!」

ティファリアはワインを一気飲みしたにもかかわらず、顔色一つ変わらなかった。

三人で会話を盛り上がっていると王女アリエスタが立ち上がると、先ほどまで話していた偉人達が沈黙する。

「これより我が娘、第二王女アイリスより歌を披露して頂きます」

偉人達が拍手を始めると、優一達も食事の手を止めて拍手をする。

会場の階段の上に一人の少女が現れる。

その少女は、晩餐会が始まる前に優一がイルミと歩いている所を目撃した子だった。

綺麗な透き通った水色の髪、耳には真珠のイヤリングを付けていた。

気品らしさと、どこか鬱屈した印象を与える美少女。

アイリスはドレスの端を摘み、完璧な作法でお辞儀する。

静まった会場でアイリスの歌声が響き渡る。

すると、アイリスの歌を聞いていた優一達の身体の疲れが癒されていく。

「これは・・・」

「これは私の娘、アイリスの《特殊魔法》の回復の歌(ヒールリッツ)です」

歌声は会場のみならず水晶球を通じて国中に流れ、国民の疲れを癒した。

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