15話 恐怖と絶望

優一たちは崩壊した国で一夜を過ごすと隠家に向かう事にした。

「ここから五百キロ先にあります」

「今日中には到着出来そうだな」

異世界に来てから優一は物の観念が随分変わったなと思う。

大阪から東京まで新幹線で三時間三十分かかるのを走りだけで付くというのだから・・・

「それにしても暑いなぁ~」

優一は走りながら愚痴をこぼす。

「そうですか?風を感じて走ればそんなに暑く無いですけど」

琴音は涼しげな顔をして言う。

「一応俺も風は感じて走ってるけどな!」

「それは琴音さんが《風魔法》を使っているからですよ」

ティファリアがポロっとばらす。

「琴音、俺にも風魔法唱えてくれないか?」

「嫌です。魔力の温存したいので。それに、今私は気を使わず魔力を使って身体能力上げているからこれ以上魔力消費を増やしたくないもん」

琴音はそう言うと先頭で走っているミティシアの横へと行く。

「よろしければ私が風魔法をかけましょうか?」

「いいのか!」

「はい。ですが、気を使って走っているので魔力に切り替えないといけません」

ティファリアは風魔法を使わず優一と同じように気だけを使って走っている事を知り、みっともないと思い断るのであった。

「そろそろ林に入ります。魔物が潜んでいるので十分に注意してください」

林に入ると境界付近で見た木とは他に多種類な木が沢山生えていた。だが先ほどとは違い小動物たちは居なく緊迫とした空気が漂っていた。まるでいつどこから魔物が襲ってきてもおかしくない。

しかし、そんな物騒な場所でミティシアは脚を止めて休憩を取ると言った。

四人は昼食を取るため火を熾し《ラオム》で異空間に貯蔵していた肉を取り出す。

魔物の視線を感じながら四人は手軽に調味料で味を付けて肉を食べ終わる。

「この林を抜けたら谷があります。その谷を越えたら分かれ道を左に行くと行き止まりですが・・」

ミティシアは急に話すのを止め、いち早く林の中にとてつもない気を持った者が入ったことを感知した。その気は優一のとは違い、どす黒く深く邪悪に満ちていた。

「三人とも魔力と気を抑えてください!」

「この気は!」

ティファリアと琴音も邪悪な力を感じ取り青ざめる。

四人は息を殺し隠れながら目的地へと向かう。

周りの草木を利用して歩みを進める四人は邪悪な気の正体を黙視する。

その正体は紫髪のロン毛に角が二本生えた整った顔たちの女であった。そう魔王ロゼである。それを取り巻くローブを羽織った人物もかなりの気を秘めていた。

四人は動きを止めてその者たちを過ぎ去るのを待つ。

だが、魔王ロゼは懐から水晶を取り出すと水晶は光り出す。光り出した水晶は優一たちの居場所を映し出す。

「み~~つけた♡」

ミティシアは咄嗟に魔力を全開にして防御魔法を唱える。

「『ディファ―』」

《防御魔法》が作動した瞬間に四人はその場所から吹き飛ばされる。

優一、琴音、ティファリアは何が起こったのか認識する間もなく自分たちが居た場所から今いる位置に倒れこんでいるのを認識するまで数秒かかった。

魔王が放った気弾が《防御魔法》ごと四人を吹き飛ばしたことを認識するまで。

「助かった。ミティシア」

「早く!!逃げてください!!!私が時間を稼ぎます」

「やだ!お母さんも一緒に逃げよ」

ティファリアはミティシアの手を引っ張り駄々こねる。

ミティシアはティファリアの手を振りほどくと、その瞬間赤い粒が噴水のごとく舞い散る。

そして、尻もちを付いたティファリアの足元に左手が転がり落ちる。

左手の中指にはティファリアがプレゼントした指輪がはめてあり、左腕はミティシアのであった。

ティファリアは自分の顔に付いたミティシアの血を触ると悲鳴をあげ気が上昇していく。

「『バインド』」

琴音は咄嗟に高速呪文をティファリアに唱え、優一は腹を殴りティファリアを気絶させる。

「ありがとう二人共!そのままティファリアを連れて先に目的地へ向かうのよ。あそこなら早々見つかることはないから」

ミティシアは切り落とされた部分を魔力の流れを応用し止血する。

「琴音!先に行ってくれ!」

「でも・・・」

「早く行くんだ!!」

琴音はティファリアを抱き抱えて全速力で林を駆け抜けていった。

「何をしてるの!!優一さん貴方も逃げて!!」

「片腕無い状態でアイツを一人で止めれると思ってないよな?それに後二人も敵はいるだろ!もしかして・・・ミティシア死ぬつもりか?」

「・・・分かりました。ですが、優一さんに強化魔法かけさせてもらいます」

「頼む・・・」

「この魔法を掛けたら暫く激痛と疲労で動けなくなります」

そう言うとミティシアは優一に《強化呪文》も唱える。

優一は呪文と共に気を開放して力を上昇させる。

「やるねぇ~~♡それでこそ私のパーツに相応しい♪」

魔王ロゼは刀に付いたミティシアの血を舐め回し呟く。

「極上~~♡」

「ロゼ様、こいつの相手は俺達にお任せを」

「いいわよ♡でも気をつけなさいよ!そいつ、強いよ」

「かしこまりました」

ミティシアは片手で剣を握ると魔力を全開にしたのち呪文を唱える。

「アビリティー全開放」

「私も本気を出さないと行けないみたいね♡」

魔王ロゼも気を最大まで高めると二人の気と魔力で暴風と地鳴りがおこり、辺りの木々は倒れ、林が野原へと成り果てる。

それと同時に辺りには琴音とティファリアが目視出来ないほど離れていることが確認できた。

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