10話 ガレスの依頼

優一は気が付くと自室のベッドに下着一枚で寝ていた。

(確か、お風呂に入っていたら、リリィが来て・・・その後琴音とティファリアが・・・)

優一は意識が覚醒するとベッドから起き上がる。

(そうだった。昨日は琴音にボコボコにされて気を失ったんだ)

優一はベッドから降りてお店で買った予備の服を出して着るとリビングへと向かった。

「おはようございます」

「おはよう」

まるで昨日の出来事が無かったかのように琴音は普通に挨拶をする。

「優一さん昨日は大変でしたね!お風呂場で転んで強く頭を打たれたのですよ」

「確か昨日・・・」

優一が本当の事を言おうとすると琴音からもの凄い殺気を感じ取り優一は咄嗟に言い分を変える。

「実はお風呂場で空を飛ぶ練習してたら失敗して頭から落ちたんだよ」

優一は咄嗟に嘘を言って苦笑いをした。

「そうなのですね。あまり無茶をされてはいけませんよ」

優しい言葉を掛けるミティシアと違って琴音は冷たい言葉をかける。

だが二人の目は冷たい目で優一を見ていた。

「兄さんは馬鹿だから一度頭を打たないと分からない人なので丁度良かったの」

優一は作り笑いをしていると。

「優一様おはようございます」

厨房の方からリリィが朝食を運んできた。

テーブルに並べられた料理を五人で朝食を平らげる。

後片付けを済ませるとミティシア、ティファリアと琴音は部屋に戻る。

優一は外に出て昨日を編み出した空を飛び練習をしていた。

だいぶコツが掴めてきたな。まだそれほど速度は出せないけどもっと練習を積めば自由に飛べるようになるだろう。

「兄さん!これからガレスさんの屋敷に行くよ」

三人は昨日買った服を来ていた。オシャレな格好でミティシアと琴音は紅をつけて少し化粧をしていた。

琴音のオシャレ姿を見慣れていた優一だがミティシアのオシャレをした姿を見て感動していた。

(綺麗だ。オシャレとは無縁と思っていたがこうして見ると綺麗だ)

四人はガレスの屋敷に着くと執事に案内されガレスの待つ部屋に向かった。

「皆様お待ちしておりました。実は折り入ってお願いしたいことがありまして・・・」

「どうされたんですか?」

「実は昨夜、街で若い女性が数人行方不明となる事件が起きました。街の人の目撃情報ではゴブリンが女性をさらっているという目撃情報がありました」

「どういうことだ?街の門には兵が見張ってるから侵入することは不可能だろ?」

「ゴブリンは地下を掘ってこの街へと侵入したようで・・・そこからさらった女性を街から少し離れた高台にある洞窟へと連れて行ったと思われます」

「分かりました。私達が連れ戻して見せます」

「おお!よろしいのですか?」

「この街に滞在させていただいてるので何かお力になれれば私達も幸いです」

「そうですか!それではよろしくお願いします」

四人はガレスの屋敷を後にすると家に戻る。

「せっかくオシャレしたのにもう着替えなんて」

「ガレスさんの依頼が終わりましたら、また着替えて街で買い物しましょう」

三人は旅用の服に着替えると外で待っている優一と合流して、ゴブリンの隠れ家として使っている高台に向かった。

「ゴブリンは魔王の軍勢なのか?」

「いえ。ゴブリンは魔王とは一切関係ありません。どこから来たかも分からないの」

「そうか・・・」

(この世界ではどうやら国々で起きている戦争や魔王以外にも何かありそうだな)

高台の洞窟に到着するとミティシアは呪文を唱える。

「『ルプラン』」

すると洞窟の中が魔法によって立体的なマップが現れる。

「これは?」

「これは洞窟の中に進んでいくのに道に迷わない為、それと敵がどこにいるのか大体の位置を把握することが出来るの」

「便利だな」

「どうやらこの洞窟の中には攫われた人達は居ないようですね」

「何で分かるんだ?」

「赤く表示されてるのが異様な者で青く表示されるのが人です」

「なら攫われた女性はこの中にはいないって事か」

「はい。おそらく、この洞窟の先にある森の中で囚われているのかも」

すると一緒に付いて来ていたガレスの執事が話し出す。

「洞窟に入られる際にはくれぐれもお気を付けを。いくらミティシア様の魔法で通路が分かっていても中は狭いので戦いになるとゴブリンの方が地の利があると思われます。私は足手纏いになると思いますのでここで待っています。この洞窟を抜けると森があります」

「ん?何言ってるんだ?中に入るわけないだろ?」

執事は優一の言った事に首を傾げる。

「琴音、ティファリアこの洞窟事ゴブリンを一掃するぞ」

「「はい」」

二人は優一と一緒に気を高めると洞窟に入り口に向かって気を放つ。

「「「リゲル」」」

三人の放った気は洞窟に中に勢いよく飛んでいき、凄まじい爆音と地響きがすると、洞窟の入り口が崩れ落ち吹き飛んだ。

執事は唖然とした表情を浮かべていた。

「これで大半のゴブリンは片付いたな」

「「はい」」

「優一君、少しやりすぎじゃない?」

「この方が手っ取り早いし、例えゴブリンを退治しても次にまた他の魔物が住み着くかもしれないからな。この方が良いだろう」

執事は咳払いをする。

「後は森林の中に囚われている人達を見つけて頂いてもよろしいですか?私が付いていたら足手纏いになると思いますので森の手前でお待ちしています」

(コイツ、自分が危険な目に合いたくないから付いて来たくないだけだろ)

森の前まで進むとミティシアは呪文を唱えて地図を表示する。

「ティファリアと琴音ちゃんも手伝ってくれる?私一人ではこの森一帯の地図を表示するのは難しいので」

二人はミティシアが投影している地図に手を翳して呪文を唱える。

「「『ルプラン』」」

すると地図は大きくなり森林全体の地図が表示する。

優一は地図を眺めると赤い点と青い点が集まっている場所を見つける。

「どうやら、もう少し奥の方にいるみたいだな」

「それでは私はココで執事の護衛をしてますので優一君と琴音ちゃんティファリアで街の人達を助けてきてね」

「ああ。分かった」

三人は森の中へ入って行く。

「兄さんあの執事さん何か嫌です」

「俺もだ」

「二人共どうしたのですか?」

「いや、ただあの執事から嫌な感じがしただけだ」

優一は先に前に出て歩みを進めると琴音はティファリアに語り始める。

「兄さんは子供の頃に信頼していた友達に裏切られたり苛めに合ったりと色々と辛いことがあったの。それで、兄さんは他の人より人を見る目が鋭いの」

「そうなのですね。琴音さんもですか?」

「まあね。私は兄さんほどでは無いですけど色々とあってね」

「ごめんなさい。余計なことを聞いてしまって・・・」

「いいのよ。私達も別に隠してた訳じゃないし、ティファリアちゃんなら知ってて欲しかったから」

「えっ?」

「だって私達は家族だから隠し事はしたくないじゃない」

「・・・はい」

ティファリアは嬉しそうな悲しそうな表情をする。

「私もお母さんから聞いたのですけど過去に私は」

琴音はティファリアの話を止める。

「ティファリアちゃんの過去に合った事はもう知ってるの。辛いことを話すのはその辛さをもう一度体験するのと同じぐらい辛い事だから言わなくていいよ」

「・・・ありがとうございます。琴ねぇ」

ティファリアは笑顔で尻尾を振る。

「琴ねぇ?」

「はい!私にとって琴ねぇはお姉ちゃんですから。駄目ですか?

琴音はティファリアの上目遣いしながら尻尾を振るしぐさに虜になってしまう。

「いいよティファリアちゃん」

優一は二人の話し声が気になって振り返ると、琴音がティファリアを抱きしめ頭を撫でていた。

「何してるんだ二人共?」

「只のスキンシップです」

「はい!」

「少しは気を引き締めろよ!油断は禁物」

「分かってます」

三人は奥へ進むと丸太で壁を作られている場所に付く。

「二人共ココで待っていてくれ。上から中の様子を見てくる」

「「はい」」

優一は宙に浮くと上から丸太の中の様子を確認した。

優一はその光景を見て顔から血の気を引いた。

中にはガレスから聞いていた人数よりも多くの人が捕まっており数人は両手を縛られゴブリンに犯されたり、他の女性や男性達は腹を捌かれたり首を切り落とされていた。

優一は洞窟に向かう途中にミティシアから聞いた話を思い出す。

(ゴブリンには雄と雌がおり雌の数は極端に数少なく繁殖するのに人を攫って繁殖の道具として使い、また強い魔力を持つ者の遺伝子を求めて戦争で負傷した男や女を攫っているの。そして繁殖で使えなくなった人達を解体して食用として扱ってる)

優一は二人の元に戻ると作戦を伝える。

「俺が中に入ってゴブリンを一掃するから合図を出したら中に囚われている人達を連れて逃げてくれ」

「兄さん一人じゃ危険です!」

「そうです!私達も中に突入します」

「危なくなった場合も合図を出すからその時は頼む。分かったな?」

優一は怒った顔を見た二人は渋々了承した。

「「・・・はい」」

こんな光景二人にはとても見せれない。

優一は丸太で囲われてない入り口から堂々と侵入すると、それに気が付いたゴブリンが聞いたことのない言葉で雄叫びをあげた。

優一は気を最大限まで上げると気を放ち、中へ進んだ。

ゴブリンは奇声をあげながら斧など武器を持って優一に飛び掛かるも優一はそれを交わして次々とゴブリンを倒していく。

「意識がある人はまだ生きてる人達を集めて固まってくれ」

生きている人の縄を切り離すと意識がまだ正常な者は侵されて気が昇天している人を引っ張り集まる。

するとゴブリンの中でひと際大きな体格のゴブリンが優一にも分かる言葉を片言で話す。

「おめえ、こんなことして只で済むと思うなよ。もう少ししたら洞窟で見張りをしている者がきておめえらを皆殺しにするど」

「黙れクズやろう!洞窟におる奴らなら始末しといたぞ。あんなに大きな音がしたのに気が付かなかったのか?」

優一は怒りの表情をしながら鼻で笑う。

「よぐも、よぐもおでの子分を」

ゴブリンは丸太を横ぶりにして優一に当てると優一は吹き飛ぶ。

囚われていた女性は震え怯えあまりの怖さに声が出ずにいた。

「おめえらも、もういらね!じね」

ゴブリンは集まった女性たちに向かって丸太を振り下ろす。

すると優一は起き上がりもの凄い速さで近づき丸太を蹴り飛ばす。

「なにぃ!」

「お前・・・もう死んどけよ」

優一は両手をゴブリンの腹に当て気を放つ。

「リゲル」

ゴブリンは優一の気で跡形もなく消し飛ぶ。

優一は周りに生き残っているゴブリンと殺された人の遺体を気で吹き飛ばし空に向けて気を放つ。

「琴ねぇ、優一さんから合図が来ました」

「いくよティファリアちゃん」

二人は入り口に向かって走り、付くと優一によって破壊されたゴブリンの巣を見て驚く。

木で作られた建物は燃え、ゴブリンの死骸を辺りに転がっていた。

最愛にもゴブリンに解体された遺体は優一によって消されており、二人は目にする事はなかった。

「「『ウォータークーゲル』」」

二人は周りの木に火が移らないように《水魔法》で鎮火した。

「兄さん一体何があったの?」

「大丈夫だ。もう終わった」

優一の暗い顔を見て、琴音はこれ以上追及するのをやめた。

琴音とティファリアは動ける者に回復魔法使用して、気を失っている者を担ぎミティシアと執事の待つ森の前まで急いで向かった。

ミティシアと執事は両手と背中で抱えている、囚われていた女性を琴音とティファリアから一人ずつ受け取ると急いで村へと戻った。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る