第二章 初めての街

8話 ソルト街

翌朝、四人は家に出るとティファリアが呪文を唱える

「『ラオム』」

すると、屋根の上には琴音の封印を解く際にミティシアが杖を取り出すために開けた異空間と同じように現れ、家を飲み込むように空間は下へと下がり家ごと消えた。

「これで家を持ち運ぶことが出来ます」

「なあ荷造りする必要はあったのか?」

「ラオムは限られた個数の異空間しか作る事しか出来ません。魔力の質や量によって異空間の大きさや数は人それぞれ異なります。それに物を取り出すたびに家を出していては大変なので」

「なるほど」

「私は全部で五つの空間を作ることが出来るけどティファリア見たいに大きな異空間を出すことが出来ないの」

そう言うと琴音とティファリアは魔法で異空間を作り、それぞれの荷物の入った鞄を入れる。

「兄さんの鞄はこっちの異空間に入れてね」

優一は琴音が二つ作った異空間のもう片方に鞄を入れる。

「琴音とティファリアは幾つ空間を作れる?」

「私は三つしか作ることが出来ません」

「私は四つまで作ることが出来るよ」

(ミティシアさんは武器などをそれぞれの空間に閉まっているんだな。ティファリアは家と自分の鞄を閉まっていると。琴音はぁ~~)

「なあ琴音、残り二つの異空間には何を閉まってるんだ?」

優一は琴音に目を向けると琴音は目を逸らす。

「・・・・いえません」

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」

琴音は沈黙を破るかのように声を大きく上げて。

「では行きましょう。出発進行!」

優一は琴音が何を閉まったのか気になっていたがこれ以上追及することを止めた。


森林から抜けて草原に出ると魔物の群れが今にも飛び掛からんと言わんばかりに殺気を四人に向けていた。

優一と琴音は魔物に対して両手を出すと気を高めて気放を放った。

「「リゲル」」

二人の放った気放は魔物の群れを一掃して跡形もなく消え去った。

「三人とも油断してはいけませんよ」

「「「はい」」」

優一と琴音が魔物を一掃して出来た道を四人は走って近くにある街へと向かった。

四人はもの凄い速さで走りながらミティシアは目的地について話し出した。

「ここから二百キロ離れた場所にイスリム国が統治する町、ソルト町あります。そこは、私の知人が街長しているので暫く滞在できるように直談判してみます」

琴音は走りながら街に着いて聞く。

「そこはどういった町ですか?」

「ティファリアがまだ小さい時、行った頃は皆優しい人ばかりで活気あふれた街でした。今は分かりませんが・・・私もまた町の皆さんと会えるのが楽しみです」

優一は三人の話を聞きながら道先にいる魔物を蹴散らしていく。

「兄さんあまり一人で無茶してると疲れますよ」

「平気だ!」

今は身体の重さは五倍程度だからこれぐらいどうってことはない

優一は一年間の修行で三十倍の重さまで耐えられるようになっており琴音とティファリアも二十五倍まで耐えられるようになっていた。

走り続けること四時間、遠くの方に街が見えてきた。

「街が見えてきました!もう少しです」

街は煉瓦の塀で囲まれており、入り口には鎧をきた兵士が二人立っていた。四人は街が近づくに連れて走る速度を落とす。

「そこの者止まれ!通門証を見せろ」

優一は門番に道を阻まれるとミティシアは後ろから近寄り謝罪をした。

「すみません。この人は私の連れです」

そう言うとミティシアはポケットから通門証を取り出し門番に見せる。

「こ、これは街長の直々の!?失礼しました。どうぞ中へ」

さっきまで強い口調だった門番は一気に態度が変わり四人を中へ通す。

街へ入るとそこは煉瓦や木々で建てられた家が建っており、まるでレトロ感あるイタリアの風景だった。

「素敵な街です!まるで海外旅行に来たみたい」

琴音は嬉しそうに街を見渡す。

「三人とも私に付いて来てくださいね。まずは街長に挨拶しに行きます」

三人はミティシアに付いて行くとひと際大きな家についた。

家の前には執事らしき人が立っておりミティシアと会話すると家の中へ入る。

暫く客間で待っていると、執事と一緒に少し小太りの男がやってきた。

「これはこれはミティシア様、よくソルトへ再び来て下り有難うございます。どうぞ腰をお掛けください」

家の中には高そうな像や肖像画が沢山飾られており、メイド服を着た女性が数人いた。

「そこの者、客間にお茶を持ってきてくれ」

街長はメイドに指示を出すと丁寧にお辞儀する。

「すみませんな。急に来られたので何も用意できてなくて」

「いえ、私こそ急に押しかけて申し訳ございません」

高そうなソファーに四人は座ると先ほどお茶を持ってくるように言われたメイドさんが紅茶を持ってきて注いでくれた。

「そちらの三人とは会うのが初めてでしたな!私はこの街ソルトの街長をしておるガゼフと申します」

「初めまして、俺は真藤優一と言います」

「私は真藤琴音です。よろしくお願いします」

「私はティファリアと申します」

ガゼフはティファリアをじっと見ると。

「君はもしかしてミティシアのお子さんかな?随分大きくなったね」

「私の事知っているのですか?」

ガゼフは高笑いする。

「もちろん。君はまだ小さかったから覚えてはいないだろうけど、昔ミティシア様と来られたんだよ」

「そうですか・・」

ティファリアは笑顔でガゼフと話しているとミティシアは話をおる。

「ガゼフ殿にお願いがあるのですけど」

「何でしょうか?」

「少しの間、この街に滞在してもよろしいでしょうか?」

「少しと言わず好きなだけこの街に滞在してください」

「感謝します」

あっさりと街へ受け入れてくれた四人はガゼフに感謝し屋敷を後にすると町へ買い物へと出た。

「私達、森の中で鍛錬ばっかりしてたからそろそろ新しい服を買わないと」

「確かに。でも新しい服を買うのは良いが、この世界のお金を持ってないから買い物が出来ない」

「心配いりません。お金でしたら私が持ってますので」

そう言うとミティシアはポケットから財布らしき袋を取り出す。

袋の中には金銀銅のコインが入っておりミティシアは優一と琴音に数枚の金貨と銀貨を渡す。

「金貨があれば大体の者は買えると思いますので」

「そんな、お金なんて頂けません」

「いいのよ。琴音ちゃんは私にとって娘みたいなものですから」

琴音は少し嬉しそうな表情でミティシアにお礼を言う。

「琴音さん一緒に服を見に行きましょう」

ティファリアは琴音の手を握って服屋の看板が飾られた店へと入って行った。

「私、母親らしいですか?」

ミティシアは優一に聞く。

「ああ。琴音もまだ慣れてないけどミティシアさんの事を頼りになる人、親だと思っていると思うよ」

「ティファリアに親らしい事、何一つしてあげて居なかったから正直不安でした」

「そんなことない。ミティシアさんは十分親らしい事をしてる」

ミティシアと優一が話していると店から二人が顔を出す。

「お母さんも早く服を選びましょ!」

「兄さんはそっちの男性用の服屋で買ってね。こっちは女性用しか売ってないから」

そう言って二人はミティシアの手を引っ張り店の中へと戻った。

優一は看板を見るとひらがなとカタカナで看板に名前が書いてあった。

(そう言えばこの世界に来てミティシアとティファリアと普通に話していて気にして無かったけど、この世界の言語は俺のいた世界と同じなのか?漢字はないみたいだが)

優一は店に入ると店主に丁寧に挨拶される。店の雰囲気に合ったオシャレな服を着た紳士的は、いきなり品を進めてきた。

「こちらの服はいかがでしょうか?お兄さんにとてもお似合いだと思いますよ」

店主から勧められた服は少し派手でだが、街で歩いてる人が着ていた服装のデザインに似ていた。

「あまり派手過ぎずシンプルな服はありませんか?」

店主は店の奥に行き、何か箱らしきものを持ってきた。

「こちらはかなり前に出た商品ですが」

箱を開けると中には黒い皮ズボンとインナーが入っていた。

「値段はどのくらいですか?」

優一は店主に尋ねる。

「それは在庫処分する予定だったものなので銀貨二枚でいかがでしょうか?」

(上下セットでこの値段は安いのか?)

優一は皮のズボンとインナーを買うことにした。

「これを買います。後同じ在庫があるのならもう二つほど欲しいのですけど」

「分かりました。三つセットで銀貨五枚におまけしときます」

優一はお金を払い皮のズボンとインナーを買った。

「よろしければこちらで着替えて行かれますか?」

「はい」

優一は店主に更衣室に案内され着替えた。

「お兄さんとても似合っています」

何か物足りないな。

優一は店の中の服を見渡した。

「すみません。こっちの黒いコートを着てみてもいいですか?」

「どうぞ。もしよろしければ、そちらのお客様の服をお持ちしましょうか?」

優一は両手が塞がっていたので先ほど脱いだタートルネックと魔物との戦闘によって破けたオリジナルのダメージジーパンを預けた。

優一は更衣室に入りコートを羽織って姿見で確認した。

(結構いいな!)

「すみません。コレも買います」

カーテンを開けると店主は優一の預けた服に頬ずりしながら小さな声で何か呟いていた。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

優一と店主は目が合い暫く沈黙した。

「お気に召されましたか」

(こいつメンタルつえぇ~~)

優一は早いとこ会計を済ませようとして服を受け取ろうとした。

「すみません。もう離してくれて大丈夫です」

「お願いします!どうか、どうかこの服を私に譲ってください!お願いします!!」

もの凄く怖い!魔物より断然怖い。

優一はこれ以上ヒートアップされる事が怖くなり服を譲った。

「そちらのコートとこちらの服と交換ということでタダにしときます。おまけにブーツも二足つけます」

何はともあれ得をした優一は早々に店を出た。

店を出ると隣の方から三人が飛び出してきた。

「兄さん逃げて!この店の人可笑しい」

三人が出てきた店から店主らしき女性が飛び出て来て。

「お待ちください!その服金貨五枚出しますのでどうか譲ってください」

店主はこっちに向かって走ってくる。

優一は一瞬で理解して三人と共に屋根に飛び乗り店主から逃げた。

店主から逃げきった四人は一安心する。

優一はミティシアに言う。

「この町の服屋の店員は買い物した人の服を奪い取る趣味でもあるのか?」

「いえ、琴音ちゃんの着ていた服が珍しかったからだと思います」

「兄さん、さっきまで着ていた服は?」

優一が黙り込むと三人は納得したかのように。

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