7話 試験~旅の準備

琴音が鍛錬に加わり一年が立とうとしていた。

「それでは優一君、琴音ちゃん今日は二つの試練を受けてもらうね。一つ目は森林の周囲にいる魔物を討伐する事。二つ目は私と戦ってもらいます。私と戦うときはティファリアも二人と一緒に私と戦うのよ」

「三対一ってこと?」

「はい」

「それはいくら何でも無理があるんじゃ・・・」

「私なら大丈夫です」

ティファリアは血の気を引いた顔をしていた。

「優一さん・琴音さん・私達、旅に出る前にここで死ぬかも・・・」

優一と琴音は苦笑いしながら一つ目の試練をこなすために草原へと向かった。

「結構いるな」

「二百体ぐらい?」

「そのくらいかな?まあティファリアとミティシアはあの魔物はそんなに強く無いみたいだし大丈夫だろ!確か名前はブラックファングだったかな」

「名前の通り黒い猪みたいだね」

「じゃあ早いとこ終わらすか」

優一は気を高め、琴音は手を魔物に向けて呪文を唱える。

「『ヴァーン』」

琴音の風魔法によって魔物の群れは空に打ち上げられ、尽かさず琴音は次の魔法を唱える。

「『グラビド』」

すると、打ち上げられた魔物は勢いよく地面に叩きつけられ優一はトドメにティファリアから教わった技を放つ。

「リゲル」

地面に叩きつけられた魔物は、優一の気によって跡形もなく吹き飛んだ。

それを見ていたミティシアとティファリアは感心する。

「二人共戦いのセンスはあるね」

(ちゃんと油断もせずトドメも出来てますね)

「さすがです!」

「それでは次は私と戦ってもらいます。少し休憩をしますか?」

「いや、俺は大丈夫だ。琴音は大丈夫か?

「私も大丈夫です」

「ティファリアも準備はいい?」

ティファリアは暗そうな表情で返事をする。

「はい・・・」

「大丈夫だってティファリア。三人で掛かればミティシアに勝てるって」

「そ、そうですよね!私、頑張ります!」

「その調子だ」


「いつでもどうぞ。そちらから仕掛けて良いですよ」

ミティシアは異空間に剣を片付けると、肩の力を抜きリラックスした立ち姿を取る。

(武器を使うまでも無いと言う事か)

「ティファリア、まず俺と琴音が三角形を描く感じで位置に付くからその場にいてくれ。俺が合図したらグラビドを琴音と一緒に唱えてミティシアの動きを止めるんだ」

「はい!」

「その隙に俺が畳みかける」

「琴音行くぞ!」

「はい!兄さん」

二人はそれぞれ左右に走り三角形を描くように位置に付く。

「よし!今だ」

「「『グラビド』」」

二人の魔法によってグラビドを掛けられるミティシアは一瞬辛そうな表情をした。

(今だ!)

優一は気を高めてミティシアに殴り掛かる。

「『アビリティー弐』」

しかし呪文を唱えたミティシアは平然とした表情に戻り、優一の拳と交わして懐に重い一撃を入れる。

「ぐはっ」

優一は重い一撃を受けて腹を抱えて倒れこむ。

「兄さん!」

「優一さん!」

二人は心配な声を上げる。

「いい作戦でしたけど私が魔法で身体能力を上げれる事を忘れてない?」

「忘れてないさ!」

優一は地面に気を打ち込むとミティシアは高く飛び上がり上空に逃げる。

「琴音!ティファリア!今だ」

優一の合図で魔力を上げてグラビドの威力をあげる。

「少し作戦が浅はかだと思いますよ。先ほど使った魔物と同じ手が私に通用するとでも?」

「ああ思ってないさ!これならどうだ」

優一は勢いよく落ちてくるミティシアに気を放つ。

「リゲル」

ミティシアの落下する速度を利用して放った気との衝突威力を上げたのだ。

その速度からの気に当たればミティシアでもいくら何でもダメージは受けるだろ。

(ミティシアに取って地面がクッション見たいに着地出来るなら、差し詰め俺の気は迫ってくるコンクリートと言った所だろ)

気はミティシアに命中して轟音と共に凄まじい風が吹き荒れる。

「少しは効いたかな?」

ミティシアを包む煙が空に浮く中、優一はすぐに気が付く。

どうして落ちて来ない!?

煙は晴れるとミティシアは魔法陣の上に立っており、まるで宙に浮いているようだった。

(ダメージを受けていないのか!)

「そんな!」

ミティシアは高速で優一に距離を詰めて顔を殴ろうとした瞬間、優一はとっさに顔を防御するもミティシアは寸前で拳を止めて身体をひねり優一の腹に強烈の蹴りを入れる。

優一は吹っ飛び、尽かさずミティシアは琴音に間合いを詰める。琴音は魔力の使用を止めて気で身体能力を上げて防御態勢に入るも防御越しから殴られ吹き飛ぶ。

ティファリアもミティシアと同じように魔法で身体能力を上げ火と風と水の魔法を連発するもミティシアに簡単に避けられ腹に強い一撃を入れられ倒れる。

「ここまでです?」

そう言ってミティシアは隙を作ると優一は背後に回り込む。

「卑怯って言うなよ?戦争ではこう言う事もあるだろ?」

優一はミティシアの後頭部を殴ろうとすると交わされ殴り掛かった拳を掴まれ一本背負いされ地面に強く叩きつけられ優一はのびてしまう。

「試練はここまで」

そう言うとミティシアは魔法を解く。

「三人とも合格です」

ミティシアはそう言って拍手した。

三人は地面に倒れこんで痛みでとても喜べる状態ではなかった。

                   ▽▽▽

ミティシアの魔法で怪我を回復すると四人は家へと戻った。

ミティシアは優一と琴音が倒した魔物の中で原形が残っている物を持ち帰って外で解体してリビングで調理していた。

優一は負けた事が悔しく外で鍛錬して、琴音とティファリアは二人でお風呂に入った。

二人の話し声が外に漏れていた。

(二人共結構仲良くなったな)

優一はミティシアに《グラビド》を掛けてもらい外でオリジナルの鍛錬をしていたが、リビングから香ばしい匂いがして来ると鍛錬を終えた。

家に入ると料理が幾つかテーブルに並べてあった。

「優一君、試練で疲れてるからゆっくりすればいいのに」

「いや・・・完膚なきまでに負けたから一日でも鍛錬しないと時間がもったいない気がして」

「休むことも鍛錬ですよ」

「はい・・・」

二人が話していると琴音とティファリアもお風呂から上がってリビングにやってきた。

「ミティシアさん私も料理手伝います」

「そう?ならお願いしようかしら」

「私も手伝います!」

三人は並んで料理を始める。

「俺も何か手伝おうか?」

「兄さんは早くお風呂に入って来てください。部屋が汚れます」

「分かった・・・」

優一はお風呂へと向かった。

「ふぅ~やっぱりお風呂は疲れが取れる」

優一は湯船でリラックスしてると身体に痛みが走る。

っ!?

(魔法で治療をしたと言ってもさすがに完全とまではいかないか)

旅に出たらお風呂もいつ入れるか分からないと思い優一は長めにお風呂に入った。

「兄さんお風呂から上がったね。サラダの盛り付けをお願いしてもいい?」

「ああ」

「それでは私はお風呂に入ってくるので後はよろしくね」

ミティシアは三人に料理を任すとお風呂に向かった。

「この葉っぱは何処で調達したんだ?」

「それはティファリアちゃんと一緒に森を探索していたら見つけたの。ミティシアさんに調べて貰ったら食べれる野菜だったので収穫してきたの」

「そうなんだ。この葉っぱが食べれるんだ」

「葉っぱじゃなくて野菜です」

琴音は厳しく指摘する。優一は見た目が葉っぱだから別にいいのではと内心思う。

優一はガラス皿に野菜を綺麗に並べるとテーブルに置く。

「もうテーブルには置けないぞ」

「こっちの料理はおかわり用です」

三人が料理を終わると、丁度いいタイミングでミティシアがお風呂から上がってきた。

四人は楽しく雑談しながら料理を食べる。

「最近、お肉ばっかりだったので森の中に食べれる野菜が合ってよかった」

「琴音さんが野菜の探索に誘ってくれなかったら今日もお肉ばっかりでしたね」

「でも料理が美味しいから俺はお肉だけでも良かったけどな」

「兄さんは良いけど、女の子は野菜を取るのも大事なの。ねぇティファリアちゃんミティシアさん」

「そうね。野菜はお肌にも良いですし健康にもいいですから」

テーブルに並んでいる料理はあっという間に無くなり、リビングに置いてあった料理もあっという間に平らげた。

「それにしても結構食べたな」

「はい」

「それでは各自、明日の出発する準備をしましょう」

四人は部屋に戻ると荷物をまとめる。

必要最低限の物をリュックに入れた優一はリュックを玄関に持って降りる。

すると先にティファリアが鞄にまとめた荷物を持って降りていた。

「あっ優一さんも準備出来ました?」

「俺も丁度出来たところ」

「二人はまだかな?」

「お母さんは旅で持っていた荷物を、いる者といらない物を整理してタオルとかを入れてました。琴音さんは何か色々な服を並べて迷っていました」

「そ、そうか」

女は大変だな。優一は心で思う。

(それに比べてティファリアはまだ幼いからかオシャレにはあまり興味はないのかな?それに鞄を小さい)

そう言えばティファリアとミティシアは歳幾つなんだ?

「私は十四歳です。お母さんは多分三十歳だったと思います」

「二人共若いな」

(ミティシアと俺は七歳しか違うのか。ん?って言う事は十九歳ぐらいからティファリアを連れて一人で旅をしながら育てたって事になるよな?やっぱりミティシアは凄いな)

上で荷造りしていた二人も終わったのか鞄を持って下に降りてきた。

「それじゃあ今日はもう早く寝て明日に備えるか!」

「「「はい」」」

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