二人の過去2-2
「優一さんはティファリアからどこまで聞きました?」
「この世界が魔王や戦争によって多くの人が苦しんでいる事までは聞いた」
「そうですか・・・それでは私からはこの世界、オールワールドとエアストヴェルトの歴史と私達の事を少しお話しします」
(歴史?この世界、戦争が起きる前の話か?)
「遥か昔、エアストヴェルトは人(ユマン)・獣人(ベスティア)・鬼人(オグル)が暮らす平和な世界でした。ところが突如、世界に空間の歪みが生じて別の世界と繋がりました。その世界はオールワールドと言いエアストヴェルトとは違う色々な魔物や人種が生息しておりました。その世界は魔王が率いる魔族や魔物、多くの人種によって戦争が起きていました。オールワールドの世界では魔力を使って魔法を使う世界のことです。魔王軍とそれに対抗する勢力は突如繋がった世界の不思議な力に目を付けました。エアストヴェルトには気と言う不思議な力を使って身体能力を向上させる人々がおり、その気を使う人々に目を付けたオールワールドの者たちはエアストヴェルトに攻め込みました。そして一つになったオールワールドとエアストヴェルトによる大戦争が起こったのです。噂の力を手に入れる為に」
「噂の力?」
「はい。神の力 別名 気魔(クラフト)」
(・・・なるほど。そういえばティファリアは気と魔力の力、両方の力を持ってたな?)
「ここからは私達の過去の話です」
ミティシアは暗い表情になり自分たちの事を話し始めた。
「私には双子の妹がいました。妹と私は二つの世界の間の人の元で生まれ、私は魔力を妹は気の力を持って生まれました。戦争で国を失った私と妹は国を転々としている中、妹はある日滞在していた国の人と恋に落ち、その人と一緒になりました。そしてその時に生まれたのがティファリアです。ティファリアは妹とオールワールドの獣人(ベスティア)の間から生まれた、いわゆるハーフなのです」
「じゃあミティシアさんはティファリアの義理の母親って事か」
「・・はい」
「ティファリアの両親は亡くなったのか?」
「いえ、妹はティファリアを生んですぐに亡くなったのですけど父親の方は今も生きてます」
「なら、普通は父親が育てるんじゃ?」
ミティシアは歯を食いしばり、怒りの感情を抑える。
「人は生まれて三歳になると魔法や気を扱えるようになるのですけどティファリアは魔法も気も扱える事が出来ませんでした。最初の頃は《神の力を持つ子》として、とても愛情を注がれ崇められ育てられていたティファリアは、気魔(クラフト)の力を持っていながら力を使えない事に国の王である父親は次第にティファリアに冷たく当たるようになりました。そしてティファリアが二つの力を持っている事は他の国にも知られ、ティファリアの力を狙って他国から集中攻撃を受けるようになり、父親はそれを止める為にまだ幼いティファリアを公開処刑しようとしました。他国の目を逸らす為に」
優一はそれを聞いて驚愕する。
「はぁ!?実の我が子を!!」
「ティファリアはこれから熱しられた釜湯に投げ込まれようとされてるのに、久しぶりに父親に抱き抱えられた事が嬉しくて笑顔で笑っていました。ですが王は何も戸惑う事無くティファリアを釜湯に投げ入れました・・・私は投げられた瞬間にティファリアを救出して国から逃亡したのです。追ってから逃げ延びた私は各地を転々としながら今日に至るまでティファリアを一人で育て、力の使い方を教えてきました」
優一は不意に琴音を思い浮かぶ。
「なら本来二つの力を手に入れるのが目的の戦争なら両方の力を持っているティファリアと琴音は狙いの的ってことか・・・それに今やティファリアは両方の力を使えるからどこの国も喉から手が出るほど欲しい存在」
「はい。ですがティファリアはまだ二つの力を使えても気魔(クラフト)を使えません。本来、気魔(クラフト)は両方の力を同時に使えて初めて力を発揮します。それと琴音さんはおそらく大丈夫です。まだ誰にも知られていないので・・・ですがティファリアは両方の力、気魔(クラフト)を持っていることは幾つかの国に知れ渡っています」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
「おそらく・・・だと。魔法で他の世界に逃げる事は出来ないのか?俺達がいた世界とか・・・」
「出来ません・・・」
(と、言う事は俺と琴音を元の世界に戻ることも出来ないってことか・・・)
突然優一は大きく息を吸って大声を出しミティシアは驚く。
「わぁあああああああああああああああああああああああああああああああああーーーー」
不安、怒り、恐怖の感情を吐き出すかの大声を出した優一は何か吹っ切れたかのように顔をする。
「スッキリした。よし!俺が強くなって皆を守ってみせる」
「いいのですか?」
「気の力を手に入れられたしな」
欲を言えばチート能力が欲しかったけど。
ミティシアは泣くのを堪えながら頭を下げる。
「あ、ありがとうございます」
「お、おい。顔を上げてくれ!」
ミティシアは顔を上げると目から涙が零れ落ちる。
「泣くな!そんな顔、ティファリアには見せれないだろ?」
優一はタオルでミティシアの涙を拭く。
「ありがとうございます。ありがとうございます!。ありがとうございます!!」
何度もミティシアは優一に礼を言う。合った時の凛々しさはなくミティシアは今までの苦労を吐き出すかのように大声で泣く。
「だから泣くな!俺は女に泣かれるのが苦手なんだ・・・」
ミティシアは優一に抱き着き声を抑える。
女性に免疫のない優一は顔を赤く染め上げながら両手を上にあげる。
すると二人の大声を聞いたティファリアがバスタオルと桶を握ってリビングに走ってきた。
「お母さん!優一さん!何かあったの!?」
服を着ていた時には気が付かなかったが小さい子にしては発達した身体をしている。
細い手足に膨らみかけた胸。
そしてお湯によって濡れた髪と垂れた尻尾から水滴が落ちる。
「何でもない!大丈夫だ」
優一がそう言うとティファリアはホッとする。
「よかった~~」
「それよりそんな恰好で大丈夫か?風邪ひくぞ」
ティファリアは焦っていたのか落ち着きを取り戻し自分が今どんな格好をしているのか自覚して大声をあげる。
「キャーーーーーーーーーーーーーーーーーー。見ないでくださいーーーーーーーーーー」
ティファリアは手に持っていた桶を優一に投げつけて風呂場に走って戻る。
「っ痛」
泣き止んだミティシアはスッキリしたかのように優一を見て満面の笑みを浮かべる。
「すみません・・取り乱してしまい。優一さん・・・ティファリアの事よろしくお願いします」
「あ、ああ」
翌朝、家の外。
「それでは優一さん、身体の重さを上げますね」
ミティシアは優一にグラビドを唱える。
「やっぱりキツイな」
「それでも優一さんは普通に立って入れてるので凄いです。何か鍛錬でもされていたのですか?体格もいいですし」
「仕事が肉体労働だったから自然と付いたかな」
「そうなのですね!」
「それでは優一さん、その重さの状態で今日は森林の中を散歩します」
ティファリアとミティシアもそれぞれ自分に《グラビド》を唱えて三人で散歩を始めた。
「目的地はここから十キロ離れた世界樹まで行きます」
「よ、よし!分かった」
歩くこと二時間、ようやく世界樹に辿り着く。
「ついた~~~~」
優一は歩き疲れて地面に寝転がる。
「お疲れ様です優一さん」
優一は寝転がった状態で世界樹を見上げる。
太陽の光で照らされた世界樹は葉から落ちる水滴が神秘的な光景に見えて優一は感動していた。
「凄い大きな木だな!それに綺麗だ」
「この木は世界に四本生えている世界樹の中で四番目に大きい木です。この木のおかげで魔物はこの森林に近づくことが出来ないのです。お伽話では神様が世界樹になって下界で人々を守っているという説もあります」
「これが四番目!これ以上に大きい木があるのか!ははは」
優一は顔から溢れ出る汗を拭きながら笑う。
「何だか世界樹の木が喜んでいる感じがします」
「優一さんお水をどうぞ」
ティファリアは水稲に入れた冷たい水を注いで優一に手渡した。
「ありがとう」
「優一さんここまで歩くときに気を使って歩きました?」
「いや、使ってない」
「気を高めると身体の負担も軽減されますし気のコントロールの鍛錬にもいいですよ!」
優一はティファリアに言われて集中して気を高める。
「こうか?」
「流石です優一さん。気が上がってます!」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます