第9話 再度会う

 数日後、再び高橋との面会が叶った。以前の店のテーブルで机を爪で素早く叩きながら待っていると、約束の時間の十五分前に高橋が姿を現した。手を振り、にこやかに近づいてくる。彼が店員に紅茶を頼む声に被せる様に話し出した。


「アウトライヤーと共感してみましたよ」


 一分の怒気を滲ませた言葉だった。あんな狂人めいた事を青島に勧めたのであれば、高橋というのはとんでもない男だ。青島はきっと精神を病んで会社を辞めてしまったのだろう。その恨みをぶつけたつもりだったが、高橋は大きく目を見開き訊いてきた。


「アウトライヤーと?」

「そうです」

「君が?」

「そうです!」


 苛立たしい程に落ち着いている高橋はそこで一旦言葉を区切り、感嘆の溜め息を吐いた。目には驚きと感心は見られるが、悪びれている感じが一切無い。青島に危険な行為をさせたというのに何とも思っていないのだろうか。言及しようとした勢いは、思いもよらぬ高橋の言葉によって遮られた。


「で? どうだった?」


 まるで高橋が勧めた映画の感想でも尋ねているような雰囲気だ。チップの感情任せに悪態で答える。


「どうもこうも、頭がカチ割られる様な思いでしたよ。色々な感情が一遍に押し寄せてきて、呑み込まれかけて……精神崩壊一歩手前でしたよ!」


 あれを青島にさせたあなたの気が知れませんと吐き捨て、アイスコーヒーを仰ぐ。高橋は一瞬固まるも、すぐに豪快に笑いだした。


「何を不機嫌そうな顔をしているかと思ったら、そういう事か」


 高橋の笑いにさらに眉間の皺を深めると彼は手を翳し、弁解しだした。


「いや、何だ。とにかくいくつかの誤解があるようだからさ」


 忍び笑いをする高橋の前に紅茶が置かれる。ウェイターが去ったところで高橋は指を一本立てた。


「まず一つ。青島君は今もピンシャンしているよ。勿論精神的にもね。僕は彼の精神科医なのだからそこは保証するよ。何なら今の方が以前よりずっと元気かもしれない」


 すると彼は自身の端末を操作し、写真を見せてきた。湖を背景に軽めの登山装備を身に着けた青島と高橋が写っている。高橋は相変わらず人懐っこい笑みをカメラに向けており、隣の青島も又負けず劣らずの笑みを浮かべている。会社では彼のそんな表情を見た事がなかったのと、今知った高橋の職業と同時に衝撃を受け、チップの怒りは驚きに凌駕される。端末を仕舞う高橋に何から尋ねようかとあぐねていると、高橋は指を二本立てた。


「二つ目。アウトライヤーと共感する時は、通常の共感ネットワークにアクセスするみたいにしちゃ駄目なのさ。ある種の、作法があるっていうか……でないと大惨事になりかねないからね。本当良く無事だったね」


 紅茶を口にする高橋に、最も聞きたい問いをぶつける。


「ではアウトライヤーと正しく共感する、その作法を教えてください」

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