第10話 アウトライヤーとの共感

 好奇心が大いに働いているという自覚はある。この秘密を知れば、この男の懐に潜り込めるのだと期待もある。だがここまで来て高橋は答えを渋った。


「これ以上は、やめておいた方が良い」


 いつぞやと似たような忠告だ。勿論諦めるつもりは無い。チップによる向上心と閃きに促され、更に掘り下げていく。


「以前もそのような事を言ってましたよね。どういう意味ですか?」


 苦い笑みを浮かべ天井を見上げる高橋は言葉を選んでいるように見えた。


「君、成功しているだろ」


 話を逸らされたか。高橋は続ける。


「君のその群を抜いた好奇心や向上心。社会的出世に向いているからさ」


 褒められているのか判断がつかず、どうもと気の抜けた返事をしてしまう。だが高橋の次の言葉に興味が一気に引き戻される。


「上手い具合成功してるならさ、それを捨てるような火遊びはよした方が良いってことさ」


 高橋の秘密。それを知るにはそれ相応の危険が伴うという事か。だがここは引くべき所ではない。押し通すべきだ。


「リスクは百も承知です。アウトライヤーとの共感について教えてください」


 なおも高橋は渋るので、切り札を使う。


「あなたの言う通り群を抜いた好奇心を持っているのなら、我流でやってみてしまうかもしれませんね。それこそ何が危険かも分からずに」


 それが最後の一押しとなったのか、高橋は首の後ろをがりがり掻きながら唸り、そして長い溜め息を吐いた。折れた。


「分かったよ。アウトライヤーとの共感方法を教えるよ。でもこれだけは約束して。満足できても、できなくても、一回しかやらない事」


 真剣な眼差しで頷けば、高橋は説明しだした。


「別に難しい事じゃないんだけど、アウトライヤーと共感する時は、保存されている全てと共感するんじゃなくて、一つの人格としか共感しない事。色んな意味で突飛な人達だからね。一人ずつと共感しないと身が持たないよ。あと、通常の共感ネットワークとのリンクを切っておく事。常識が邪魔して上手く共感できないからね」


 後は先日もやった通り、タイマーやら大切な物にはロックを掛けるといった注意事項を並べていった。熱心に聞き入っていると不意に高橋は黙り込み、じっと見詰めてきた。


「本当に、一回だけにしときな」


 大丈夫だと答えると、彼は再び深い溜め息を吐いた。


「後悔するような事にならなければ良いけど……」


 むきになっていると思われたのだろうか。だが違う。全ては高橋の核心に触れ、ルダイト相手の必勝法を手に入れる為の大事な一歩なのだ。

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