第3話 高橋直哉
待ち合わせの店に入り、空いている席を探す。午前の作業の間、不意に朝の記事のテロリストと高橋の人物像が重なり、俄然やる気である。この商談は会社の為であり、しいては理想の社会に近づく為の一歩なのだ。
昼時ということもあり、店は賑わっていた。大衆食堂を指定してきたのは高橋だ。前回の担当であった新人営業は一度目の勧誘に失敗し、二度目を仕掛ける前に会社を辞めてしまい、それから数日後に高橋の方から連絡があったのだ。お昼を兼ねて話がしたいと。
食堂は庶民的な装いに、間違いなく美味いのだと主張するような匂いが店内に立ち込めている。カウンターとテーブル席があるのだが、チップの性能の説明の為に作成した資料を広げるにはテーブル席が良い。しかしテーブルは全て満席である。腕時計を見れば、待ち合わせ時間二十分前を示していた。それまでにはテーブルを確保できるだろう。
店員に声をかけようとしたら、誰かに呼び止められる。
「失礼。青島さんの会社の方ですか?」
声の方へ振り向けば若い男。記憶力にはチップのバックアップも活用しているから、自信があるのだが、彼の顔は少しも見覚えがなかった。
「えぇ。まぁ」
ひどく曖昧な答えになってしまったのは、青島が二週間前に辞めていった件の新人であるからだ。彼の名を口にしたということは、まさかこの男が? 思わず尋ねる。
「失礼ですが、あなたは?」
男はにかりと白い歯を見せた。人好きしそうな笑い方だ。
「高橋直哉って言います。テーブル席で良かったですか?」
そう言って彼は向かいの席を勧めてきた。
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