『死の呪いを打ち破れ』【書けなかったアイデア(タイトル案も含む)を提供します】参加作品

@Ak_MoriMori

死の呪いを打ち破れ

 月明りの下、一頭の馬が、草原を疾駆している。

 馬上から、赤い一条の光が発せられ、それを追いかけるように疾駆している。


 馬上には、男の姿があった。

 右手で手綱を繰り、左手には赤く光る宝珠を持っている。

 一条の光は、この宝珠から発せられているのだった。


「ハイヤッ!」

 男は、一声ひとこえあげると、馬の横腹を蹴り、馬の速度をさらに上げる・・・。


 急がなければならない・・・急がなければ、私は・・・死ぬ。


・・・・


 草原の真ん中に、その小さな家はあった。

 その家の中で、今、ある儀式がり行われていた。


 灰色のローブで、全身をすっぽりと覆われたその者は、呪術師だった。

 呪術師は、机の四隅に赤い蝋燭を立て、七本の短剣を並べた。

 そして、自分の右手の人差し指に傷をつけ、黒い木の人形を取り出すと、その胸に「バルド・アンガス」と、血で書いた。


「バルド・アンガス」

 そんな名前の者など、呪術師は知らない。彼は、依頼されただけなのだ。

 そういう名の者を、呪い殺してほしいと・・・。


 これから、執り行う呪術は、非常にリスクが高かった。

 だが、『呪い』とは、そういうものなのだ。

 だから、報酬をふんだくれるだけ、ふんだくってやった。

 この呪術が成功すれば、彼は、一生遊んでいけるだろう。


 彼は、血で名前が書かれた人形を、机の中央に置いた。


・・・・


 馬上の男、「バルド・アンガス」は、馬をひたすら走らせていた。

 宝珠が発する赤い一条の光を追いかけて・・・。


 彼は、この地方の領主だった。

 そして、今や、何者かにより、命を狙われている・・・。 


 家宝の宝珠が、彼に教えてくれたのだ。

 この宝珠は、彼の一族に対する呪いを感知してくれるのだ。

 そして、呪いをかける者の場所へと導いてくれる。赤い一条の光をもって・・・。


 宝珠には、何者かが、儀式を執り行う様子が映し出されている・・・。

 何をしているかまでは、わからない・・・。

 だから・・・急がねばならない・・・。


 その時、左足に強烈な痛みが走った。

 それは、一瞬だったが、あまりの痛みに、バルドは、落馬しそうになった。

 何とか、必死にこらえ、馬を走らせる・・・。


・・・・


 呪術師は、一本の短剣を、人形の左足に突き刺した。

 それと同時に、安堵のため息を吐いた。額に浮かんだ汗をぬぐう。


 この呪術は、リスクが高すぎる・・・。

 しかし、だからこそ、呪いとしての効果が高いのだろう。

 

 この呪術は、簡単な呪術の部類に入り、かつ非常に効果的だ。

 術者は、黒い人形を用意し、人形の胸に、血で呪う相手の名前を書く。

 次に、七本の呪いの短剣を用意し、左足、右足、左手、右手、胸、そして、頭の順に刺す。六本の短剣をすべて刺し終えれば、相手の首が落ちる。


 短剣が一本多いのは、この呪術の効果を高めるため・・・。

 術者は、自分の命を賭けて、相手を呪い殺す。

 つまり、七本のうち、一本は自分に有害・・・死を招く短剣なのである。


 次は、どの短剣で刺そうか・・・?

 呪術師は、目を皿のようにして凝らし、一本の短剣をようやく選び出す。

 確率は、六分の五・・・。まだまだ、神経質になる必要はないが・・・。

 自分の命がかかっているのだ。


 選び出した一本を、人形の右足に突き刺す・・・。


・・・・


 バルドは、右足に強烈な痛みを感じた。なんとか、踏ん張り、落馬は免れた。

 そこで、バルドは、ふと思った。

 このままでは、宝珠を落としてしまうのではないかと・・・。

 バルドは、いったん、馬を止め、宝珠を頭にくくりつけた。

 これで、落とすことはないだろう・・・。


 バルドは、再び、馬を走らせ、宝珠が発する赤い一条の光を追う・・・急がねば!


・・・・


 呪術師は、悩んでいた。

 なんとか、二本の短剣を人形に刺すことに成功した。

 しかし、毎回、選びながらやっていたのでは、神経が持たない・・・。


 そこで、彼は、残りの短剣をすべて選び出すことにした。

 先に選び、順々に刺していく。そのほうが、神経をすり減らすことはない。

 

 彼は、再び、目を皿のように凝らし、五本の短剣から四本を選び始めた。


・・・・


 月明りの下、その建物は横たわっていた。簡素な家が、目の前に見えた。

 宝珠の発する赤い一条の光も、その家を照らしている。

 

「ここか!」


 バルドは、馬を家の方へと走らせる。


 あと、もう少しだ・・・。


 というところで、バルドの両腕と胸に激痛が走った。

 これには、さすがのバルドも耐えきれず、落馬してしまった。

 馬は、いななくと、どこかへ走り去っていく・・・。


・・・・


 呪術師は、人形の両手と胸に、つぎつぎと、短剣を突き刺した。

 

 そして、突き刺すと同時に、外から大きな音と馬のいななきが聞こえたため、

驚いてしまった。


「心臓が、止まるかと思ったぞ」と、呪術師は、毒づいた。

 

 そして、何があったのか、ちょっと見てみようと思った。


 ・・・なあに、焦って呪術を続ける必要はない。

 もしかしたら・・・次で、私の命がなくなるかもしれない・・・。

 ならば、ちょっとくらい・・・。


 呪術師は、玄関扉を開け、外の様子ををうかがった。


・・・・


 バルドは、立ち上がりながら、家から何者かが、顔をだすのを見た。

 頭にくくりつけた宝珠の赤い一条の光が、その者を指し示す。


 呪いの主は、あの者に違いない。

 バルドは、剣を抜くなり、一気に、その者の元へと駆けよる。


・・・・


 呪術師は、驚いてしまった。

 赤い光を発する何者かが、こちらに向かって駆けてくるのだ。

 しかも、ものすごい殺気を発しながら・・・。


 呪術師は、急いで、家の中に入り、机の上の短剣に手を伸ばした。


・・・・


 バルドは、剣を片手に、家の中に駆け込んだ。

 灰色のローブをすっぽりかぶった男が、机の上の短剣を手にしようとしている。


「させるかッ!」


 バルドは、一声ひとこえ発すると、剣を横に払った・・・。


・・・・


 呪術師は、机の上の短剣を・・・二本のうちのどちらかを手にした。

 そして、短剣を・・・。

 その瞬間、彼の意識はなくなった。


・・・・


 バルドは、呪術師の首を跳ね飛ばした。

 

「終わった・・・助かった・・・。」


 だが、不思議だった・・・。

 なぜか、目の前に、床が迫っている・・・。


・・・・


 首のない呪術師の体が、黒い人形の上に、覆いかぶさるように倒れていた。

 それは、偶然だった。

 偶然、呪術師が持っていた短剣が、黒い人形の頭に突き刺さっていた・・・。


・・・・


 静まり返る家の中、音が鳴り響いた。

 バルドの頭にくくりつけられた宝珠の・・・砕け散る音が・・・。

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