第8話 アメノ・イノリ

「本当によくやってくれたね」

「いやー、ギリギリだったけど」

敵に神がいるならこちらも神を出すしかないだろう、ということできてもらった。

コウタロウさんはものすごくイライラしていた。

突然過ぎたことではなく。

目の前にいる武神の顔を見た瞬間からイライラが止まることなく増している。


「なぜお前がここに!?」

「うるさいな。こっちは顔を見るだけで嫌なのに、その気持ち悪い口を閉じてくれない?」

ショタからの辛辣な言葉。

これが、ショタ神と言われた所以か。


「なんだ・・・・!!」

なんだと、と言いかけた口を強制的に閉じられた。


「学習しなよ。君たちは所詮ただの成り上がり、半端者たちの集まりだろ?全世界の生命を人質にとってやっと僕達の力を削げるようになったくらいなんだから。自由になった僕に勝てるわけがないだろ?」

うわぁ、いつも以上に饒舌だー。

それになんかすごい事実を話してるみたいだけど、気にしない方がいいな。


「ん゛ん゛ん゛・・・・・!!」

武神が首を押さえ苦しみ始めた。


「なんだ、いきなり」

「ああ、アル君には見せてなかったね。これが僕の力の一つだよ」

コウタロウさんが武神に向けて手を伸ばしていた。


「力?」

「そう。”神の御手”だよ。あらゆるものを自由にできる手さ」

”神の御手”か。

右手は聖書でも救済の手として出てくるが、コウタロウさんが伸ばしているのは左手だ。


「あ、今なんで左手とか思ったでしょ?」

「え?あ、はい・・・・」

そうだった、心の声が聞こえるんだった。


「右手を使ったらすぐに終わっちゃうからね。左手でゆっくりじっくり殺すんだよ」

にっこりと笑顔でそう言った。

マルスさんとイリアさんの二人を足しても足りないという強さを持つ神。

その中でも特に戦闘に長けた武神が宙で見えざる神の御手になすすべもなく苦しめられていた。


「武神は特に、家族の一人を直接殺したからね。簡単には死なせない」

さらに、御手に力が入る。

ゴキッ、ボキッ。

確実に首からならないような、なってはいけない音が響く。

あれ、死んでない?


「まだ死んでないよ」

「マルスさん。でも、腕とかだらんとなってますけど」

「あれは、復活前の機能停止状態だね。神になってしまうと死に至るほどの苦しみや痛みを感じても記憶を持ったまま復活するんだよ」

「じゃあ、コウタロウさんは・・・・」

「そうだよ。何度も、これを繰り返すんだ。そしてこいつらを殺す方法は二つ。


ーー消滅させるか、生きることを諦めさせるか」


その証拠に、復活した武神が震える体をなんとかしようといていたが、その間にまた首を掴まれた。

今度は、長い間ではなく一瞬で首を折った。

そしてまた復活し、今度は持ち上げられ脳天から地面に叩きつけられ脊椎がぐちゃぐちゃになり死んでいた。

それからも様々な激痛を伴う殺し方を繰り返し、見るも無惨な姿に何度も変えていた。


「僕たちはあっちで話でもしておこうか」

「ですね」

マルスさんも苦笑いを浮かべ、気まずそうにその場から離れることを提案してきた。

後ろの方で、幼声の高笑いが聞こえるのは気にしないでおこう。



「あ、そういえば外の世界の状況って・・・・・」

俺って、アーサーさんに刺されてる状態じゃん。

そんなところをアリスが見たりしたら・・・・・・。


「それは大丈夫だよ。あっちには君の知り合いが行ってるから」

「知り合い?」

「うん、見せようか」

そう言って、外の映像を見せてくれた。


「ガルムとサナだ。それにシルビアさんまで」

三人が俺とアーサーさんの体を守るように、見張ってくれていた。

三人がそばにいれば、アリスが暴走することはないだろう。

たぶん、そうであって欲しい・・・・・。


それはそうと、アリスたちはどうなってるんだろうか。

サクラも結局帰ってきてないけど・・・・。



〜そのころのアリスは〜


「本当に邪魔!!」

アルベルトの気配が薄れてくのを感じ取り、予想通り暴走しかけていた。

しかし、そのアリスを剣一つで止めている人物がいた。


「王の邪魔はさせん。ようやく、獣人どもを殺す決断をされたのだ」

彼の名は、ランスロット。

アーサー王に仕える円卓の騎士団の一人。

この人物こそ、獣人排斥派の筆頭で、円卓を分断させた人物。


「いいからどけ!!」

鬼の形相で、ランスロットに斬りかかるが、彼の剣だけが渡り合い、足止めを食らっている。

アリスは、ランスロットの周囲にいる獣人族に被害が及ばぬように魔力を極力押さえていた。


「ここは戦場。周りも存分に使わせてもらう」

「だから、それがうざい!!」

本気を出せないこともそうだが、剣で互角に渡り合っていることにもイライラしていた。


「?」

「どうした?」

アリスが攻撃をとめ、距離をとった。


ヒュンッ・・・・・、ドオオオオン!!


土煙が舞う。

アリスとランスロットは、手で顔を隠す。


「ねえ、アリス。アルは?」

土煙の中から、アイナの声がする。


「おい、おまえ、ベティビィエールか!?」

「うっ・・・・・」

円卓の騎士の一人である女騎士がなんとか意識だけが残っているような無惨な姿になっていた。


「アリス、先に行くわね。あとはよろしく」

「う、うん」

自分よりもブチ切れ、気が気でなくなっているアイナを見てアリスは冷静になった。

周囲にいた獣人たちもアイナが異空間に逃したのか、誰一人としていなかった。


これでやっと・・・・

「本気を出せる」


「だからなんだというのだ、お前は私に・・・・!!」

最後まで言い終わる前に、剣が目の前まで迫っていた。

慌てて防ぐがその威力に押され、そのまま吹き飛ばされた。


何度かバウンドしながら壁にぶつかる前に止まった。

「一体どれだけ・・・・」

どれだけ力を押さえていたのか。

周りに不利な要素を撒き散らし、冷静さを欠いた状態にさせてやっとついていけるレベルの強さ。

ランスロットが今まで味わった強者への恐怖は、今回を入れても二度だけ。

王が抹殺され、代替わりが起こった時、当時七歳だったアーサーと円卓の指揮官の座をかけて戦った時以来。


目の前の女は強い。

「だが、お前たちでは我王は止められんぞ」

立ち上がり、周りを見る。


あれは・・・・!!

視界の先には倒れる男に剣を刺し、その上に座る王の姿。

ランスロットは迷うことなく、彼女の元へ走った。



「なっ・・・・!!」

ランスロットが突然中心部に向かって走り出したのを見て、呆気に取られた。

アリスも彼の後を追いかける。


「アル!!」

向かった先には、剣を刺され身動きが取れなくなっているアルベルトの姿があった。


「アリスさん!!」

「シルビアさん?」

「ええ、お久しぶりですね」

「なんでここに?それに二人も・・・・」

ランスロットの相手は、ガルムとサナがしていた。


「少し、緊急の用事があって彼らに案内してもらっていたのですが、どうやらこちらの方が緊急だったようで」

「うん。それで、アルは?」

側にはアイナが座っている。


「なんとか、大丈夫みたいですよ。今は一定距離近づけないようになっているようで」

「よかった・・・・」

安堵も束の間、魔力の波長が大きくなった。


「やれ!トリスタン!」

ランスロットが叫ぶ。


「フル・ノート」

空から、弓を引きこちらを狙っている男がいた。

その魔力弓は巨大で射程範囲は中心部全域に近い。


「雷霆神:インドラの矢」

アイナの背後に、巨大な雷の矢が出てくる。

これには、ランスロットもその相手をしている二人も呆気に取られ、戦いを中断していた。


同時に放たれる。

矢というより、破壊光線のようなものが空中で衝突する。

その衝撃波はとんでもなく、中心地の人間の建物を次々と吹き飛ばしていく。

中で怯えていた一般人を魔力で覆い守る。


「おいおい、これはもうお姫様って言えねえな」

「ですね」

ガルムとサナも久しぶりに見た成長したアイナを見て、色々諦めていた。

王都での戦争の時までは、守っていたあのアイナがここまで成長しているのだ、無理もない。


「旦那は生きてんのか、これ」

「生きてますよ、現に魔道具はまだ生きてますから」

「うーん、でもさっきからぴくともしないんだが」

「それは、アーサーとかいう人じゃないですか?この体勢結構キツそうですけど」

「そういう問題か?」

確かにキツそうだが、そんなことを気にする場面ではない気がする。




当の本人は・・・・・


「アイナがここまで切れたことないんじゃないかな?」

「それほど、君が大切なんだよ。愛されてるねー」

外の状況を見て、実況みたいなことをしていた。


すると一際大きな音が後ろで鳴った。


振り返ると、目が虚になった武神とそれでもなお止めようとしないコウタロウさんの姿あった。

どんだけだよ。


「なあ、もういいんじゃないか?」

「ん?・・・・ああ、そうだね」

最後に液体状にぐちゃぐちゃにし、最後とした。

武神は復活しなかった。


「死んだ?」

「半分ね。下の世界に降りて来れるのは半分だけだから」

「じゃあ、力をまた取り戻すんじゃ」

「それは大丈夫。完全に殺したから、力の上限が半分になってるよ」

「なるほど・・・・・」

それじゃあ、それなりに戦えるってことか。


「それでも、マルスぐらいには強いからね」

「・・・・・・・・」

じゃあ、まだまだ勝てないじゃん。


「というか、サクラはどこ行ったんだよ」

海で遊んだ時から一ヶ月、一度も帰ってこなかった。


「ああ、彼女ならイノリが作ったダンジョンに行ってるよ」

「は?ダンジョン?」

「うん、結構苦戦してるみたいだね」

ダンジョン?

そんなものがあるなんて!!

俺も行きたい!!


「だろうね。それなら魔王の国に行ってみるといいよ」

「魔王の国って、魔大陸の?」

「そう。そこにも一つだけあるから」

「なら、早くこの戦いを終わらせないと」

じゃあ、武神もいなくなったことだし、そろそろ出るか。


「じゃあ、ザックたちにもよろしく言っとくよ」

「はい。お願いします」

二人はまだ不安定らしく、この世界にとどまれるように頑張っているそうだ。


「では、また」

手を振りながら、精神世界とのリンクを切った。




「とうとうここまできましたね、コウタロウさん」

「だね。君が成し遂げられなかったことを彼ならやってくれそうだね」

「はい」

「じゃあ、僕も行くよ」

「はい、それではまた」

コウタロウも元の世界に帰り、マルスだけが残った。


「あと少しだよ。クレア」

裏切り者として、汚名をかぶることとなったかつての仲間に語りかけた。




〜その頃サクラは〜


「うあー!!終わったーー!!」

大の字に倒れ、最後の階層主を倒しダンジョンをクリアしていた。


最初の階層主を倒し、五大属性の主を倒し切って、オーブを回収したところで真っ白な扉が現れた。

そこで待っていたのは、全ての階層主を合体させた石像で、その武器も真っ白な刀だった。

全ての色が混ざると白になるように、純白の色となっていた。

その刀からは全属性がランダムに攻撃してきたり、刀が分裂してきたりと、とんでもない苦戦を強いられた。


「これで、終わりっ。あとは報酬だけ」

体を起こし、座ったまま報酬を待った。

自分に必要なものってなんだろうか。


「おめでとーーー!!」

広場に女性の声が響いた。


「え?」

「んんー?君が私の子孫かー。似てるのかな?」

「し、子孫?」

「そだよー!私、アメノ・イノリの子孫だよー。名前は?」

サクラの耳に祖国の創建者の名前が飛び込んでくる。

自分が彼女の子孫?

神にも等しいと思っていたイノリ様の子孫?


「大丈夫?」

「は、はい!わ、私はサクラです!」

「サクラちゃんかー。いい名前をもらったねー」

「あ、ありがとうございます・・・・」

困惑がおさまらない。


「もしかして、今日まで知らなかった?私の子孫だって」

「はい・・・・」

「あちゃー、そっかー。それはごめんねー」

「それより、なんでここに?」

イノリ様が生きた時代は、神話の時代の話。


「石板を見てみて」

言われた通り、石板を取り出す。


「魔力がなくなってる」

「でしょ?それが私の魔力の元なんだよ。だから今の私は、幽霊ってやつだね」

「幽霊・・・・」

先祖に化けて出て来られるなんて、夢にも思わないだろう。


「それで、私に必要なものってなんですか?」

「なんだろうね」

「え?」

「いや、あの紙ね、実は・・・・・」

「は、はい・・・・」

何か見落としているんだろうかと固唾を飲んで次の言葉を待つ。


「その場のノリで書いたんだよねー」

あはははーと頭をかいていた。


「つまり?」

「報酬は、何にも考えてなかった!」

開き直り、ビシッと音が聞こえそうなほど、見事にドヤった。


「ええ〜・・・・」

サクラは明らかにテンションが下がった。

結構きつい試練を乗り越えーほとんどが刀破壊だがーここまできたのだ。

何か、報酬的なものが欲しかった。


そのサクラのテンションの下り様をみたイノリは、こんな提案をした。

「じゃ、じゃあ、私がサクラちゃんに憑くっていうのは?」

「憑いたら、どうなるんですか?」

「わ、私が色々教えられるよ。刀の使い方とか?」

「なんで疑問系なんですか・・・・・」

サクラはみるみるテンションが下がっていく。


「え、円環流よりもすごいの知りたくない!?」

イノリは石板を通してだがサクラの戦いを見てきた。

イノリが知る円環流ではなかったが、それに近かった。

ということは、イノリしか使えなかった円環の元となった技を教えられる。

この条件であれば、外に連れて行ってくれると確信していた。


ピクッとサクラの眉が動く。


「円環流よりもすごいよ。私が保証するから!」

イノリは畳み掛ける。


「そ、それなら、まあ・・・・・」

「ちょろい・・・・」

「え?」

「い、いや、なんでも?」


こうして、アルベルトやアリスに続きサクラにまで、最強最高の助っ人が取り憑いた。







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