第9話 太陽の騎士
遊撃隊のティアとキリカは・・・・・
数人の獣人兵を連れて円卓の騎士と対峙していた。
「パーシバル!!なぜお前が排斥派になど!!」
「全ては、王のため。私は、円卓の騎士だ」
キリカがパーシバルの剣と対峙する。
お互いがお互いの癖を知り、なかなか状況が変わらない。
二人は、隠れて幼少期をともに過ごし、融和の世界を目指していた。
「あれほど、融和を誓い合ったと言うのに・・・・・!!」
「・・・・・『聖杯』だよ」
「・・・・なに?」
「王が『聖杯』に誓ったのだ。それを無碍になどできん。我らの想いなど『聖杯』の前では無力だ」
「なんということを・・・・!!」
『聖杯』は、この国の王家に授けられる杯で、それに願えば『聖杯』は砕かれるが、必ず願いが叶うという言い伝えがあり、実際に叶った例もある。
しかし、ただ一つの欠点にして最大の懸念は、もしも願いが成就できなかった際には願ったものの命を代償に新たな『聖杯』が作られるというもの。
必ず叶うが、失敗したら死ぬ、そんな矛盾を孕んでいるからこそ伝説として語られてきた。
「アーサーさんに一体何が・・・・」
ティアも『聖杯』が使われたことに驚いていた。
そもそも、彼女ならば使わずとも皆殺しにできたはずだ。
作戦開始前に、アルベルトたちが話していた会話が頭をよぎる。
”誰が操ってると思う?”
”そこまでは知らんが、急がないとやばいぞ”
”だね。それに、全面戦争もそう遠くないみたいだし”
その時は、神だのなんだのと聞こえてきてスケールの大きさに半分聞き流していたが、彼女にここまでさせるほどの何かがあったとしか考えられない。
それが、神だとしたら。
私たちに与えられている加護とは一体・・・・。
ティアは、生きてこの戦いを終わらせ、この世界についてもっと知りたいと思った。
そのためにはまずは、ここを切り抜けないとね。
「キリカ!!私も戦う!!」
「ティア様!?」
「みんな、お願いね」
キリカの制止の声を聞かずに月を視界に入れる。
ティアの髪が白に変わり、目が黄金色に、そして全身に稲妻を纏った。
「リノア様・・・・・」
獣人兵の一人が、無意識に彼女の母と重ねる。
王家の獣人のみが成れる、
普通の月下獣とは、何もかもが桁違いだが、消耗のスピードも早い。
「流石に二人相手は・・・・・」
パーシバルが一度距離を取る。
すかさずティアがその距離を詰め、剣ごと彼を殴り飛ばす。
「うぐ・・・・・」
「まだまだ!!」
ティアは、さらに追撃を加えるため駆け出した。
「待てよ。お前の相手は私がしよう」
ティアの拳を手のひらで受け止めた者がいた。
「モードレット・・・・」
「よう、ティア。久しぶりだな」
男勝りなモードレットは、ティアの拳を止める手を離し、剣を持っているが拳を構えた。
「相変わらずね。その性格」
「こっちの方が面白いだろ?」
排斥を受けているとはいえ、関わりがないわけではなかった。
対外的に共生国家であることを見せるため、城には何度か招かれており、その際に彼女の戦い方を見たことがある。
どんな相手でも相手の土俵で戦う。
それが彼女のスタイル。
それ故に、何度も負け、何度もその性格を直せと怒られているところを見たことがある。
彼女曰く、そうじゃないと面白くないようだ。
そうでもしなければ野望が叶えられないと、そう言っていた。
「ティア様!!」
「大丈夫よ、キリカ」
「じゃあ、早速やろうぜ」
キリカvsパーシバル
ティアvsモードレット
四名による戦いが始まった。
◆◆
獣人族のみんなが戦いを始めた後も、自分が出てはいけないと宿にいたリノアの下にユナが帰ってきた。
「ユナ、今までどこに行ってたの?」
「ごめんなさい、リノア様。命令ですので」
「ユナ?」
ユナは短剣でリノアを殺そうとした。
「ちょっと、ユナ!?」
リノアは伊達に修羅場を潜っていない。
危機察知能力は常人よりは高い。
しかし、今日までユナのことには気がつかなかった。
「あなた、最初から?」
「ええ、私はランスロット卿に奴隷として買われ、王家に仕えてきました」
「じゃあ、なんで最初から彼らに私のことを教えなかったの?」
「命令ですよ。完全に油断させるようにと」
「・・・・・そうね。うまくやったわ」
本当にうまくやったと思う。
王家に生まれ幼少の頃から刺客に襲われることなど日常茶飯事だった私は、危険な相手の見極めができるようになっていた。
だが、ユナには一切そんな気配は感じられなかった。
「あなたにその技術を教えたのは?」
「ガウェイン卿です」
「なるほど・・・・・」
ガウェイン卿は唯一アーサー王の代わりを務められるほどの実力者で、アーサーを除くとダントツで最強だ。
でもそれも環境が変われば、アーサーにも勝る可能性がある。
ガウェインは太陽の騎士。
太陽の力をその身に宿し、太陽の元ではアーサー王にも勝てるかもしれない。
今回、戦いに出向かないのも満月の夜だからだ。
獣人とは全く逆の特性を持つ彼にしてみれば、私たち獣人は天敵。
その逆もまた然りだ。
「あなたが月下獣になれなかったのもそのせいね」
「はい。病弱のガウェイン卿に代わって太陽の加護を受け継ぎました」
「そこまで・・・・・」
唯一無二の太陽の加護まで受け継がせるなんて、ユナに相当の才能がない限りありえない。
「では、お話はここまで。さようならリノア様」
◆◆
「こんなことは聞いてないぞ!!」
ランスロットは、今日という日のために入念に手を打って来た。
獣の王家に仕え、王族の顔を知る者たちを攫っては拷問し、口を割らないものは殺して見込みのあるものは奴隷としてきた。
「お前たちはなんなんだ!?」
「だからさっきから言ってるだろ。獣人のお姫様に頼まれたって」
ランスロットは、後ろで黒焦げになっているトリスタンを見ながら言った。
「我らは円卓の騎士だぞ!!」
「なら俺たちは、未来の英雄に仕える者たちだ」
「そこのガキが英雄だと?死にかけではないか」
ランスロットの言葉に、アイナが反応する。
「もう一回言ってみて?」
雷霆をいくつも背後に顕現させながら脅すように言う。
「くっ・・・・・」
ランスロットもこれにはたじろぐ。
先程目の前で、トリスタンのフル・ノートを最も簡単に打ち破って見せたばかり。
「油断するなよ」
「ちっ」
ランスロットは、アーサーを起こせば勝てると思ったのか彼女の下へ走った。
「だから、ダメだって」
アリスが立ち塞がり、そのまま切り捨てる。
ランスロットは呆気もなく命を散らした。
円卓の騎士で初めて命を落としたランスロット。
しかし、タダでは死なない。
王に賜った騎士剣を
騎士剣はいとも容易く結界を通り抜け、アーサーの剣に帰っていった。
「はっ・・・・・」
アーサーが動き出した。
時が再び動き出したように、アーサーの体に負担がかかる。
ランスロットの思惑通りにはいかず、アーサーは地面に落ちた。
「ねえ、これ抜いてくれない?」
アーサーと同時にアルベルトも目を覚ました。
攻撃無効の特性があると言っても同格の相手には通じないことが分かった。
痛いものは痛いのだ。
アリスが剣を抜く。
「うわっ、重た」
アリスが全力で引き抜いてやっと動かせるほどだった。
「王の剣は、いつの時代も持ち主を選びますから」
シルビアが理由を話す。
「お久しぶりです、シルビアさん」
回復しているアルベルトが体を起こしながらシルビアに声をかける。
彼には、アイナが抱きついている。
「緊急の用事で彼らに頼んでここまで連れて来てもらいました」
「そうだったんですか。二人とも久しぶり」
「ああ。それにしても久しぶりに見たと思ったら串刺しになってんだからびびったぜ」
「ですね」
「ごめんごめん。彼女が強くって」
久しぶりの二人と話したいことはまだあるが、今はシルビアさんの話を聞くことにした。
「それで、緊急の用って」
「はい。実は、最近になってようやくソロモンの星が見えるようになったんです」
「ソロモンの?」
「それと同時に私にステイタスが戻って来ました」
「えーっと、それはどういうこと?」
「おそらく、必要なくなったのでしょう。ナーマが復活したのかもしくは・・・・」
それを聞いて、心当たりがありすぎた。
「旦那、なんか知ってそうだな」
泳ぐ目をガルムに見られていた。
「あー、その、ナーマは帝国で殺しちゃいました・・・・・」
おそらくあの爆発で完全に吹き飛んでしまっているだろう。
もう証拠すらも残っていないと思う。
「え!?・・・・そうだったんですか・・・・」
「なんか、まずかったですか?」
「いえ、私が彼の星を見た時に見えたものとは関係ありませんから」
「そうですか」
じゃあ、何を見たのだろうか。
もしかして、すでに力を手にしたとか?
「私たちは、マルスさんも含め勘違いをしていたかもしれません。彼はもしかしたら」
「もしかしたら?」
続きを聞こうとした時、稲妻と炎を纏った人影が二つ落ちてきた。
「やるなぁ、ティアよ!!」
「あなたは、相変わらずとんでもないですね・・・・」
あれが、ティア様の月下獣の姿か。
他の人とはだいぶ違うな。
「ティア様、大丈夫ですか?」
「アルベルトさん!?」
「はい、アルベルトです」
「アーサーさんは?」
そう言われて、彼女に目を向ける。
釣られてティアも目を向ける。
「すごい・・・・。本当に彼女を止めるなんて・・・・」
「まあ、ギリギリだったけど」
本当にギリギリだった。
力では叶わず、未来予測とか言う変態的な能力もあり、最後は精神世界に連れてくるしかなかった。
「おい、ティア。そいつは誰だ?我らの王を止めるなんてあいつにしか」
「彼らは私たちの恩人ですよ」
モードレットは、何をしても何年かかっても叶わないと確信した王が倒れていることに素直に驚いた。
「だが、今はどうでもいい!!続けるぞティア!!」
「私としては、そろそろ限界なんですが・・・・」
テンションが真逆の二人の拳がぶつかる。
「あぐっ・・・・!!」
まずいこのままじゃ・・・・。
ティアはもう限界なのか、月華獣も解けて来ている。
カランッ・・・・
ティアの手に剣が当たる。
「もう終わりか、ティア!!」
まだまだ余力を残したモードレットは、飛び上がりティアに襲いかかる。
「誰のか知らないけど、これで・・・・・!!」
手に当たった剣を取って、モードレットの拳にぶつける。
「それは!?」
モードレットが拳を止めた剣を見て目を見開く。
ティアが軽々しく持つ剣、それは彼女が生まれたばかりの頃に主人だと認められた王の剣だった。
「おりゃあ!!」
姫に似つかわしい掛け声で、拳を弾き返し、すかさず斬りかかる。
「それはまずっ」
モードレットは腕を交差させ、前回の魔力を込める。
使い方を知らないとは言え、王の剣の威力は凄まじく一直線に城まで吹っ飛んでいった。
「はあ、はあ、はあ、もう限界・・・・」
王の剣を手放し、ティアは倒れた。
モードレットも城の城壁に直撃し、気を失っていた。
その衝撃は、当然城内にも響いており、城の中でおとなしくしていたアーサーに次ぐ最強の男が夜の眠りから目覚めた。
ランスロットが命を失ったと同時刻。
ユナに刻まれていた奴隷の刻印がその魔力を失い効力を無くした。
リノアに襲いかかっていた体を無理やり捻り、短剣をある方向へ投げる。
「リノア様、避けて!!」
ユナは、リノアの体を突き飛ばし、刺客の攻撃から守った。
「おや、あの方が死にましたか」
「やっぱりあなたが・・・・」
ユナが表情を歪め顔を向けた先にいたのは、ティアの筆頭執事であるザニアだった。
「ザニア?なんであなたが・・・・・」
リノアも、自分の娘たちを託した人が自分を殺そうとするとは思っていなかったし、思いたくなかった。
「それは、私も半獣人だからですよ」
「え?あなたが?」
「ええ、そして私の息子が円卓の騎士、いえ、太陽の騎士としてアーサー王に仕えている。ならば私は、人間側に協力するしかないのですよ」
「太陽の騎士って・・・・、まさかガウェイン卿!?」
「ええ、そろそろ目が覚めると思うのですがね」
軽く、口にしたがザニア以外が聞いたらどう思うだろうか。
ガウェイン卿は過去、表に姿を見せたのは円卓の指揮官決定戦の時だけ。
そして、その一夜でその強さを国中に知らしめた。
アーサーには敵わなかったが、他を圧倒する姿、太陽を背に戦う強さは凄まじかった。
しかし、その素性は不明で両親の名前どころか顔すらも誰も知らなかった。
「ランスロット卿にバレてしまいましてね。息子が寝ているのをいいことに色々とさせられて来ましたよ。誘拐から拷問からなんでもね」
ザニアの後ろには、息絶えた獣人たちが横たわっている。
途中で敵だとわかり、ここを守ろうとしたが敵わなかったのだろう。
「それからユナさん、あなたがなぜそちらに従くのかわかりませんね」
「私は、イングリス家に仕えて来た身。当たり前のことです」
「ますますわかりませんね。あなたは私の孫。言い換えればガウェインの娘ですよ?」
「え・・・・・?」
「不思議だとは思いませんでしたか。獣人なら誰でも成れる月下獣になれない。それどころか月とは対極の太陽の力を授かるなんて、偶然だと思いましたか?」
「それは・・・・・」
「偶然ではないですよ。あなたが太陽の騎士の血を受け継いでいたからです」
今まで、誰も知らなかたガウェイン卿の秘密が次々と明かされていく。
「でも、私は孤児育ちです!!ガウェイン卿の娘ならそんなところには・・・・・!!」
「そういう育ちの方が温情な王家に入れられると思ったからですよ。私が、あなたを孤児に入れました」
「そんな・・・・・」
「全てはあの王を越えるため。太陽こそが全てを手に入れると証明するため」
手を広げて大袈裟に言い放つ。
そこに一人の騎士が現れる。
「父さん、どうしたの?」
「ガウェイン、もう起きたのですか?」
「うん、ちょっと大きな音が響いてきてね」
「そうですか。では、アーサーの命を取りに行きましょう。この二人はそのあとで十分です」
「分かった」
ガウェインは、夜の闇が広がる空に手を向けると、ある魔法を放った。
「た、太陽が・・・・・」
ユナとリノアが唖然とする。
ガウェインが自らの手で太陽を生み出してしまった。
自分を最強にする環境を自らの手で自由に作り出せる、それを最強と言わずしてなんと言うのか。
月明かりに照らされていた海の国が太陽の光で満たされた。
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