第7話 作戦開始

頭が痛い。

内臓が焼けそうだ。

腕も千切れそうなほど痛みが走る。

有史以来の天才と言われ、七歳で超越化し、十歳で到達者になった私ですら体が意識がついて行かず、ただただ振り回されるだけになるほどの動き。

到達者の域を遥かに超えた神の御技。


剣を振るう先には、逃げ惑う月下獣。

そして、それを追う人間たちも目に入ってくる。

まるで、あの時と変わらない風景だった。

そして、こちらに向かってくる人間の男。

ものすごく悲しい目を向けてくる。


「今すぐ、助けるから」

それは、獣人たちに、そして私に向かって言ってくれた言葉なのだろう。


「やってみろ!クソガキィ!」

声は私だが、言ったのは武神。

彼に取り憑かれて初めて理解した。

この世界は所詮彼らの玩具箱。

加護という形で縛り、都合の良いように遊び倒す。


「「オラァ!!」」

剣と刀が衝突した。



◆◆



〜数週間前〜


「アルベルトさん、どうか彼女のことお願いします」

ティアが頭を下げ、アルベルトに頼み事をしていた。


「いいですよ。でも他には手を回せませんからね」

彼女、アーサーのことは大体聞いた。

それだけで、嫌になるほどの才能の塊だ。

アリスとも比べ物にはならない。


「それに、なんか関係ない気がしないんですよ」

この間から、嫌な気配を感じている。


「当たり前じゃ。あいつらが関わっているのは間違いない」

「やっぱり・・・・・」

「あいつらって?」

「俺たちの敵ですよ。なので、彼女のことはお任せを」

いくら神威を身につけても、何百年の間鍛えても届かない領域の奴ら。

そんな奴らの一人が、おそらく人間出身の中で一番強い器に入っている。


「はあ、毎回こんなんだな〜」

(大丈夫さ、僕より弱いから)

自信満々ですね。

(まあね、これでもあいつらを何人か消滅させてるし)

まじですか・・・・・。


そんなの初めて聞いたぞ。

もう戦いが終わるまで、体を預けた方が良くない?

いや、それはダメだな。

自由は自分で勝ち取りたい。


「で、ではお願いしますね」

ティア様が、話が大きくなっていくにつれ顔が引き攣っていた。

早々に話を切り上げ、作戦の開始を合図した。



作戦の部隊は三つ。


まず、ティアやキリカたち率いる遊撃部隊。

アーサー率いる部隊を隊長から引き剥がし、対応する部隊。

ここにアリスたちも入っているが、ほぼほぼ自由だ。


そして、執事であるザニア率いる捜索部隊。

行方不明となっている獣人を探し出し、救出する部隊。

毎日獣人が姿を消していたようだ。


最後に単体の部隊。

アーサーを止め、そして救い出す部隊。

これが、俺だけの単身部隊。



そして、満月の夜。


「全員、準備はいいか!?」

男の獣人が声を荒げる。


「「「おおおおお!!」」」


「よし。全員月を見ろ!!」

声とともに一人残らず空を見る。

月明かりが、獣人族の体を照らす。

毛が逆立ち、茶色の色をした毛が、白へと光変わってゆく。


一回り大きくなり、腕も太く、爪も鋭くなっている。

目は、黄色になって牙が大きい。

マルスさんが言ったように、それはもう美しい月下の名前にふさわしい姿だった。


「グルルル・・・・。いくぞ」

獣人たちは、こちらに向かってくる人間を迎え撃ちにするため、駆け出した。



「お、流石にすごいな」

みるみる隊長以外が、二つに分断されていく。

強そうなのは、アリスたちが対処するだろうし、あの部隊は問題ないな。


問題なのは、孤立したアーサーさんの方。


「ラキナ、これはちょっと・・・・」

作戦開始前にラキナに言われた一言が脳裏をよぎる。



〜作戦開始前〜


「ねえ、ラキナは神と戦ったことあるんだよね」

「まあな」

「どれだけ強いの?」

「そうだな・・・・。マルスとイリアを足したぐらいか?」

もうちょっと強いか、と。


「それって勝ち目あんの?」

「まあ、今回に限っては本体じゃないから勝てるかもしれんが、もしも、取り憑いてるのが武神で、完全に乗っ取ってたらまず勝てはしない。できて、引き剥がす可能性がほんの少しある程度じゃ」

「ええー・・・・・」




〜現在〜


目の前にいるアーサーさんの目は虚で、体も振り回されているようで、身体中の筋肉が修復が追いつかない程に切れてしまっている。

さらには、口調までもが男のような口調だ。


「完全に乗っ取られてんじゃんか・・・・」

でも、しょうがない。


「今すぐ、助けるから」

「やってみろ!クソガキィィ!!」

刀と剣が衝突する。

その衝撃で、辺りの家や壁が吹き飛んでいく。


やべえ、たった一太刀受けただけで身体中が悲鳴をあげてる。

神威を最初から全開に使う。

全身の色が黒から白へと変化し、精神世界の三人と眼の中の二人とのリンクが濃くなる。


「ほう、お前がオリジンのやつが言っていたガキか」

変化する姿を見ながら、ニヤリと笑う。


「お前は、武神か?」

「そうだが、よく分かったな」

あちゃあ、ラキナに言われた最悪の展開だよこれ。


「なんとなくねっ!!」

一度距離を取る。

いや、取ろうとした。


「!?」

「はははっ、いいなあ、この体の持ち主は」

「なんで・・・・・!!」

到達者で神に乗っ取られているとはいえ、一時的に本物の神と同等になる神威状態についてくるなんて。


「まさか、それが彼女の『原初』か!」

「これは原初というのか、面白い」

神の支配から逃れたものだけが持つ力だからか、武神は興味深そうに感覚を確かめていた。

彼女の原初はおそらく、未来予測のようなものだろう。

じゃなきゃ、到達者のみでさっきの動きはできない。


「まあ、お前の強さも大体わかった。さっさと終わらせるとするか」

「そんなことにはならねえよ!!」

神力を全開に纏わせ、斬撃として飛ばす。


バシイィィィ!!


アーサーさんが軽く振るった剣で簡単に消しとばされた。

「嘘おぉぉ・・・・」

「神力の使い方がなってねえな」

そりゃ、元から神じゃないし?

人間だし。


「こう使うんだよ」

アーサーさんの体から血が噴き出る。


「おい、それ以上壊すな!!」

神力を使うのを止めようと斬りかかるが、すでに遅し。

アーサーさんの金髪の髪も俺同様に白に変わっていた。


「彼女の体が・・・・!!」

見るからに危ない。

毛穴という毛穴から血が出ているし、筋繊維もボロボロで焼け切れている。

脳がやられたらもうおしまいだ。


そんなことを考えてる間に、目の前に彼女がいた。

「たまんねえなぁ、今回の遊戯は」

防御が一切間に合わなかった。


「ごふっ・・・・・」

たった一撃で膝が震え、立てなくなる。

刀が腹に刺さったまま、後ろにぶっ倒れる。

アーサーさんは、その剣に乗っかって、人間と獣人の戦いを楽しんでいる。


「降りてきてよかったな、こんなに楽しめるとは。前回は、ちょっと人間の意識をいじっただけだったからな」

「前回・・・・?」

「ああ、獣人の王族を殺した時の話だよ」

「・・・・・あれもお前らが?」

「そうだ、というか大抵の面白そうなことは俺たちが遊んだ末に起こることだ」

「腐ってんな、お前ら」

その言葉が癪に触ったのか、刺さっている剣に神力を流してきた。


「うっ・・・・。やっと、捕まえた・・・・」

「なんだ・・・・?」

初めて、アーサーを通して武神の神力に直接触れることができた。


(よくやってくれた)

そっちに送りますよ。

(ああ、頼んだ)


「おまえ、まさか!!」

神力を消そうとするがもう遅い。


「転送」




「貴様ら!!」

「よくやってくれたよ、全く」

「なかなかでしょ?」

マルスさんからここまで褒めてもらえるとは思わなかった。


転送は、精神世界に標的を送るためのもの。

ただし、標的の持つ魔力やそれに準ずるものに直接触れる必要がある。

今回は、刺さった剣に流れてきた神力を使った。

彼女の魔力ではなく、武神の神力を。


「そうか、貴様がついていたのか先代の英雄」

「そうだ。それに僕だけじゃない」

「何・・・・・?」

武神が怪訝な顔をする。


「こっちだよ、クソ野郎」

武神が振り返る。

明らかに動揺した表情だ。


「て、テメェは・・・・!!」

二人称の統一感ないな、こいつ。


「久しぶりだね」

「コウタロウ!!」


そう、もうひとり助っ人のような形で呼んだのは、奴らに裏切られた世界の神、創造神:コウタロウだ。








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