第5話 ダンジョン
ゴゴゴゴ・・・・っと音を出しながら開いた扉をくぐり、中に入る。
『適合者を確認。アメノ様の設定通りに』
機械的な声が響いた。
後ろの扉もいつの間にか閉じられていた。
「適合者って、それに、アメノ様って日の国の・・・・」
日の国を建国した私たちの祖であるアメノ様の名前がなんでこの海の国で。
それにしても、水が全く入って来ていない。
「この感じ、日の国の神聖領域と同じ・・・・」
なんで、こんなにも日の国を感じるのか。
日の国と海の国は、とてもじゃないが簡単に行き来できる距離ではない。
私たちが、それなりの速さで空を飛び半日はかかる。
船など使えば、数ヶ月にも及ぶ大航海をしなければならない。
その遠く離れた日の国を感じることに疑問を覚えるのは当たり前のことだった。
「とにかく進むしかないな」
出入り口も防がれた。
あとは、不思議なこの空間を進むだけ。
サクラが不思議な扉を潜った頃、アルたちも気がついた。
「あれ?」
サクラの気配が消えた。
さっきまでは近くにいたが、それが嘘のように一瞬で消えた。
「どうする?探す?」
「いや、大丈夫じゃろ」
「それもそうか」
能力も付与してるし、サクラなら一人でもなんとかなるし。
「もう少し、遊んどくか」
しかし、そうはいかなかった。
長い間潜っていたため、地上で待っていたガイドが様子を見に来た。
そして、水球で遊ぶ俺たちを見て、目を見開き口を開いて水を飲んでしまった。
「ゴボッ!?」
「お、おいおい・・・・」
ガイドの腕を掴み、急いで地上まで上がった。
「ガハッ、ゴホッゴホッ」
「大丈夫か?」
「お、おまえさんらなんで・・・・・」
なんで、海の中で呼吸ができるのかと聞きたいんだろう。
「魔法だよ。それで納得してくれ」
「魔法か・・・・・。まあ、あの方も同じようなことができるしな・・・」
「そういうことで」
獣人にも、超越者がいるらしい。
超越者がいても、人間には勝てなかったのか?
「一筋縄じゃいかないね、これは」
「なにがだ?」
「いや、なんでもない。それよりもう大丈夫?」
「ああ、すまんな。早とちりしてしまったみたいで」
「そんなことないよ」
恨む人間であっても助けに来る。
それがわかっただけで、獣人の味方でいいと思える。
「もう一回潜るけどいい?」
「ああ、今度は放っとくぞ」
「よろしく」
まだ、遊びたりなさそうなラキナが目に入るため、要望に応えるべく海に飛び込んだ。
◆◆
「ふっ!」
刀を振るうたび、魔物が魔素の粒子となって消えていき、魔石は超小型のポータルに吸収される。
「急に多くなって来たな」
ここに来てしばらくは、全くと言っていいほど魔物は出てこなかった。
しかし、一つ目の階段を降り、このエリアに来てから急に魔物が出るようになった。
しかも、エリア内には、罠が仕掛けられていたりと、今まで経験してきた遺跡などとは少し違う。
「ん?あれは、箱?」
隅の方に、隠すように箱が置いてあった。
このようなものを初めて見たサクラは、箱を隈なく視る。
「魔物じゃない。開けていいのかな?」
この場にアルベルトがいたら、真っ先に開けていただろう。
この箱は、いわゆる宝箱。
日の国の祖『アメノ・イノリ』が、元いた世界で憧れていた。
ダンジョンを作った際に、これだけは、と真っ先に生み出したものだ。
恐る恐る、箱を開ける。
「なんだろ、これ」
中に入っていたのは、五つの窪みがある小さな石板のようなものだった。
「ん?」
石板の下に紙が一枚置いてある。
”これを見ている君へ。
ここはダンジョンという場所だ。こっちの世界では、日の国にしかないものだ。
ぜひここを訪れることができた君に、このダンジョンを楽しんでもらいたい。
制覇した暁には、君に一番必要なものを授けよう。
それと、この石板に階層主が持つ、オーブを嵌め込み切ればクリアだ。
ぜひ楽しんでくれ”
「ということは、ここだけではなくまだまだあるのか」
それと、ここが日の国だと書いてあったことについては、考えなかった。
過去になにがあったかなど考えても、わからないからだ。
「そして、あれが階層主の部屋・・・・」
親切にも、宝箱の近くに目的地はあった。
最初だからだろうか。
「躊躇しててもなにもならないか」
サクラは、石板をしまい扉の前に立った。
両手で、赤い扉を開ける。
入り口の扉のように、ゴゴゴゴ・・・・と音を立てる。
中は真っ暗だ。
「よしっ」
部屋に一歩踏み出す。
ボッ、ボッ、ボッ。
石でできた松明に炎が灯る。
「おおー、これはすごい」
部屋の中心にいたのは、赤い石像。
その手には、炎を纏った刀を持っている。
「なるほど、扉の色が階層主のヒントなんだ」
サクラは、水着から胸にサラシを巻き、腰から下は袴姿に着替えていた。
紅桜を装備し、石像との戦いを始めた。
ガンッ!
サクラと石像の刀がぶつかる衝撃波が部屋に広がる。
不思議と松明に影響はなく、この部屋を照らし続ける。
「くっ、一刀一刀が重たいっ」
明らかな体格差。
それによって生み出される力の差。
石像の刀は、上から叩きつけられるのに対して、サクラは基本的に下からの攻撃になる。
「桜環流:一の太刀」
霊峰での長い修行期間で、習得したオリジナルの円環する刀技。
一っ飛びで、石像の胴体上部まで辿り着く。
「二の太刀・・・・三の太刀・・・・四の太刀」
一撃目を入れてから、止まることなく次々と決めていく。
ピシッ!
「いける!!」
石像にひびが入った。
そのひびを集中的に斬り込んでいく。
「終の太刀!!」
本来終わることのない円環を終了させる。
ボコオオオン・・・・・。
石像が崩れ落ち、刀だけがそのまま残る。
「これで、終わっ・・・・!!」
オーブを探そうと意識を切り替えた時、刀が浮かび上がり、石像の瓦礫が再生し始めた。
「まさか、刀が本体!?」
明らかに刀だけが魔力を帯び、意思を持っている。
つまり、この石像は刀が自身を攻撃に使うために生み出した体。
このダンジョンの階層主は、武器破壊、それが討伐条件。
「武器破壊・・・・。苦手・・・・」
一層目からサクラにとって嫌な条件が突きつけられる。
武器破壊は、相当な技術がいる技だということだけではなく。
「刀を折るなんて・・・・!!」
それが1番の理由だった。
幼い頃から、刀は命だと教えられて来たサクラにとって、刀の寿命以外で、折るなんて命を奪われたようなものだと、教えられてきた。
「ど、どうしよう・・・・・」
サクラは、初めて窮地に立たされた。
◆◆
とある次元。
「アガッ・・・・・!!」
ソロモンは、血反吐を吐きながら、もがき苦しんでいた。
「ハハハハ!!まだ抵抗するか!!」
それを眺めるは、叛逆者:最高神オリジン。
「お前のせいでぇぇ!!」
ソロモンは、マルスの体に入り、最高神との繋がりから抵抗していた。
しかし、その抵抗も、数百年の時間は持たなかった。
ちょうど二〇年ほど前、アルベルトという存在がこの世界に誕生し、自分が
アルベルトの誕生に、喜びの感情を持ってしまったソロモンはその隙を最高神につけ入れられた。
「貴様は、よく耐えたさ。我らの目的と手段を知り、当時の英雄達を、その体を守った」
「ウグッ!!」
「だが、それも今日までだ。さっさとその器を渡せ」
「断るっ・・・・!!」
目から血を流しながらも、ソロモンは耐える。
「そうか。なら頑張れ」
最高神は、退屈を凌ぐためにこうやって、廃人になる寸前で止めている。
あと少し、自身の力を注げば、一瞬で乗っ取れるにもかかわらず。
「このクソ野郎がっ」
「ハハハッ。言ってろ、『操り人形ども』が」
彼にとっての『操り人形ども』、それは地上に暮らす生命体全て。
この世界の命は、最高神たちの遊び道具でしかないのだ。
「おい、まだ遊んでるのか」
「武神か。久しいな」
「ああ、今、海の国で戦争が起きそうだからな。人間どもで遊ぼうかと思ってな」
「なるほど。ちょっと前も、獣達の王族を殺してたね」
最高神と武神はそんな話を肴に酒を楽しむ。
「いやー、やっぱり楽しいね。この世界は」
『神の遊戯』。
それはまだ、始まったばかり。
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