第2話 王族
海の国、獣人族が住む地区内
「おいっ、姫が無事ってのは本当か!?」
「ああ、無事に帰ってこられたそうだ」
その報告に、周りの獣人族は安堵の声を上げた。
「キリカもか?」
「ああ、全員、かけることなく」
「そうか・・・・・」
「だが、あいつら、手段を選ばなくなってきたな」
「確かに。俺たち獣人が差別を受けてきたのは、遠い昔からだ。そのことは気にしていない」
「ああ、だが、『王族』と『架け橋』を狙われたとなれば」
「話は別だな」
「戦の準備をしておけ。満月の夜は近い」
◆◆
海の国へ来て、しばらくのんびりしていたある日。
「なあ、なんか沖の方が騒がしくない?」
宿で、朝食を食べながら、外を見た。
「ああ、それならちょうど獣人族の姫様が帰ってこられたんですよ」
いいタイミングで料理を運んできた昨日の女の子が教えてくれた。
「この国は、王家が二つもあるの?」
「はい、正式には、人間の王族がこの国の実権を握っているんですけど、獣人の中でも王族はいるんですよ」
「なるほど。それよりも、まだ追加してもらっていい?」
「はい・・・・・」
二人は、掻き込むように口に運ぶアリスとラキナ、そしてセナを見た。
「アリスとラキナは、まあ、わかるけど。セナってそんなに食べたっけ?」
「っ・・・・。その、精霊体になってから消費量が多くって・・・・」
「ああ、そうなんだ。いや、まあ、別にいいんだけど・・・」
食費が・・・・・・。
「後で、行ってみる?」
「いいわね。私も王族なら見ておきたいから」
「アイナって、王族に興味あるの?」
「同じ王族ってこともあるけど、見たことがないのよ。ずっと寝たきりだったから」
「なら、一緒に行くか」
「ええ、ぜひ!」
アイナがあからさまにご機嫌になった。
帝国で言われたことが、頭の中をよぎる。
『次は、私の番ね』
アイナの顔を見るたびに、言われてるような感じになる。
「ちゃんとしないと」
「なにを?」
「いや、なんでも」
しばらくして、宿の女将から食材が無くなりそうと言われ、まだ食い足りてない三人に、お金を渡し、街へ放った。
一応、サクラもついていったが、いくつかの犠牲になる料理屋に手を合わせ、アイナと片付けの手伝いをする。
「ありがとうございました。その・・・・・夜飯もお願いします」
「またかい・・・・。まあ、任せな」
なんと心強い言葉!!
深く深く、頭を下げ、宿を出た。
「それにしても、すごい人だな」
漁船とは比べ物にならないくらい大きな船が停泊していた。
その前に、多くの人だかりができている。
そんなに人気なのか?
獣人族の姫様は。
「でも、獣人しかいないわね。それに、何かものすごい警戒されてるようだけど」
「確かに」
獣人族のほとんどが、こちらを警戒している感じだった。
俺たちなんかしたか?
近づいていくと、声が聞こえてきた。
「なんで、人間がここに・・・・?」
「やはり、まだ、姫様と架け橋を?」
架け橋?
よくわからんが、姫様を狙っていると思っているようだ。
「よくわかんないけど、ただの観光客だから」
「観光だと?」
「そうだよ」
「どうやって入った。今は、人間たちが規制を張っているはずだが」
え?そうなの?
「そ、空から?」
「空から?はっ、面白えこと言うじゃねえか。まあ、この国の人間じゃねえならいい」
信じてもらいなかったが、見逃してもらえた。
獣人の男と話が終わったところで、獣人の警戒と歓声が大きなものとなった。
警戒をしているのは、特に男の獣人、歓声は子供たちだ。
船の中から出てきたのは、やはり獣人の騎士たちと船員。
それに続くように、使用人とさらに一際豪華なドレスを着た姫様らしき獣人の女性だ。
隣には、船から出てきた中で、最も強い騎士が出てきた。
「あの人、ハーフだな」
「あの騎士の人?」
「うん。二つ入ってる」
種族特有の血があの人には、二つ入っている。
人間と獣人の血だ。
それに、姫様に入ってる女性因子と同じ?
嫌な胸糞展開じゃなければいいが。
「なあ、アイナ。王族って他種族の女性を妻として迎えることはあるのか?」
「・・・・・・基本的にはないわね。この国は知らないけど、王都は、人間が領めてきたから王族は人間ね」
後で、宿の子に聞いてみよう。
目の前を一段が通っていく。
道は、獣人たちが並ぶことで勝手にできている。
最後に一眼見ようと、魔力を使って姫様だけを見る。
「おっ」
姿を確認した瞬間、姫様がこちらに振り向いた。
それも姫らしからぬスピードで。
魔力に反応するのか。
獣人ってみんな敏感なのか?
まあ、いっか。
「アイナ、これからどこ行く?」
「喉が渇いたわ」
「なら、どこか入ろうか」
鳴り止まない歓声の中、喉を潤すために店を探しにいった。
〜ティア・イングリス視点〜
私たち一行は、海竜から奇跡的に生き残り、なんとか帰国の路についている。
「しかし、あんなところで海竜を」
あれは間違いなく、海の国の実権を握る”異種族排斥派”が引き起こした人為的災害。
「やはり、ティア様が進める融和を気に入らない者が・・・・・」
「大丈夫よ、キリカ。同胞のみんなが反乱を起こしてしまう前にやり遂げるから」
「そうですね。頑張りましょう!」
「ええ、これからも頼むわよ」
でも、あの海竜を貫いた魔法は・・・・・。
私は、
生まれついてのもので、人によって微妙に色が違う。
そして、魔力の持ち主の機嫌などによって濃くなったり、薄くなったりする。
これのおかげで、周りの人たちのご機嫌を伺えたが、逆に気味悪がられもしてきた。
あの魔力の色は、初めてみる白色だった。
薄くも濃くもならない白。
言い換えれば、私でも機嫌を伺えない。
普通に接することのできる人の魔力だということ。
帰りの船の中で、そのことばかりを考えていた。
もしも、お会いできたのなら、私は、思いっきり笑えるだろうか。
思いっきり、話したいことを話せるだろうか、と。
そして、帰りの航海もひと月ぐらい経った頃、ようやく故郷へ帰ってきた。
「全員、下船の準備をっ!」
船長さんの声が響き渡る。
キリカや執事であるザニアに手伝ってもらいながら、荷物をまとめる。
「探し他人を探す前に、この国を元の姿にしないと」
準びが終わり、船が沖に停泊した。
港には、多くの同胞のみんなが集まってくれていた。
子供たちは笑顔で手を振り、大人たちは、種族特性の敏感さを生かし、あたりを警戒してくれている。
これは、最近人間の襲撃者に襲われるということが頻繁に起きているからだ。
みんなに手を振りかえす。
騎士たちが先に降り、使用人が続く。
最後に、キリカと共に船から降り、獣人族の王族が住む一際大きな屋敷へ向かう。
屋敷まで、凱旋のように、みんなが道を作ってくれ、安心して通ることができる。
そんな中、人間とはちょっと違う感じの二人組がいることに気づいた。
そのうちの一人が、魔法を使って、こちらを見てくる。
「!!」
これは、この魔力の色はあの時のっ。
魔力が放たれた方に振り向く。
そこには、綺麗な女性と話す一人の男性がいた。
魔力の色がなんとも不思議な人。
これほどまでに、何も見えない人は初めて。
「こんなにも早く見つかるなんて・・・・」
ああ、早くお会いしたい。
◆◆
「なんだったんじゃ、此奴らは」
「急に襲ってきましたね」
「食事の途中に襲ってくるなんて非常識だな」
「もうそろそろ、終わりにしませんか?」
三人の食欲は、凄まじかった。
あれから、何軒かの食料を無くし、最後だとようやく落ち着いてきた。
最後の注文をし、それが来るまでに残っているものを食べていたのだが、突然襲撃されたのだ。
「それにしても、不法入国ってどういうことなんだろうね」
アリスが、小麦の麺を食べながら言った。
襲撃者は全員、不法入国者だと叫びながら襲ってきたのだ。
それは、アルベルトたちが、空から入国したからであって、間違いではない。
「それにしても、毒を塗った剣に、弓矢、此奴ら相当慣れてるな」
「まあ、一瞬でしたけどね」
何も食べていなかったサクラが一瞬で片付け、遅れてきた奴らを飯に手を出されると思ったラキナが、ぶっ飛ばした。
「しかし、あのいかにも重要人物って感じの人が歩いてる往来でよくやりますね」
「あれは、獣人の王族じゃな」
サクラに続いて、ラキナが言葉を足した。
「あ、なんかあの人たちを狙ってるのがいるね」
アリスが、遠く離れた場所にいる刺客に気がついた。
「あれって、撃ち落としていいの?」
「いいんじゃないか?」
「じゃあ、ドーン」
気の抜ける声とともに、高密度の魔弾が放たれた。
魔弾は、刺客のなかで一番力のある者から貫いていった。
一人目を貫通した後も、止まることなく、次々と刺客たちを貫いていく。
合計三人の刺客を殺した魔弾は消え、死体だけが残った。
「ちゃんと、証拠も消さないと」
「なんの証拠だ?」
「さあ、でもアルがこういう時は死体まで消しとけって」
「ほおー、そういうものなのか」
アリスとラキナだけが異世界を知る人だと知っている。
アリスは、アルベルトに教えられた通りに、死体をその血痕までを綺麗に消し、証拠を隠滅した。
「あれ、みんなここにいたんだ」
アリスたちがいる店に、アルベルトとアイナが入ってきた。
「これは?」
「さあ、なんか襲ってきた」
「ふーん」
アルベルトは、足元に転がる人たちを意識あるものを残して消した。
そして、残ったものに、印を付け、大元を探ることにした。
「それよりも、喉が渇いたな」
「そうね」
二人は店員を呼び、ドリンクを注文した。
同時に最後だと言う食事が運ばれて来て、アリスたちが残さず食べ切った。
「お客様、こちらが今回の代金となります」
「あー、はいはい」
店員から伝票を受け取り、その紙の多さに驚愕した。
「どんだけ食べたんだよ・・・・」
一枚に十品まで、書ける伝票がざっと数えただけで五枚。
少なくとも五〇品。
朝食をあれだけ食べて、さらにはいくつかの店を食料不足にし、最後でこれだけ。
三人は、食べた分が全部魔力に変換されてると思うほど、食べても太らない。
「まあ、いいか」
懐を気にすることなく、全額を払い、宿に戻った。
アイナの異空間で軽く運動をし、夜食の時間になった。
「おかわりっ」
「「「はあ・・・・」」」
アイナとサクラとため息が重なった。
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