海の国編
第1話 海の国へ
これは、アルベルトがこの世界に来るより、いや、マルスがこの世界に誕生するよりもはるか昔。
生まれたばかりのこの星に、一人の生命体が生まれた。
彼女は、他の生命体を創る力を持っていた。
なぜそのような力を持っていたのか、それは彼女にもわからない。
なぜこの世界にいるのかも、自分が何者なのかも。
のちに人族と呼ばれる生命体と、魔族や獣人と呼ばれる存在を次々と創り上げていった。
彼女は、友達が、家族が欲しかった。
この果てない世界にただ一人。
いや、もしかしたら誰か他にもいるかもしれない。
しかし、そんな可能性の低いものを探すよりも、自分で創った方が楽だった。
最初の生命体は自分に似せた人族だった。
彼女は、喜んだ。
これで一人ではなくなると。
だが、うまくはいかなかった。
彼女が創った生命体には、感情というものがなかった。
機械のように彼女に接し、機械のように言葉を話す。
最初はそれでもよかった。
話し相手にはなるからだ。
だが、ある日創造した生命が一つ散っていった。
彼女は、初めて悲しみという感情を知った。
彼女は悲しみ、最初に創造した生命体に共感を求めた。
その生命体は、無感情だった。
無表情で、散った命を、悲しむ彼女をみていた。
「なんで!?」
彼女は初めて、怒りを知った。
怒りのままに、機械のような生命体を破壊した。
その時彼女に、その生命体が持つ力や知識が入り込んでくる。
自我をコントロールできない彼女は、それに快感と欲求と空腹に似た何かを感じた。
目につく生命体を破壊し続け、意識をなくすまで力と知識を喰らい続けた。
目が覚めた時、彼女の視界には、焼けた荒野と無数の死体が入ってきた。
目を逸らし、上を向く。
そこには、穢れ一つない澄み切った空と、そこを揺蕩う雲があった。
それは、何者にも邪魔されず、風の吹くままに進んでいる。
彼女は、自分がそんな存在になることを望んだ。
殺したものたちへの罪悪感を消し去るために、新たに大量の生命体を創り、自分の感情を抑制するために一つ一つの生命に組み込んだ。
その副産物として、魔力というものが彼らの身に宿る。
それを確認した彼女は、空に命を吹き込んだ巨石を浮かべ、そこへ逃げた。
その巨石は、風の赴くままに進む。
そして、彼女の元に行けるのは、七人だけ。
それも特別な力を与えられた者たち。
彼らが
しかし、そんな彼らも彼女とは違い、永遠を生きられるわけではない。
彼らは、死ぬ間際にこう言った。
『彼女が寂しくならないように、彼女と本当の友人に成れる者に、この”想い”を託す。いつの時代、いつの日か、彼女と対等に話せる友人ができることを祈って、この感情を、想いを残す』
そして、現在。
「ん?」
「どうした?」
「いや、なんでもない」
背中に乗っているラキナが聞いてくる。
なんだ?
大罪が、一気に六つも反応した。
なんでこんなに感情が昂るんだ?
大罪は、使っている時にしか反応しないのに。
そして、無性に浮遊城に行きたい気持ちが湧き上がってくる。
気持ちの向くままに、浮遊上の方を見る。
浮遊城は、いつも黒い霧で包まれている。
世界眼や神眼で視ても、その霧は晴れない。
「あれ?」
「どうしたの?」
今度はアリスが訪ねてくる。
「あ、ごめん。なんでもない」
霧に包まれているのは、今までと変わらないが変わっていることがあった。
霧の奥に、六つの光る何かが見える。
”あとちょっとね”
そんな声が聞こえた気がした。
◆◆
「あ、見えてきたわよ。海の国」
アイナの声に反応し、下を見ると、海岸があり、船がたくさん泊まる、いかにも漁師の街並みが見えてきた。
「すごいな。お、あれは魚じゃないか?」
船から、男たちが巨大な、魚のようなものを運んでいる。
この世界の魚はどうやら巨大らしい。
「あれは、どう見ても魔物よ」
あんなのが魚な訳ないし、食べたくないわよ。
アイナの言葉を聞き、あの巨大魚を食べているところを想像する。
「やばい、吐き気してきた」
「でしょ?」
ああ、無理だな。
食べたくない。
「早く降りようよー」
「はいはい」
アリスにせかされ、アルベルトたちは、海の国に降り立った。
「よし、まずは宿を・・・・・・!!」
宿を取ろうと提案しているところで、目の前をケモミミ少女が通っていった。
「・・・・・アル?」
「はっ・・・!!」
アリスから発せられる殺気に正気に戻り、宿探しを提案し直す。
変な目で見られながらも、宿を探して歩く。
「ここでいいんじゃないか?」
セナが、目に入ってきた最初の宿を見ながら言った。
「良さそうだな」
なかなかにいい雰囲気がある宿だな。
もうここでいいかな。早く、この国を見て回りたいし。
「ここにしよう」
そう言いながら、扉を開き中に入る。
「あ、いらっしゃいませー!」
木の匂いが鼻腔をくすぐる中、奥の方から元気な声が聞こえてきた。
もちろんケモミミだ。
「え、外の人!?」
「え?」
外って、違う国の人ってこと?
そんなに驚くことなのか?
「あ、すいません。最近は、色々あって、外からの人は全く入ってきてないんです」
そういうことね。
そういえば、リョウマさんもなんか言ってたな。
「六人だけど、泊まれる部屋はある?」
「はい、五人部屋ならありますが・・・・」
「じゃあ、それで。とりあえず一月分でいいかな?」
金貨を数枚取り出し、女の子に渡す。
「あ、ありがとうございますっ」
慌てて走っていき、店主らしき人と何かを喋っていた。
「こちら、家の鍵です!もし、ご飯をここで食べるのなら、朝に申しつけて下さい!では、ごゆっくり!」
興奮した様子で、説明された。
そんなに興奮するようなことか?
「ここじゃ知らないけど、宿で金貨を払うなんてそうそうないことよ」
首を捻っていると、アイナに教えてもらった。
そうなのか。
まあ、確かに、一月分を一括ってなかなかないかもな。
「じゃあ、荷物置いたら、自由行動にしようか」
「「「賛成」」」
全員が荷物ーアイテムボックスの偽装用に持った空のバッグを置くだけなのだがーを置いて、自由行動を開始した。
「あれ、アリス。行かないのか?」
「今日は、アルと一緒に行く」
「そ、そうか」
思えば、アリスと二人きりなんて久しぶりだな。
アイナはいつも通り食材を見にいったし、セナとサクラは、ラキナの料理店巡りに付き合うと言っていた。
「よし、どうしようか」
「海に行きたい」
海かー。
俺も前世ぶりに行きたいな。
「よし、なら水着選びから行こうか!」
というわけで、水着が売っている店に来たのだが・・・・・
「お客さん、これなんかどうです?」
「これ、いいね。ねえ、アルはどう思う?」
「すごく似合ってるよ」
さっきからこれしか言ってない。
目の前で繰り広げられているのは、女性店員によるアリスの水着ファッションショー。
自分の分は既に買い終わっている。
それからすでに、一時間ぐらいが経っている。
海に行こうと言ってから既に、一時間以上だ。
「なあ、アリス、そろそろ・・・・・・」
そう言って、時が止まった。
アリスが着ていたのは、シンプルな黒のビキニに、白いパカーのような物を羽織り、黒のパンツ水着を穿いていた。
「どうかな?」
アリスは照れ臭そうに、店員はニヤニヤしながらこちらを見ている。
「い、いいです・・・・・」
黒は反則だろ。
すっかり大人になり、体型も大人びた彼女に、黒の水着は最強の組み合わせだった。
さらに、赤い髪が黒をより引き立たせていて、正直ずっと見ていられる。
「じゃ、じゃあ、これにする」
「ああ」
アリスが、水着の上から、すぐに脱げる服を着て、そのまま海に向かうことにした。
外は、陽が沈み始め、赤く照らされていた。
海は、太陽に照らされ光り輝き、それがさらにアリスの美しさを際立たせる。
「綺麗だね」
「だね」
アリスの言葉に簡単な返事しかできない。
アリスは、頭を肩に乗せ寄りかかっている。
「ねえ、アル」
「なに?」
・・・・・・・・・・。
「アリス?」
アリスの方に顔を向けた瞬間、アリスの唇が重なった。
「・・・・・!!」
「二回目だね。気づいてた」
「・・・・・うん」
そっか、と言って体を捻り、覆い被さってきた。
「しばらくこのままで・・・・・」
アリスは水着を着ているが、こちらは上半身は裸だ。
いつも以上にアリスの体の柔らかさが伝わってくる。
力強く背中に手を回してきたアリスに応えるように、背中と頭の後ろに手を回す。
そのまま、ろくな会話をすることなく、アイナたちが探しにくるまで、そのまま抱き合っていた。
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