第18話 アメノ・サクラ
=神刀・村正=
それが、新しい専用武器にして、おそらく最強の武器。
創造神コウタロウが持っている銘も何もわからない、ただの木刀に見えるものに比べたらただの鉄の塊のようなものだが、この世界では間違いなく最強に一番近い。
「そいつは、いずれ意思を持つようになるぞ」
「意思・・・・ってことは!」
「ああ、おそらく素材の持ち主の我が強すぎたせいだな。いずれ人の姿になるかもな」
我が強いか・・・・・。
確かに、死んでも死なずに強くなっていくだけの不死鳥、ラキナとアリスがゲンコツ一発で沈ませた天龍、創造神が作り上げた富士の霊薬。
最後のは違う気がするが、どれも我が強い。
「なんか、心配になってきた」
「なぜだ?」
「いや、だって・・・・・」
俺より、圧倒的に強い人たちの一部が使われるんだろ?
そんな刀が擬人化なんてしたら、普通に力関係が逆転しそう。
「まあ、これで俺の仕事は終わりだ。あとは好きにしろ」
ムラマサさんが、出ていこうとした時、アリスが立ち上がった。
「おじいちゃん。私の剣も折れちゃって・・・・・」
「・・・・・・後でもってこい。すぐ作ってやる」
そう言って、屋敷を後にした。
「なあ、俺の時と対応が全く違うんだけど。やっぱり、ムラマサさんって・・・・・」
美人に弱いのか・・・・・。
「じゃあ、後一日だな。アリスの剣が出来たら、次は、第三大陸、リヴァイアサンが守護する『海の国』だ」
◆◆
「じゃあ、お世話になりました」
アリスにも、ティルフィングを元にレイアさんの鱗を使って、武器を作ってもらった後、リョウマさんたちに別れの挨拶をしていた。
アリスやサクラたちは、ヤマトやセンゾウ、他にもお世話になった人たちと、俺はリョウマさんに、ラキナはいつものように肩に乗っている。
「いや、こちらこそ、コジロウさんの仇まで討ってもらった。それだけで十分だ」
「いいですよ、それくらい。サクラの師匠なんだし」
「・・・・・そうか」
「これから、海の国に行くと?」
「はい。どうしても、確認したいことがあって」
俺が、海の国で確認したいこと。
それは、”刺身”だ。アイナに以前作ってもらった焼き魚。
生で食べられるのか、それを確認しに行きたい!!
「これは、噂なんだが、海の国は獣人と人間の共存国家で、どうにも最近獣人の様子がおかしいようで」
「獣人!?」
ケモ耳パラダイスか?
海の国にはアルカのようなケモ耳娘がいっぱいなのか!!
「あ、ああ。だからくれぐれも騒ぎに巻き込まれないよう・・・・」
「・・・・・・・・」
そんなこと言ったら現実になりそうじゃんか。
「ま、まあ。気をつけますよ」
「そうしてくれ。お前さんらが関わると国がまた滅びそうだからな」
「そ、そんなことしませんて」
断じて、狙ってやったわけではない。
毎度のこと巻き込まれて、結果として、国が滅んでいるだけなんだ。
大帝国も、生き残った人たちで残りの貴族を捕縛し、復興作業をしているらしい。
「長居するのもあれだろう。そろそろ、この辺で失礼する」
最後に、
『アメノ様のご加護が在らんことを・・・』
と言った。
「なんですかそれは?」
「この国の祖の名前だ。今も、桜の木となって見守ってくれているそうだ」
「そうなんですか。ありがとうございます」
「ではな」
「はい」
リョウマさんが帰っていったため、みんなを呼ぶ。
みんなも、それぞれの話を終え、集まった。
「それじゃあ、行くか」
最後に集まった人にお礼をして、海の国のある方へ飛び立った。
〜日の国最終日、セナ〜
「ジンベエ様、ありがとうございました」
「構わん、ただの暇つぶしだ」
セナは、日の国にいる間、ジンベエに戦い方を教えてもらっていた。
「いいか、”駒移し”に関しては、まだまだだ。慣らせよ」
「はい、わかりました」
霊力の使い方だけではなく、ジンベエが編み出した魔法や技の全てを受け継いでいた。
話の中に出てきた駒移しは、数ある技術の中で、難易度が最も高いもの。
「これを持っていけ、弟子への餞別だ」
そう言って、ジンベエが手渡したのは・・・・・
「これは、ジンベエ様の・・・・」
「ああ、”駒移し”に使う短剣だ。俺はもう必要ないからな」
「あ、ありがとうございます!!」
セナは、宝物をもらったかのように懐にしまった。
「そんなに大事にされても困るんだが・・・・・」
「あ、いえ・・・・・」
ジンベエとしては、もう使わずに埃をかぶっていた物を押し付けた感じなのだが、セナにとっては、初めての師匠からの贈り物ということで、特別だったようだ。
「これがあれば、アルの役に立てるので・・・・・」
「・・・・・・はあ、俺たちの時と変わんねーな・・・・・」
「はい?」
「いや、なんでもねえ。支えてやれよ」
「はい!」
「お、もう行くみたいだぞ」
「本当ですね。・・・・・では、お世話になりました」
「おう。じゃあな」
「はい!」
セナは、最後に頭を下げ、アルベルトの方へと走って行った。
「俺たちの時と同じ・・・・、いや違うな。俺たちは、マルスを遠ざけたもんな・・・・」
今代の英雄候補は、あの時代の俺たちとは違う。
勝手に仲間が増えていくのは同じだが、本当に信頼されなかった俺たちとは違って、あいつはちゃんと信頼できる奴らが周りにいる。
ラキナが、見守るのもわかる。
マルスは、本当に近しいやつしか近づけようとはしなかった。
だから、最終決戦だって、たった
マルスとイリア、そしてクレアの三人で。
クレアは、裏切り者として、後世には伝わっている。
俺たちも、当時は、裏切りを信じたが、最後の最後になってそれが間違いだったと知った。
しかし、遅すぎた。
マルスは、そんな俺たちを見限って、イリアとクレアを連れ最後の戦いに身を投じ、あいつの時代を終わらせた。
あれから、数百年。
まるで、やり直すかのように一人の英雄の元に、人が集まり、その灯火を広げていく。
帝国でも、新たな灯火を灯してきたのだろう。
ここまでは、あの時代と同じ。
「ここからだぞ・・・・・」
ジンベエは、それだけを言い残し、姿を消した。
〜日の国最終日、アイナ〜
「アイナちゃん、これ持っていきなさい」
「これも持っていって」
「あ、ありがとうございます」
アイナは、この国にいる間、”和食”という料理を女性陣たちから学んでいた。
アルベルトが、この国に来て和食を食べている時が、一番幸せそうだったからだ。
しかし、これまでの料理とは、何もかもが違った。
食材の切り方一つで、味が大きく変わる。
調味料は、そんなに多くはないが、こちらも使い方次第で、不味くも美味しくもなる。
やっと、認めてもらえるようになったのは、滞在期間が残り、一週間となったところだった。
「好きな人のためなんでしょ?」
何度も挫けそうになった時に、毎回言われたことだ。
この国では、味噌汁なるものを、毎朝、好きな人、大切な人のために作るそうなのだ。
「は、はい・・・・!!」
単純だと思われそうだが、その言葉に何度奮い立たされたことか。
今は、料理を教えてくれていた人たちに、味噌や醤油などの調味料をたくさんもらっていた。
「皆さん、これからも頑張りますね!」
ありがとうございました、と頭を下げた。
「今度来たときは、アイナちゃんの料理を食べさせてね」
「だね、私も食べてみたいわ」
やんや、やんや、と女性陣が盛り上がっていく。
「わかりました。必ず皆さんを超えてみせます」
「お、言うね〜」「それは、期待しとかないとね」
アイナは、これから世界を旅していく。
その中で手に入れた食材と、技術をアルベルトが喜ぶ和食に加え、最高の品を作ろうとしていた。
「改めて、お世話になりました!」
「こちらこそ、久しぶりに楽しかったわ」
「ありがとうね」
お互いに頭を下げたことによって、頭を下げさせたことに対する、謝罪で頭を下げる、無限ループに入っていた。
「あ、もう行くみたいよ」
救いの声が聞こえ、後ろを振り向くとアルベルトが呼んでいた。
「あ、そうですね。では、行ってきます!」
「「「行ってらっしゃい」」」
最後にもう一度頭を下げ、それを最後にみんなと別れた。
走っていく、アイナの指には、料理の際にできた傷が残っていた。
〜日の国最終日、サクラ〜
「父上、母上、そして師匠、行ってきます」
コジロウと王都へ向かって以降、何年も帰っていなかったため、久しぶりの”行ってきます”だった。
特に、父と母には、これまでとこれからのことについて報告をする。
師匠と初めて外の世界に出たこと。
そこで、全く叶わない存在に出会い、旅の友をさせてもらっていること。
守りたいものができたこと。
そして、師匠の最後に立ち会えなかったことに対する申し訳なさ。
最後ぐらい、
長い間、両親の眠り、師匠、祖父が眠っている聞かされた墓に手を合わせ目を閉じていた。
あるが呼ぶ声が聞こえ、立ち上がり、桜の大木に向かって、手を合わせる。
桜の木下で眠る三人を見守っていただきたいと。
みんなの元に向かい、海の国へ飛び立った。
彼らが飛んで行った方へ向け、日の国の民は王も含め、手を合わせていた。
中には、涙を流している人もいる。
彼らはの気持ちは皆、久しぶりに帰ってきた、サクラに向けられていた。
サクラが唯一、知らされていないこの国に住むものたちが知る真実。
それは、日の国の成り立ちに関するもの。
今の王、リョウマは、対外的には国王として、振る舞っている。
しかし、国内では、断固として、
桜の木は、この国唯一の神聖領域。
この地に足を踏み入れることが許されているのは、日の国創建者の血を引き継ぐものだけ。
『アメノ・サクラ』
それが、サクラが知らない、サクラの本名。
この国の人だけが知る、日の国の秘密。
日の国の民は、ただただ祈り続けた。
彼女の生に幸あらんこと、をと。
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