第17話 村正

アリスは、倒れたアルベルトを介抱しながら、イリアと話していた。


ねえ、アルは大丈夫なの?

(そんなのわからないわ。でも、マルスが居るし、今はこの子の両親もいるから)

エミリアさんたちが?

(あー、そういえばあなたも知ってるのか。向こうに行く?)

行きたい。

(わかったわ)


「アイナ、ごめん。あとはよろしくね」

「え?」

アイナの返事を聞かず、アリスは意識を手放した。



イリアの不思議な魔法?でアルベルトの精神世界に入ったアリスたちは、大きな笑い声が聞こえる方に歩いていった。


「お、アリスちゃんにイリアじゃないか」

「久しぶりね、ザックおじさんにエミリアさんも」

「ザックさん、エミリアさん・・・・・」

なんでここに、とは聞きたくなかった。

ここにいるということは、外からイリアのように入ってくるか、もしくは魂をこの世界の主人が連れてくるかの二つに一つ。


「どうした、アリス。久しぶりの父さんたちだぞ?」

「アル・・・・。大丈夫なの?」

私も、片親だけとはいえ、親を亡くしている。

親を失う辛さは、幼心ながらに味わった。


「いいんだよ。二人が納得してるんだから」

「納得?」

死んだことに納得って、何・・・・?


「そうよ、アリスちゃん。私たちは、私たちがやりたいようにやって死んだから、それでいいのよ」

「イリアさん・・・・・」

「そうだな、二人とこうして会えるんだから、別に構わんさ」

ザックさんは、笑いながら言った。


「君がアリスか」

「あなたがマルスさん?」

「そうだよ。アル君をよろしね」

全員が改めて顔合わせをし、これまでのこと、これからのことを話し合った。


「そういえば、マルス。ソロモンの中の魂が反応してたぞ」

「そうなの?あっちに渡ったのはほんの少しだと思うんだけど・・・・」

「割とはっきり現れてたわよね」

すると、マルスさんが困ったように


「じゃあ、アル君たちがソロモン、というか最高神と戦うときは僕の欠片があっちにいるのか〜」

やりづらいな〜、と空を仰ぎ見ていた。


「大丈夫よ、その時は、私がぶった斬るから」

イリアさんがそういうが、それは、私がやるってことにならない?


「えー、怖いなー。でも、イリアには負ける気しないんだよねー」

「なんだとぉー!!」

「お、やるか?」

私と話している時よりも、素が出ているイリアさんと、笑いながらも対応するマルスさんの戦いというか、夫婦喧嘩みたいなものが始まった。


それを見たアルは、

「あ〜あ、あれは止められないね。ほっとこう」

と言って、ザックさんたちとの会話に戻った。


「見てたが、強くなったなアル」

「こんなところまで来るつもりはなかったんだけど、なんか大ごとになっちゃって」

「それは、ごめんなさい。私たちが、悪かったわ」

「いいよ別に。今も十分楽しいし、アリスにも楽しんでもらえてると思うから」

そう言って、こちらに笑顔を向ける。


「うん。毎日楽しいよ。そうだ、二人にお願いしたいことがあって・・・・」

「お、なになに?俺たちにできることならなんでもやるぞ」

エミリアさんは気がついたようでニコニコしている。


「そ、その・・・・。アルとの結婚の見届け人に・・・・・」

「・・・・・・!!」

アルが隣で、息を呑むのがわかった。


「そうか、そうか!もうそんな歳か!」

「ええ、喜んで見届けさせてもらうわ」

結婚するには、貴族も平民も第三者に見届けてもらう必要がある。

いつ誰がこんなことを決めたのかわからないが、昔から変わらない風習だ。


「こんなところでいいのか、アリス?」

「うん。二人に見届けて欲しかったから・・・・」

「そうか。なら、俺からもお願いします」


その後、イリアさんたちも合流し、最強の英雄、二人にとってのかけがえのない両親に見届けられ、無事にアルと夫婦になった。


「じゃあ、そろそろ行くよ」

「ああ、いつでも来いよ。俺たちは、ここにいるから」

これでは、死んだことが小さく見えてしまうが、二人はマルスと違って、会話が不可能だ。

だから、生きているという感じではない。


「アリスちゃん、改めて、アルをお願いね」

「はい、お義母さん」

「・・・・・ねえ、もうちょっと残っていかない?」


「母さん・・・・・」

「わかってるわよ・・・・」


「じゃ、また」

アルがそう言ったところで、イリアさんと共に意識が離れ、私は現実世界に、イリアさんは私の精神世界に戻った。


(良かったわね)

はい!


アルとの繋がりがさらに大きなものになった。

それだけで、私の心は満たされていった。




◆◆



帝国が落ちたその夜、帝国に久しぶりの笑い声が響いていた。

そんな中、アルベルトは、ラキナ母からの威圧に耐えかねていた。


「おい、いい名前を頼むぞ?」

「は、はいぃ・・・・・・」

まじで怖い。

というか、親にもなってないのに、なんで何度も名前をつけなきゃなんないんだよ。


「・・・・・れ、レイア、とかどうですか?」

「・・・・・よかろう」

よ、よかった・・・・・。


「うおっ・・・・・!!」

忘れてた。名付けをすると、これが始まるんだった。


今度は、激痛ではなく何も感じない浮遊感が襲ってきた。

なんだこれ、まるで空を飛んでるみたいだ。

間違いなく地面に倒れているのだが、体が重力に逆らい、浮いているような感覚がある。


浮遊感が終わり、体に自由が戻ったところで、手に入れられたであろう特性を確認する。


『特性』

物理攻撃無効 魔法攻撃無効 即死無効 環境変化無効(New) 系譜付与(New)



『環境変化無効』どのような環境の変化にも影響を受けない


『系譜付与』系譜を指定することでその者に特性もしくは加護を付与できる



追加されたのは、環境変化無効と系譜付与。

おそらく他は被っていたのだろう。

しかし、どちらも馬鹿げた能力だ。


特に『系譜付与』、これはつまり、アリスたちも特性を得ることができるということだ。


早速、みんなを集めようとしたが、アリスとラキナは食事を、アイナとセナ、それからサクラはこの国の人たちと会話を楽しんでいた。


「後でいいか」

「別に、呼ぶ必要はないぞ」

ラキナ母、改めレイアさんが肉を頬張りながらやってきた。

肉好きは親子揃ってなのか。


「どこからでもいいってことですか?」

「ああ、関わりのない者には触れる必要があるが、そうでないのなら触れる必要もない」

だったら・・・・。

みんなに、付与することをイメージしてみる。

すると、アリスがこちらを振り向いた。


「あいつは、どうなっておる」

レイアさんが呆れていた。


「普通は、気がつかないんですか?」

「ああ、娘も気づいていないだろう。普通は、あの反応なんだが」

そういえばアリスは、昔から俺が関わると異常なまでに敏感だったな。


「そういえば、お前が、あの裏切り者、いや操り人形の大切にしていたものをぶっ壊したんだったな」

「ナーマのことですか?それなら後悔してませんよ」

「しなくていい。だが、気づかれた瞬間完全にオリジンに飲み込まれた奴がお前を殺しにくるぞ」

「わかってますよ。でも、そいつから逃げてたら、この世界も、俺の夢も終わりですから」


「夢?」

「はい、働かずにのんびり暮らすことです」

「ははは!!それは、遠い未来のことだな!!」

ツボにハマったのか、腹を抱えて笑われた。


「でも、いいじゃないか。意外と笑われるぐらいの夢の方が叶うもんだ」

「喜んでいいんですか?それ」

叶うのなら、別に笑われてもいいし、今の現状を見て自分でも笑いたくなる夢だし。


「これからどうするんだ?」

「とりあえず、日の国に帰って、刀が出来るのを待ちます。あと、半年以上かかりますから」

「刀か・・・・・。ならば私の鱗を持っていけ。その刀に混ぜるといい」

「いいんですか!?ありがとうございます!!」

レイアさんが、どこからか取り出した鱗を六枚、人数分もらいアイテムボックスにしまった。


「アル!!食べようよ!!」

アリスが遠くから呼ぶ。


「行って来い。私も勝手に楽しんでる」

「はい、ではまた」

レイアさんと別れ、アリスの元に向かうと、アイナたちから結婚の祝福をされた。


アイナから、

「次は私の番ね」

と言われ頬が赤くなるが、王都にいる両親に見届けて欲しいそうで、いつでも待ってると言われた。


何もいえず、立ち尽くしていると、足に何かが抱きついてきた。

「ん?」

下を見ると、女の子が足にしがみついていた。


「ありがとう!」

「え?」

満面の笑みを浮かべた女の子は、幼い頃のアリスにそっくりだった。


「すいません!!」

女の子よりも背の大きな男の子が、女の子をはがしながら謝ってきた。


「あー、いいよ別に」

「あのっ、僕頑張ります!!」

「うん、頑張って?」

何を頑張るのかわからないが、応援はする。


「ほら、もう寝るぞ」

「うん!バイバイ!」

「おやすみ」

おそらく兄妹なのだろう、手を振って離れていった。


二人が向かった先には、日の国にきていた女性がいた。

その人と目が合うと、お辞儀をされたが、その理由はわからない。


なんか知らないところで色々あったんだなー。


「人気者ね、アル」

アイナがその様子を見ていたのか、隣に来た。


「そうなのかな」

「それにしても、あなたが関わる国は、今のところ崩壊してるわね」

「ぐ、偶然だよ・・・・・」

「そうかしら?」

そうだよ!そんなこと間に受けたら、もうどこにも行けないじゃんか。


「帰るか、日の国に」

「そうね」

全員が集まったところで、日の国に転移した。





それから、何事もなく半年後。


「ほら、できたぞ。お前の刀」

「おおー!!」

ムラマサさんが、刀掛けに布を被せた状態で屋敷に持ってきてくれた。


「全く、天龍の鱗なぞ持って来よって・・・・」

「でも、喜んでたじゃないですか」

天龍は、レイアさんの異名のようなものらしい。


「ま、まあな」

刀鍛冶をしている者にとって、伝説級の素材を扱えるのは、永遠を生きてもそうそうないらしい。

それに今回の帝国の目的を聞いて、『賢者の石』の製造法が書いた書物を燃やしてしまったらしい。

超越者の弱点を克服し、完璧な不老不死になるのは、自分だけで十分なようだ。


「それより、早く見てみろ」

「は、はい・・・・・」

えらく緊張する。


パサッと布を取る。


「おお・・・・・・」

それは、黒の刀身を持ち、柄がなく、俺にとっての理想の刀だった。


=神刀・村正=

世界最高の素材を、世界最高の刀鍛冶が打った、奇跡の刀。

この刀に斬れぬモノなし。ありとあらゆるモノを斬る。

破壊不能。

所有者:アルベルト






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