第16話 英雄とは〜ラキナ母〜
〜少年視点〜
「ん・・・・・」
「あ、起きた?・・・・おはよう、小さな英雄くん」
誰?英雄?
目が覚めると、綺麗な女性の膝の上に寝かされていた。
「お兄ちゃん!!」
妹が泣きながら、抱きついてくる。
その小さな背中を撫でながら、体を起こそうとする。
「あ、あれ・・・・・?」
力が全く入らない。
腕は動くが、足腰に力が入らない。
「しばらくは動かんよ」
女の人二人を引きずりながら、別の綺麗な女性がそう言ってきた。
「あの、あなたたちは?」
「私は、モルガンよ。元三聖人の一人ね」
「私のことは、いつか教えてやる」
一人は、三聖人?だったという人で、もう一人は教えてもらえなかった。
モルガンさんに、体を起こしてもらい周りの様子を見る。
ミア様に助けてもらった人たちが、真剣に何かを見ている。
中には、祈っている人もいる。
なにが・・・・・・。
みんなの視線の先では、王と男の人が剣や槍を持ち替えながら、戦っていた。
二人の周りだけ、まるで別世界のようで目も心も釘付けになる。
「すごい・・・・・」
「私からしたら、君の方が凄いけどね」
モルガンさんが、僕を見て言う。
なんで?明らかに王と戦う彼の方が・・・・・。
「確かに、彼は凄いね。帝国最強の一人とか言われてきたのが恥ずかしくなるぐらいに」
でもね、と彼女は続ける。
「君には何もなかった。でも、これだけの人を動かした。きっかけは知らないけど、結果として、彼らの心に火を灯した。私には彼より、君の方が英雄に見えるよ」
モルガンさんは、連れて行かれた母が最後に見せたような笑顔を向けてくれた。
「あ、ありがとうございます・・・・・」
「お兄ちゃん、顔真っ赤だよ?」
「こ、これは・・・!!」
妹の無垢な目に怯んでいると
「おい、小僧。目の前の戦いをしかと見ておけ。あれが、お前の進む道の先にいるやつの戦いだ」
女の人二人をそばに転がしている綺麗な女性が、強めの口調で言ってきた。
「は、はい。ごめんなさい・・・・・」
僕の進むべき道・・・・・。
家もなく、両親もなく、妹と明日を迎えられるかもわからない日々を過ごしていた僕の生きる目的。
それができただけで、今日という日は僕が生まれた日に相応しい日となった。
でも・・・・・・・、
「あんなことは流石に・・・・・・」
目標にしろと言われた人は、剣で斬られても火が揺らめくだけで、全く効いていないし、剣を振っているのだろうけど全く見えない。王も何か力が働いているのだろうけど、彼の方が圧倒的だ。
「凄いね、お兄ちゃん」
「うん、すごい」
妹も、目を輝かせ離せなくなっている。
僕もいつか、あんな風になれるのだろうか。
その姿を見せるだけで、こんなにも心を動かせる人に、理由はないけど、全てを任せてもいいと思える人に。
今は、彼の姿を焼き付けるために、目を凝らす。
そんな少年を、ラキナ母は、横目で見ていた。
「そうだ、それでいい。憧れこそ、最高の糧だ」
大戦時に見ていた英雄と呼ばれた男。
娘が拾って育てたという、人間の男。
最初は、あの娘が人間を育てると言い出した時は、心配が天を突き抜けそうなほどだった。
しかし、奇跡が起きたのか、その人間がいつしか英雄と呼ばれ始めた。
さらには、彼に心を突き動かされた者たちが、誰かの英雄となっていく姿を見て、柄にもなく興奮した。
想いの丈の大きさこそ、英雄になるための養分となる。
彼に心を突き動かされた者たちは、例外なく、憧れという名の一種の病気にかかっていた。
そして、その者たちが、さらに憧れという病気をうつしていく。
大戦時は、世界は英雄で溢れていた。
世界を救う英雄から、家族を恋人を友人を救う英雄まで。
それこそが、私たちの創造主であるコウタロウさんたちの夢見た理想郷。
世界が英雄に溢れ、憧れという病気は、子孫代々続いていくものと、コウタロウさんたちは思っていた。
しかし、それをよく思わないどうしようもない、救いようのない者どもが世界に叛逆を開始した。
今のように、ステイタスと呼ばれるものがなかった時代、魔法という概念しかなかった時代。
人を殺すための魔法が次々と生み出され、反逆者どもは圧倒的な力をつけ、次々と逆らう者たちを殺していった。
そして、ついにはコウタロウさんたちまで。
さらに、最初の英雄である彼にも牙が向いた。
彼を助けようとした者たちが戦ったが、彼の肉体は助からなかったようだ。
仲間の一人が裏切り、その者が歴史を変え、最後の戦いまで付き添った女を裏切り者としたようだ。
本物の裏切り者は、世界にステイタスと呼ばれることとなるシステムを作り上げた。
叛逆者の一人が、神の座に至った。
生き残ったコウタロウさんとフォルナさんとは、別の領域、人の身から成った成り上がりの神。
言うなれば、神の出来損ない。
叛逆者どもは、次こそはと力を蓄えるため、信仰者を増やし、コウタロウさんたちのいる天界を狙っている。
私たちは、天界に繋がる門の『鍵』を守る守護者。
一つは、行方不明となっているが残りの五つを私たちが一つずつ守っている。
かつては、一つだった大陸を五つに分けてまで、守っている。
つまり、私たちが全員倒れた時、『鍵』は無防備となり、奴らの
「今代の英雄たちよ。頼むぞ」
できれば、私たちが戦う未来は訪れない方がいい。
間違いなく、世界が終わる。
ラキナ母は、未来を想い、アルベルトの戦いを見守る。
◆◆
「これで終わりだ・・・・・はあ・・・はあ・・・・」
「・・・・・・ぐふっ・・・・」
王に剣を突き刺し、勝ちを宣言する。
「我を殺せても・・・・まだまだあのお方たちには・・・・・遠く及ばんぞ・・・・」
その王の言葉を聞きアルベルトは、
「(関係ないよ。何年、いや、何十年かかってもいい、いずれそいつらの元まで辿り着く。誰かがやってくれる。英雄は俺『僕』だけじゃない)」
精神世界のマルスと同じことを言った。
「かつての英雄のようだな・・・・・・。我も・・・・・・」
最後、少し笑うような仕草をして、息絶えた。
アルベルトは、大罪が吸収されたことを確認して、概念魔法で消し去った。
「ふう、相変わらず休める未来が見えない・・・・・」
不労を目的としているのに、何かとやることが多すぎる。
一番良かったのは、不老不死の体を得たこと。
どれだけ時間がかかろうと、不労を手に入れる!!
作り出した世界を消し、『三千世界』も解除した。
「あー、これ疲れるな・・・・・・」
そのまま前のめりに倒れ、あとは来ているであろうみんなに任せることにした。
◆◆
「やるではないか。まるで、昔の英雄のようだったぞ」
ラキナ母は、娘がついて行っているという孵化間近の英雄の卵を見て言った。
彼に仲間と思しき者たちが駆け寄る。
そんなところも似ている。
仲間が勝手に集めっていくところも、女が多いことも。
「まさか、娘もそこに入るとは。世の中わからないことだらけだ」
足元で、気を失っているラキナを見ながら言う。
「「ん・・・・・」」
ちょうど、二人が目を覚ました。
「やっと起きたか、馬鹿ども」
私の声を聞き、二人は飛ぶように離れ、身構えた。
「後ろを見ろ」
「「?」」
こいつらは、本物の馬鹿なのか?
「アル!!」「アル坊!!」
「・・・・・・ふふ」
どうやら娘も、あの者たちと同じか。
長い時を生きる龍は、つがいを作ろうとはしない。
到達した者なら、なおさらだ。
私は、ある人間と寄り添い、あの娘を産んだが、本当に珍しいことだ。
「良かった・・・・・」
あの娘が、一人じゃなくて。
あの人が寿命で死に、娘が巣立ってからというもの感じたことのない孤独感に襲われ、辛かった。
娘がそんな思いをしないで済むようで、本当によかった。
「では、名前をつけてもらうとしようかね」
ラキナ母も、気絶して、アリスという女に膝枕されている英雄の卵の元へと向かった。
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