第15話 vs帝王

キィン!! ガン!!

アリスの剣とラキナの拳がラキナ母に迫る。

それを片手ずつで対処しながら、一撃一撃を確実に反撃していく。


「へぐっ!」

ラキナが回し蹴りを受け、飛ばされる。

そこを狙って、アリスがティルフィングで斬りかかる。

上から斬りかかってくるのを避け、足で剣を押さえもう片方の足で蹴り飛ばそうとする。


「お?」

足で押さえていた剣が消え、目の前に魔力でできた剣が現れる。

アリスは、その剣を魔力操作でそのまま顔に向け飛ばす。


ラキナ母は、初めて焦ったように顔をずらし、避ける。

アリスとラキナは、同時に攻撃に入る。

唯一できた一瞬の隙を狙う。しかし、ラキナ母は、魔力の剣を掴み、その魔力を我が支配下に置いた。


「「え?」」


魔力支配は、魔力の性質を十分に理解しないと不可能だ。

暴食などの本来からそういう効果のあるものは除き、初めて見た人の魔力の支配など、よほどのことじゃない限り出来ない。


ラキナ母は、アリスの魔力を二つに分け、二人にぶつけた。

二人は、両腕でガードするが、威力が半端ではないため、衝撃を殺しきれず、再び吹っ飛ばされる。




〜アリス視点〜


「いつつ・・・・・」

腕をさすりながら、立ち上がる。

ラキナ母は、最初の位置から一歩も動いていない。


強い。それに、イニクスさんと同じ気配を感じる。

ラキナの母親ならおそらく・・・・・。


「試しに・・・・・」

ラキナとの修行中に見つけたラキナの悪い癖。

母親も一緒とは限らないが、やってみる価値はある。


ティルフィングを持ち、ラキナ母に迫る。

当然のように、いくら近づいても動く気配がしない。


アリスは、当たらないギリギリのところに剣を振る。


「む」

ラキナ母が、反応する。


今!!


「ほう・・・。娘の癖がわかるということは、まだ直していなかったな?」

「げっ」

後ろから迫ってきていたラキナがあからさまにバツの悪そうな表情をした。


ラキナ母は、アリスの剣に対して初めて魔力を纏わせ、剣を殴った。


パキィィィン・・・・。


「うえ?」

(ああー!私たちの剣があぁぁぁ!!)


イリアさんも、これには発狂していた。


さらに、ラキナを踵で蹴り上げ、その頭を掴み持ち上げる。


「おい、我が娘。あれほど言ったのに、忘れていたな?」

「っ・・・・。そ、そんなことは・・・・」

ラキナは足をばたつかせ腕を蹴り続けるが、全く効いていない。


「ふんっ」

ラキナを地面に叩きつけ、めり込ませた。


「・・・・・・・・」

(ありゃー、ラキナさんがこんな目に・・・・・)

もっと、ちゃんと見ておくべきだった・・・。


ラキナを蹴り飛ばした光景が目に入った瞬間に斬りかかった過去の自分を恨んだ。


「小娘、お前もだ」

「え?」


ドオオオオオン・・・・・・。


アリスも、ゲンコツ一発で、地面にめり込んだ。



結果、ラキナ母は、アリスに歩み寄った一歩しか動かず、勝利した。




◆◆




「二人とも、久しぶり」

マルスは、ザックハードとエミリアの攻撃を凌ぎながら話していた。


「マルス・・・・・」

「あなたがいるってことは、大丈夫なのね」

二人も、安心しきったのか先程までの焦った表情は無くなっていた。


「ああ、だから今回は僕が二人を斬るよ」

「任せた」「よろしくね」

マルスも二人もアルベルトにこんな若いうちに親殺しなどしてほしくなかったのだ。


「聖剣:エクスカリバー」

光の奔流が門から出てくる悪魔と、二人を飲み込み消し去った。


「ん?」

マルスは、目を疑った。

二人は確実に消したはずだが、そこに二つの球体が浮かんでいる。


「あれ?生きてんの?」

二人の体はないが、球体から二人の気配を感じる。

あれは、魂だけが残ってるのか?


「もしかして、アル君が?」

精神世界から?

いや、そんなはずは・・・・・。

精神世界から本人に影響を及ぼすことができても、別の対象に干渉できないはず。


「もしかして、エクスカリバーも魔力だからそれを経由して?」

その予想は当たっていた。

アルベルトは、精神世界の縛りを理解していた。

それを逆手に取り、魔力さえ本人と繋がっていれば、他の対象物に干渉できる。

そう予想し、一か八かでやった結果がこれだった。


「これは、まあ、なんとも末恐ろしい」

混沌の時代と呼ばれる僕らの時代からの常識を簡単に覆すとは。

でも、おかげで僕もできることが増えるな。



「ハハハハッ!!やるではないか。これが破られたのは久しぶりだぞ」

ロドリゲスは、アルベルトに憑依しているマルスに上機嫌に話した。


「あなたは、ずっとこの国を支配してきたんですよね」

「ああ、そうだが?・・・・貴様は誰だ?」

明らかに、口調から雰囲気まで変わったアルベルトにロドリゲスも不審がった。


「そんなことはどうだっていい。それよりも、この世界でここまでできるのは、その大罪能力のせい?」


本来、『三千世界』を使用した世界の中でアルベルト以外の生物が優位に立つことなど、あり得ないこと。

それを、目の前の王は可能にしている。


「そうだ。我が『傲慢』は、いつだって我の上に立つものを許さない」


つまり、この国は、この男がいる国は、永遠にこの男の手のひらの中だということ。


(ありがとう。マルスさん)

回収した?

(はい。両親の魂は俺の精神世界に)

そうか。なら変わるよ。

(はい)


「なら、俺がお前を殺さないとね」

「元に戻ったのか?」

「ああ、その大罪能力もらうよ」

「貴様らには、賢者の石の入手を阻まれたからな。大罪は我が貰い受ける」


賢者の石は、マルスの血を使った武器で死ぬ超越者の弱点を完全に消すもの。

肉体や魂ではなく、存在そのものが不滅となる。

たとえ、肉体や魂が消えても、存在が世界にとどまるため、復活が可能になる。


「お前には、実験台になってもらう」


ーー忍術:影分身


「日の国の秘術か」

「さあ、一対十だ」

影分身は、本体と何もかもが同じだ。

つまり、『三千世界』を使ったアルベルトが十人だということ。


「なら、我も使おうか」


ーー傲慢


ロドリゲスが十一人になる。


「え、そういうこと?」

「我の上に立つとは、何も立場や力だけではない」

反則すぎる。

『三千世界』が効かず、それに似た能力まで使ってくる。


「天敵か」

アルベルトは、一人つぶやく。

その間に、お互いの影分身が戦い始めた。

これで、二対一。数的有利も諦めた。


対強敵用の魔法が全て通じない相手。


「さて、どうしよう」

刀もまだ完成していない今、いまだに使い慣れない神威しかない。


「来ないのか?なら我から行くぞ!」

迷っている間に、ロドリゲス二人が魔法を展開し始めた。


「やるしかないか」

魔法は、暴食を常に使っているため、自動で吸収してくれる。

目を閉じ集中する。

まだ、神という存在の全体を把握できていないため、神威を体に固定することができない。


「っ・・・・・。神威・・・・発動」

存在が一気に昇華し、軋み始める。


相変わらず、これには慣れない。

創造神コウタロウさんと天界でやったときは、世界が神の領域だったため、まだマシだった。


黒髪は純白に変化し、肩ぐらいまで伸びる、

真っ白な装束を身につけ、汚れのない姿を象徴したものとなる。

手にも、純白の刀を持ち、どこを見ても白一色となった。


魔法が目の前に迫り、暴食によって吸収される。


「それが、暴食と貴様の切り札か」

「ま、まあね」

「随分と苦しそうだな。いつまで持つかな?」

ロドリゲスは、背後にいくつもの小さな魔法陣らしきものを出し言った。


「すぐに終わらせるさ・・・・・」

「では、試してみようか。貴様には魔法が効かないからな」

上げた手を下ろすと背後の魔法陣らしきものから、剣や槍が出てきた。


「それって・・・・・!!」

いやいや、反則だって。


(あれは、君の記憶にあった・・・・・)

そんなのまでわかるの!?

(うん。暇だったからね)

もうちょっと他のことしといて!?

(いや、すでに君の両親もハマってるから)

ええー・・・・。


「どこまで耐えられるかな。ちなみにこれらは魔力を全く纏ってないから、暴食は使えんぞ?」


全部、ただの武器か。

これは、斬り落とすしかないな。しかも、いつの前にか背後にいる奴と二人分。


「やれ」

その声と同時に、剣と槍が一斉射出された。


「やってやる!!」

神力で作った刀を振るい、最初の一本を斬り落とす。

コンマ1秒にも満たない時間の中で、わずかなずれを察知し、全方位から来る剣や槍を斬る。


概念魔法などが使えればいいが、アルベルトが使う反則級の攻撃能力には、魔力を纏っている対象に限るという条件がある。

ロドリゲスは、それを知ってか知らずか、アルベルトの唯一の弱点をついていた。


(ねえ、アル君)

なんですか?

(もう一段階きてるよ)

え?


ロドリゲスの方を見ると、次の準備をしていた。


魔力使いますね。

(大丈夫かい?その状態で使うのは負担が・・・・)

でも、使わないと無理でしょ。

(そうだね。じゃ、頑張って)

はーい。


マルスさんが干渉できるのはあくまで精神だけ。

憑依すれば肉体にも干渉できるようだが、それでは神威が使えない。

マルスは、神格を下ろすことはできるが、自ら神の領域に入る神威は使えない。


一射目が終わり、二射目が放たれた瞬間に、体を魔力の流動体に変えそのままロドリゲスに迫った。


「そんなこともできるのか」

ロドリゲスは、自ら武器を持ち流動体となったアルベルトを斬る。

「!?」

剣はアルベルトの体を斬ったが、魔力の塊を通り抜けただけだった。


「そういうことか!!」

ロドリゲスは、慌てて分身を呼び寄せ身代わりに置いた。

アルベルトが、その分身を通り抜けただけで、分身が魔力暴走を起こし、爆散した。


「くっ・・・・」

ロドリゲス本体に当たる前に、体に限界が来た。

流動を止め、飛び上がった状態でロドリゲスに斬りかかった。


「貴様、さっきから何をしている?」

アルベルトは、流動体の時も、今も、あたりに魔力を散らしている。


「さあ、何かな?」

「何をしようと無駄だがなっ」

アルベルトを押し返し、距離を取る。


他所で戦っていた分身が互いに消え、前後のロドリゲスと二対一となる。


「これで一対一だな」

「何を・・・・・・!!」

アルベルトの背後では、ロドリゲス最後の分身が、地面から出てきた魔力の棘に串刺しにされていた。


「まさか、魔力を撒き散らしていたのは」

「これが、俺の魔法設置だ」

今は、固定になってるけど。

魔力が、微量でも干渉できればそこにどんな魔法でも設置・固定できる。

今回は、魔力槍を設置したため、分身がいい所に来た時に、魔法を発動させた。


「お前は、どこに逃げようが魔法の射程内だ」

「まさか、分身にも!?」

「当たり前じゃん」

忍術を教えてもらったのも、これが目的。

複数人で、超広範囲に魔力を撒くことができれば、どこからでも、敵を狙える。


「面倒な・・・・・」

ロドリゲスは初めて、顔を顰めた。

「傲慢を全開で使うしかないな」

ロドリゲスは、傲慢を全開にし、あらゆる事象で、上位に立てるようになった。


「傲慢の弱点も俺と同じだろ?」

「・・・・・・・」

「やっぱり、魔力を使った攻撃や事象にしか反応しないんだろ」


お互いの弱点は同じ、あとはどちらがそれをうまく使い、優位に立てるかどうか。


ロドリゲスが射出した剣を一本手に取り、剣先を向ける。

「勝たせてもらう」






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