第14話 母

「おやめください!!お母様!!」


「・・・・・は?」

お母様・・・・・!?

バハムートさんが、ラキナのお母さん!?


「ちょ、まじで?」

「ああ、妾の母じゃ」

小声で、確認を取る。


「なんだ、ラキナではないか」

姿からは、想像できないような透き通る声が発せられた。

ラキナと同様に、黒い霧に包まれ小さくなっていく。

そして、黒い装束を着た女性となった。


「こんなところで何をしておる」

「この方達と旅を・・・・」

だめだ。笑い出すのを我慢できなくなりそうだ。

こんな、丁寧な口調は似合わねえ!!


「ど、どうも」

バハムートさんに顔を向けられ、笑いが緊張に変わる。


「ようやく、引きこもりをやめたか」

よくやってくれた、と肩を叩かれた。

バッとラキナに顔を向ける。

するとラキナも顔を背ける。


引きこもりだったのか・・・・・。


「しかしな、そこの人間が私と戦いたがっているようなのでな」

そう言って、帝国の王を見る。


「その通りだ。我が悲願は貴様を殺すこと、大戦のやり直しだ」

「ふむ・・・・・」

見定めるように、王を見る。

そして、なぜか此方を見る。


「よし、よかろう。ただし、条件がある」

「なんだ?」

「このこと戦って勝てたらよかろう」

「え?」

俺巻き込まれるの!?


「その小僧が何か・・・・・」

「これは、私の兄の名付けをしたみたいだからの」

イニクスさんのことか。


「なんで・・・・・」

すると、顔を近づけ、耳元で理由を言われた。


「ああいうのは面倒なんだ。もし、君が勝ったら礼として、私にも名付けをさせてやる。それでどうだ?」


「ええ・・・・・・」

提案は魅力的だが、名付けは結構キツイ。

それに、向こうの王もめちゃくちゃ睨んでるし。

正直、いや・・・・・!!


ギシギシッと肩の骨が鳴る。


「どうだ、ん?」

「誠心誠意やらせていただきます!!」

強ええええ!!


渋々、王の元へと向かう。


「じゃ、じゃあ、お願いします」

「そうだな。ならば死ね」

いきなり、あたり一体を吹き飛ばしそうな魔法を撃ってきた。


もちろん暴食で喰べる。


「大罪・・・・・?そうか貴様がアルベルトか」

「知ってたのか」

やっぱり、顔は割れてなかったな。

能力だけが多少知られてただけか。


「あのお方の邪魔をするものは、殺すだけだ!」

「なんか、目的変わってない?」

魔法を吸収しながら、そう言う。


「変わってなどおらん。お前を殺し、そこの龍を殺せば最大の障害はなくなる」

「無理に決まってんだろ・・・・・・」

もし、俺を殺せても、流石にバハムートさんは無理だろ。


「それはどうかな?」

「ん?」

王の周りに、門が現れる。


「これは!!」

ミアさんが慌てて、周囲の人たちを遠くに転移させる。

全員がバハムートさんやラキナの後ろに避難する。


「獄門:開門」

者が開き出てきたのは、


「サタナキア?」

殺したはずのサタナキアに、同じ気配の悪魔、さらには、エリスと戦っていた悪魔、ゾロゾロと悪魔や人間が出てくる。

最後に出てきたのは、両親だった。


「なんで・・・・・・」

頭が追いつかなくなった。


「この者らは貴様の親なのだろう?ソロモンが真っ先に殺しておったわ」

「・・・・・・・・」

ああ、ナーマを殺しておいてよかった。

これで、おあいこだよ。大切なものが殺されたから、殺し返した。


「でも、お前は許さない。両親も、戦いの果てに死んだ、文句は言えない。だが、弄んだお前だけは許さない」


概念魔法で、周囲の空間を異界へと変える。

そして天界や霊峰以外で使ったことのなかった『三千世界』を発動する。

これで、俺の存在は、この世界で最上位の存在となる。


「覚悟しろよ。クソ野郎」

「お前に、この数と、両親が殺せるかな?」

「・・・・・・・・」




◆◆




「ラキナ様、これは一体・・・・・」

「アル坊が、自分を最強にするための最適手段だと言っておったが、詳しくは知らん」

ミアの疑問に、知っている範囲で答える。


「娘よ。あの少年は、なぜ兄に認められたのだ?」

「それは・・・・・」

それは、まだ確証に至っていない。

アリスは知ったようだが、まだ教えてもらえていない。


「おそらくですが、創造神様と知り合いなのかと」

「コウタロウさんと?」

お母様は、珍しく驚いていた。


「それは、是非とも話を聞きたいな。それに、名付けもしてもらおう」

この人の特性を引き継いだアル坊は、どれだけのものになってしまうのか。

目の前に展開される別世界などを構築せずとも最強になれるのではないか。


「じゃが、それもあの二人をもう一度、今度は自らの手で・・・・・」

ザックハードとエミリアが出てきた時は、流石に驚いた。


親殺しは、どんな敵を殺すよりも辛いものだ。


「どうなることか・・・・・」




「おい、娘」

「は、はい!」

モルガンは、気を失った少年を抱えながらラキナ母の声に答えた。


「その子供を見せてみろ」

「え!?」

思わず、子供を引き寄せる。


「いいから、悪いようにはせん」

「・・・・・・は、はい」

謎の威圧感に負け、少年を渡す。


「なるほど、英雄の器か。よかろう」

そう言うと、ラキナ母は、少年の胸に手を当て何かを流し込んだ。

ビクンッと少年の体が跳ねる。


「ちょっ、ちょっと!!」

「大丈夫だ、ただ私の加護を一時的に与えただけだ。この子の器が大成した時までのな」

その顔は、本当の子供を見るような顔だった。


「お母様、どう思いますか?」

ラキナが、アルベルトたちの戦いを見ながら聞いた。

「ラキナ、気持ち悪いぞ。その喋り方」

「なっ!!」

ラキナはプルプルと震え、声を荒げて叫んだ。


「お前がそうしろと言ったんじゃろうが!!」

「誰がお前だ!!」

ラキナ母は、思いっきりラキナを殴った。


「え?」

モルガンは、あまりの速さにラキナが壁にぶつかって初めて、殴られていることに気がついた。


ラキナの方を見ると、フラフラと立ち上がり、拳に魔力を集めていた。


「なんじゃ、こんのくそババア!!」

飛び上がり、母の顔面を狙う。

ニヤニヤ笑いながら、迎え撃とうとして構える。


「!?」

ラキナ母が、突然横を向く。


「アリス!!」

ラキナ母に向かって、アリスが剣で斬りかかっていた。

ラキナは、このままいけばアリスの刃が拳に当たると思い、空中で一回転して、踵落としに変えた。


「私に一撃でも入れられたら、褒美をやってもいいぞ?」


「ぬかせ!!」

「はあ!!」

ラキナ母は、アリスの剣を掴み、ラキナの蹴りを受け止め、足を掴んだ。


「「!!」」

「まだまだだな!!」

二人を、投げ飛ばし、笑い声を上げた。





「ちょっと、なんか始まっちゃったけど。あれ誰なの?」

「さあ、でもとんでもなく強いことはわかるな」

「なんかラキナ様に似てません?」

アイナたちは着いた瞬間に始まった戦いについていけなかった。

体ではなく思考が。


「まあ、でもなんとかなるわね」

「「ですね」」

諦めた。

解決しようとしても、どうにもならないことを何度も学んだ。




「ねえ、ラキナちゃん。あれ誰?」

「妾の母じゃ」

「え、攻撃してよかったの?」

「ああ、一発ぶん殴ってやりたいぐらいじゃ」

「ならいいね。あの、余裕を引っ込めてやりたい」

二人の視線の先には、腰に手を当て、ゲラゲラ笑っているラキナ母の姿があった。


「行くぞ、アリス」

「うん」

二人は立ち上がり、それぞれの武器を構えた。


「お、来るか?」

それを見たラキナ母も構える。


最強の母親vs娘+最強の弟子の戦いが始まった。




◆◆




アルベルトvs帝王の戦いで初めて膝をついたのは、


「はあ、はあ、はあ・・・・・・」

「こんなもんなのか?」


アルベルトだった。


「おまえ・・・・・!!」

帝王ロドリゲスは、獄門から召喚した悪魔たちを操り戦っている。

悪魔たちは問題なく、一撃で屠れるが、最後に、両親が立ち塞がる。


そして、一瞬でも躊躇うと新しく悪魔たちが召喚され、ロドリゲスが遠退くといった状況だった。


「アル、躊躇うな!!」

「そうよ。私たちは大丈夫だから!!」

両親は、そう言うが、その表情を見たら斬ろうにも斬れない。


「だったら、涙なんか・・・・!!」


それが、アルベルトが最後に躊躇ってしまう理由だった。

ただの屍として、操り人形になっていたら、すぐさま斬っていたが、会話ができる以上、感情がある以上、躊躇ってしまう。


「くそっ!!」


戦いで初めて、斬れない相手が敵となった。

ここを乗り越えなければ、ロドリゲスには指一本届かない。


(僕がなんとかしよう)


アルベルトの精神世界で、マルスが干渉を決めた。





「ったく、性格悪すぎだろ・・・・」

「「アル!!」」

意識はあっても、自我をコントロールできずアルベルトに攻撃をしようとする二人が、片膝をつくアルベルトに声を掛ける。


「くっそ・・・・・」

戦いづらいのは、気持ちの問題だけではなく、二人が癖をよく知っているからだった。


(アル君、ごめん)

え?


ふっ、と意識が遠のく中で、両親と話す、マルスさんの声がした。








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