第13話 奪う者
日の国周辺では、暴走する聖魔の攻撃をアルベルトが全て吸収していた。
生涯をかけた天魔法を一度見ただけで、習得し、さらにはアレンジを加えてくる。
あの一撃は、まさにマーリン自身が創り上げたかった理想の天魔法の形。
それを、20年も生きていない若者が目の前で再現したのだ、心中は穏やかではない。
「全属性複合魔法:天の一撃!!」
上空から、アルベルトめがけて全属性魔法が交わりながら放たれる。
「だから、無駄だって・・・・・」
手のひらを向け、その魔法を受け止める。
暴食が喰らっていく。
マーリンの魔法は、全てアルベルトの魔力へと変換される。
今のが、最後の悪あがきだったのかマーリンが地面に降りる。
長杖を支えに息も絶え絶えだ。
「もういいかな?」
「ま、待て・・・・。まだじゃ、こんなところで儂は・・・・」
立つのもやっとじゃんか。
(この人、僕と戦った時もそうだったなー)
そうなんですか?
(うん。しつこかった)
どうやったら終わります?もう息の根止めたほうがいいですか?
(最終手段はそれでいいんだけど・・・・。あ、そうだ)
なんですか?
マルスさんの提案を試してみることにした。
「これが最後じゃ、これで貴様が生き残っていたら・・・・」
まだそんなこと言ってんの?
「あー、もういいですよ。あなた、弱いから」
これでいいのか?
「なっ・・・・・・!!」
お、効いてる?
マルスさん曰く、こういう勘違い人には直球の言葉が一番効くらしい。
「貴様ァ!!」
ちょっとマルスさん!逆効果じゃん!!
(あれ、ごめん)
もういいです!倒します!
「概念魔法:消滅」
マーリンの存在が消失した。
概念魔法は、対象に特定の概念を与える魔法。
自分よりも格上には効かず、最悪跳ね返りがあるが、格下の時には必中の最強魔法だ。
イニクスさんに、創造神が使っていたと、一から教えてもらった。
「で、あなたは?」
結界の中で、立ち尽くす女性に話しかけた。
「うへ!?」
「いや、聖魔は死んだけど、あなたは?帝国の人でしょ?」
「いや、その・・・・・」
「戦うなら、またジャンケンでもするけど」
後ろにいたアリスたちが、めんどくさそうな顔をした。
「た、戦いません!!」
「なら、帝国で従くべき側を判断してくださいね」
「え?」
女性を帝国に転移させ、食べ直しのために戻っていった。
〜帝国の中央広場〜
「うぎゃっ!!」
突然の転移に体が反応せず、尻から落ちた。
「っつう〜」
他人を転移させるって、どんだけ・・・・・。
戦わなくてよかったー。
お尻をさすっていると、怒号がきこえてきた。
「やれっ、坊主!!」
騎士に押さえつけられる大人が鉄パイプを持つ子供に叫ぶ。
その少年は瓦礫の山を駆け上がり、上にいる貴族の男に向かって飛んだ。
これは、明らかな叛逆だ。
城も崩壊し、帝国などと語れる状況ではないが、明らかな反逆だ。
「そういうことね・・・・」
最後に、あの青年が、怪物が言ってたのはこういうことか。
その少年めがけて騎士の一人が、躊躇うことなくその命を散らそうとしている。
「私を助けろ!!モルガン!!」
貴族が、こちらに気付き叫ぶ。
三聖人とはいえ、若いゆえ、女ゆえに発言権は低い。
その声に反応し、子供の近くまで飛んだ。
日の国に行くまでは、この状況だったら真っ先に少年を斬っていた。
しかし、本物の恐怖を、そして少年の顔を見た今は・・・・・
「そのまま行きなさい」
「・・・・・・・・・」
少年も覚悟を決めきっているのか、反応せず、標的だけを見ている。
「何をしている、モルガン!!」
貴族の男が叫ぶが、無視して、騎士を斬る。
「ああああああ!!」
「な、や、やめ・・・・・」
ガンッ!!
鉄パイプが、貴族の頭を陥没させる。
即死だ。
「少年、よくやったよ」
今では、大した立場ではないが、一人の大人として帝国の未来を考えたいものとして、そう言った。
「!!」
少年を抱え、その場から離れる。
私たちがいたところには、巨大な穴が。
「ロドリゲス様・・・・・」
「おい、モルガン。何をしておる。マーリンはどうした」
「聖魔マーリンは死にました・・・・」
「なんだと?」
帝王の覇気が、魔力が大きくなっていく。
腕の中の少年は、震えながらも意識を保っていた。
「まあ、良い。あとはお前だけだ、モルガン」
「え?」
帝王が、手を上に向けその魔力を解放する。
それは、先ほど感じたばかりの天魔法だった。
「なぜ、それをあなたが・・・・・」
「ああ、まだ言ってなかったな。これが我が原初『奪うもの』の力だ」
超越者?
嘘だ・・・・。この王は、十年前に即位したはず。
「あなたは、一体・・・・・」
「これでいいか?」
王が空いている手を顔に被せ、退けた瞬間そこに現れたのは・・・・
「先代!?」
「そう、これが我が力だ。帝国は、我が一から作り上げた我のための国だ」
王は崩壊でついた傷を回復魔法で治しながら事実を言い放った。
「そ、それ、お母さんの・・・・・」
腕の中で震える少年が、震える声で言った。
「ああ、この能力の持ち主の子供か。いやぁ、建国以来、なかなか聖魔法の使い手が現れなくてな、お前の母親を見た時、歓喜したもんさ」
「じゃあ、お前が父さんと母さんを!!」
「そうだ。我が原初は、殺した者、我の魔力を埋め込んだ者が死んだ時に、その能力を我がものにするというものだ」
出鱈目過ぎる!!
あの青年ほどではないが、野放しにしていたらとんでもないことになる。
「そう、そういうこと」
後ろから、魔法士団団長のミアがようやく腑に落ちたと言いたげな顔でやって来た。
「ミア様?」
ミア様は、私にとっては憧れの存在で、姉のような人。
「モルガン。あの子には会った?」
「あの子?・・・・・日の国の青年ですか?」
「会ったみたいね」
「ミアか。お前のことはいずれ殺そうと思っていたのだがな」
「やってみなさい」
魔力が衝突しあい、火花が散っている。
「ミア様!ここでは!!」
「・・・・・・。そうね」
「みんな、逃げなさい」
「え?やるんですか?」
「本当はそうしたいのだけど、もっとやばいのが来てるわね」
ミア様の額には、汗が伝っていた。
「あなた、一体どういうつもりなの?」
「どうもこうも、ようやく我が力が天に届いたということだ」
天に?
一体どういう・・・・・。
「うっ・・・・・」
突然襲ってきた圧倒的な威圧に、吐き気がした。
これは、空から?
大きな影が、私たちを隠す。
見るまでもない。これほどの威圧感を放つ存在は、空に関していえば、たったの一体。
「バハムート・・・・・・」
空の覇者が、帝国上空に現れた。
◆◆
「んむ!?」
ラキナが突然むせ出した。
「おいおい、大丈夫か?」
「アル坊。帝国に行くぞ」
「え、今から!?」
「急げ!!」
「は、はい」
アリスたちは、後から追いかけると言い、食べ進めていた。
そんな、殺生な。
「おい、急げ。転移するぞ」
「はいはい」
二人は、帝国へ転移した。
「着いたけど・・・・・、ラキナ!?」
着いた瞬間、ラキナは走り出した。
「お、おい・・・・・・・!!」
大きな気配を感じ、空を見て驚愕した。
あれって・・・・・、守護者最強のバハムートさんじゃ・・・・。
それに、下にいるのは帝王に、ミアさん、それから日の国に来た女性と国民たち。
バハムートさんは、口に魔力を溜めている。
「まずい!!なんとか防がないと・・・・!!」
ラキナが真っ先にバハムートの下にたどり着く。
「おやめください!!お母様!!」
・・・・・・・・・・・・・・・・。
「は?」
あのラキナから、似つかない口調と、お母様、という言葉が出たことに一番驚いた。
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